第9話、外の世界

「ドームの中には、人の居住区と動物のエリアとを作った。

それが、そもそも塀の中と外の違いじゃよ」


「だから、猛獣もいるんだ」


「そういうことじゃな。

しばらくはそれでよかったんじゃが、1000年過ぎた頃から、出生率が極端に下がってきおった。

今のわしのような生活様式が主流になっておったからのう」


「出生率以前の問題だと思うけどね」


「その時に、中央制御装置が導き出した答えが外で暮らすことじゃった。

半強制的に住民は外で暮らすことを強いられたのじゃ。

わしのような一部のエンジニアを除いてじゃが」


「爺さんはエンジニアなんだ」


「エンジニアの中でも、出生率の低下があったからのう。

わしが生まれた頃には、もう塀の内側で暮らすものは10人以下じゃったよ。

中で最後の子供がわしというわけじゃ」


「エンジニアがいなくなったらどうなる?」


「中央制御装置がこれまでと同じように対応するんじゃが、今回のような例外的な事態に対応できるかどうかじゃな」


「例外って、ホムンクルスの妊娠ってこと?」


「そうじゃ。

外の人間も減少の一途じゃったから、それを補完するために人工授精と育成の研究が始まったのじゃが、生育機を出たホムンクルスの寿命は約20年。

これまでは、生まれてから死ぬまで、受胎した例はなかったのじゃ」


「ノルンが初めて……

待てよ、じゃあノルンはあと10年も生きられないってこと?」


「生育機で10歳まで成長しとるから、実年齢で30歳じゃな。

じゃが、妊娠がどう影響するかは未知数じゃよ」


「……少なくとも、あと20年程度は生きられると……」


「もう一つ問題があってな。

わしがどこまで生きられるかじゃよ。

じゃから、ジャギーよ。お主にエンジニアになってもらうために呼んだのじゃ」


「エンジニアって、なにすんだよ」


「中央制御装置に命令するだけじゃよ。

なに、睡眠学習を使えば、正味3日で基本的なことは教えられる。

あとは、中央制御装置と対話しながら覚えていけば大丈夫じゃ」


「まあ、3日くらいなら」


「それとな、外の世界を解放するかどうか見極めるのじゃ。

観測では放射線の影響は問題ない。

ここ以外の施設がどうなっているのかも分からない。

人工衛星が機能しなくなってから、他所との通信も途絶えておるからのう」


「ドームの外か……」


「それを含めて、お前に託そうと思って居る。

わしはもう、出歩けんのでな」


「このロボットでいけるんじゃないのか」


「こいつが機能するのは電波の届く範囲だけじゃよ」

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