第8話、塀の内側へ

ここにきて価値観が逆転した。

機械獣メカビーストは人間を守るために存在し、塀の中の人間?も塀の外の人間を擁護している。


数日後、メイドロボがスラリンの希望する飛行ユニットと小型核反応ユニットを持ってやってきた。

ほかにも用途の分からないチューブや機器類を搭載したコンテナ車と一緒にだ。


スラリンは早速二つのユニットを取り込み、二人乗りの飛空艇へと変貌を遂げた。

もちろん、ハウスユニットの中では人型である。


俺はスラリンと試験飛行に出る。

速度はエアーバイクとは段違いだった。

そして、この生活圏が巨大なドームに覆われていたことを知ったのだ。


帰った俺はエルダに尋ねた。


「この世界はどうなっているんだ。

ここのドームは何のためのものなんだ」


「申し訳ございませんが、私にはそれにお答えする権限がありません。

必要があれば、本部にて私の管理者からお答えすることは可能です」


こうして、俺は塀の内側に招かれることとなった。

スラリンは留守番である。


塀の内側……というよりも、内側全体が一つの建物だった……の通路を進む。

通路といっても、廊下が動くため、運ばれているにすぎない。


いくつもの廊下を乗り継ぎ、俺はとある部屋にたどり着いた。


「すまんのう、こんなところまで来てもらって」


「人間じゃないのか?」


「人間じゃよ。

わしの体はそこのカプセルに入っておる。

じゃが、もう動ける状態ではないので、こうして機械の体を操っているのじゃ」


「動けないのか」


「年齢にして912歳じゃからな。

いつお迎えが来てもおかしくないのじゃが、この都市の権限を誰かに押し付けるまでは死ねんのじゃよ」


「権限?」


「ああ、わしはここヨコハマシティーの最後の一人じゃ。

わし以外の者は死んだし、それ以外の者は外に出て行ってしもうたわい」


「外に?」


「まあ、話すと長くなるからな。

とりあえず座るとよい」


床から椅子がせり出してきた。


俺は、いわれたとおり座った。


「何か飲み物でも出そうか」


「いや、いい」


「では、始めるかの。

すべての起こりは、3000年前の局地的な戦争じゃ」


「戦争があったのか」


「ああ、そして、こともあろうに、原子力発電所を破壊しおった」


「それって……」


「放射性物質が飛散し、制御不能な状態のまま放置せざるを得ない原発が数十基じゃ。

ちょうど、氷期の時期が重なっておったので、各都市はここと同じようなドーム都市を建設し、一部の住民を収容した」


「一部なのか?」


「ああ、全部を収容するには食料が足りんからのう。

子供たちや若い夫婦中心じゃよ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る