第14話 仕事仲間と飲み会with元教え子 中編

 

「「慎太郎(有賀さん)まさか……?」」


「いやいや、違うからな!? 普通に生徒を名前呼びするだろ!? その延長で他意はないって!」


「え~っ! この前の夜だって、あんなに激しく求め合ったのに~? 有賀っちひーどーいー。私とは遊びだったの〜っ??」


「それゲームの話だからなっ!? スマ○ラで俺が一方的に負けただけだからっ!」



 ニヤニヤと意地の悪い笑顔が張り付いてる。

 こいつ……わかっててやってるな。


 俺が助けを求めるように、二人を見ると何故だか奏に同意するように二人は頷いていた。



「慎太郎は誰にでも優しいし、怪しいなぁ……」


「わかります。だから、勘違いする人が増えるんですよ」


「くっ、慎太郎がいなければ僕がモテモテに……」


「それはないですね。一度転生でもしてください」


「やっぱり冷たい!!!」



 俺たちが盛り上がっていると、店員さんが「すいません」と申し訳なさそうに扉を開けて入ってきた。

 話が中断され、みんなの視線はグラスへと変わる。



「お、お待たせしました〜。生ビール2つに、ウーロン茶、それからモスコミュールをお待ちしましたー」



 お通しとグラスを机に置き、そそくさと退散していった。

 置かれた飲む物に手を伸ばすと、奏のお酒を見て佐原さんが目を見開いた。



「ちょっと雨宮さん! なんであなたは、そんなお洒落な雰囲気のを飲んでるですかっ!?」


「え、お洒落って……? あー、もしかしてリカちゃん…………やっぱり、なんでもなーい」


「気になるから教えてください!!」


「あははっ! 揺らさないでよぉ~」


「わかりました……。馬鹿にしてるんですね……またからかってるんですねぇ~!!」



 じゃれつく二人の様子を微笑ましい気持ちで見る。

 普段は人と接するのが苦手な佐原さんも、奏相手だと楽しそうだなぁ。


 俺は横目で敦を見ると、何故か敦は目を細めたり、何度も目を擦ったりしていた。



「じゃあリカちゃん。とりあえず、これ飲んでみる? お酒をそんなに飲んだことがなくても飲みやすいと思うよっ!」


「本当……ですか?」


「ほんとほんと。でも、得意不得意はあるから飲めるやつを探してみよ? 私がオススメを選んであげるねッ」


「……いいんですか?」


「興味があっても中々手を出せないってことあるし、飲みすぎないように見ててあげる! それでも、もし酔っちゃったら任せてよ〜。これでも介抱は得意なんだからっ!」


「うん……じゃあ、お願いしていい?」


「えへへ、もちっ!」



 佐原さんは恥ずかしそうに目を伏せる。

 お酒を飲んでもないのに、耳までが赤く紅潮していた。



 そっか。

 俺は気がつかなかったけど、奏は気づいてたのか。


 確かに佐原さんって飲み会に行くとかって聞いたことない。

 そういった集まりを断っているとこしか、見たことがなかった。


 そんなことを奏は知らないはずなのに……。

 様子だけで察したのかよ……相変わらず、すごい洞察力だなぁ。


 俺が奏に感心していると「なぁ慎太郎」と隣にいる敦がそっと耳打ちをしてきた。



「うん? もしかして、美人が楽しそうにじゃれてると絵になるって話か?」


「それは思うけど……いや、今はそれじゃなくて」


「歯切れが悪いなぁ」


「だってさ。僕、鉄仮面があんなに豊かなの初めて見たんだけど……?」


「うん? 佐原さんって最近では、いつもあんな感じだぞ??」


「え……マジ? あー、そういうことか……はぁぁ。これだから慎太郎は……」


「なんだよ。一人で納得して」


「僕にも春よこぉ〜い!!」



 祈るような仕草をして、天を仰ぐ。

 その姿に驚いた女性陣は苦笑していた。


 さて——



「こうやって集まって飲むなんて、久しぶりだから今日は飲むぞ〜! みんなありがとね」


「おっ! 慎太郎もやる気だね……。僕も負けてられないな」


「アハハッ! いいじゃん! じゃんじゃん飲も〜っ!!」


「みなさん……飲み過ぎて、お店に迷惑とか泥酔して倒れるとかやめてくださいね。久しぶりで浮かれるのもわかりますが……」



 俺は結婚していたから、飲み会に行くことができなかった。

 だが、それは二人と似たようなもので就業時間が必然的に後の方になる業界だから、業務後に飲むとなると終電を超えてしまうことが多い。


 だから、機会があっても中々集まれることが少ない。

 でもそんな中、集まってくれたわけだから……それは感謝しかないよな。


 俺達は『乾杯!』と言ってグラスを合わせた。

 それからビールをくぅーっと飲みすすめ、喉がもっとビールを欲しがってすぐにグラスは空になった。


 やば……キンキンに冷えてて、超美味い。


 息をふぅと吐き、椅子の背に寄りかかると「ふふっ」と笑い声が聞こえ、ちょんと足を蹴られた気がした。



「どうした、奏?」


「みんなで飲む、味はどう?」


「ははっ、最高だね」



 俺がそう言うと、彼女は「よかったよかった〜」と微笑んできた。

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