物書きの憂鬱

@nan18

第1話 

 アルドが水の街アクトゥールを歩いていると、なんだか怪しい動きをする男の姿があった。その男は家の前を行ったり来たりとウロウロしており、どうも落ち着きがない。男は時折り立ち止まると、街を見渡した。そして、残念そうにため息をつくとまたうつむきながら家の前をウロウロする。男はこれを何回も繰り返していた。


アルド「何やってんだ、あのおっさん・・・?」


 どうしても気になって仕方ないアルドはひっそりと呟いた。



男「・・・」


 男は家の前を何度も往復している。彼はある人物がやってくるのを首を長くして待っていた。


男「うーん、やはり来ない。どうしたんだ?」


 男はしびれを切らしたのか、ボソッと独り言を呟いた。その姿は側から見ても、焦っているのがわかった。周辺の人々は関わりたくないかのようにゆっくりと彼から遠ざかっていく。そしてとうとう彼の周りには誰もいなくなっていた。しかしどうやら、彼はそのことにさえも気づいていない様子だった。


 不気味な男にアルドは少し警戒しながら近づいていく。ある程度近づくと、アルドはうつむく彼の顔を覗き込むように腰を落として声をかけた。


アルド「どうかし・・・」


男「!!」


 男はアルドの声を聞いた瞬間、大きく目を見開き一瞬にしてうつむいた顔をアルドの方へ向けた。


アルド「うおっ・・・!」


 突然目を見開いた顔が目の前に現れたことに驚いたアルドは思わず声が出てしまった。


 男はアルドを一瞬見つめたまま固まる。しかし次の瞬間、

男「・・・ハァ」

男はそうため息をつき力が抜けたかのように肩を落とした。


 なんだこの男は急に失礼だな、そう思ったアルドは腕を組む。


アルド「おいおい、人の顔を見てため息しないでくれよ」


 アルドはムスッと怒った顔で言った。


男「・・・あぁ、いや、すまない。最近気を張りっぱなしでつい・・・」


 男はハッと気がつくなりアルドに謝った。その男はアルドより年上ではあるようだつたが、近くで見ると少し様子がおかしかった。 

 男は口を開く。


男「ところで、何か用かな?」


アルド「いや、あんた周りから見ると様子が変だったからさ」


 彼の顔はいかにも疲れたようで、その頬は若々しくも、僅かにこけている。


アルド「てゆーか、あんた大丈夫か? 今にも倒れそうだぞ」


男「あぁ・・・大丈夫だ。もともと体が丈夫じゃないだが、普段より動いているから少し疲れてしまったみたいだ」


 彼の声からは生命力を感じなかった。

 体が丈夫ではないということを考慮しても、彼の様子は変だ。

 非常に落ち込んでいる彼の様子から、それだけの悩み事があるのだろうとアルドは判断し、男に尋ねた。


アルド「なんで家の前をウロウロしているんだ? 誰か待っているのか?」


男「ん? あぁ、いや、ここは私の家だ。ちょっと配達が来るのを待っているんだが、なかなか来なくてね。そわそわしてここをつい歩き回ってたんだ」


 それで配達の人が来てないか時々見渡していたのか、アルドは不審者にも思えた男の行動に関する謎が解け、彼に対する不信感が一気に無くなった。


アルド「配達? 何の?」


 人知れず男に心を許したアルドは距離を詰めるようにして尋ねた。


男「うーん、こうなったら話してもいいかな。実は私、趣味で小説を書いているんだが、ラトルの村の人と小説のやりとりをしているんだ」


アルド「なるほど、小説のやりとりか」


男「互いに書いた小説を月に1回送りあっていたんだ。最後に送りあってから、1ヶ月以上、いやもう2ヶ月ぐらいになる。しかしまだ彼女から何も送られてこないんだよ。それが心配で心配でこの2日、家の前を歩き回っている」


 男は肩で息をしている自分を落ち着かせるため、今度は軽く深呼吸をした。


アルド「うーん、小説を毎回送っているんだろ? それだったら今回のはまだ書いてないんじゃないのか? 小説を毎月1つ書くなんて大変そうだし」


 アルドがそう言うと、男は首を縦に振った。


男「いーや、それはない。彼女はいつも私より素晴らしい文章を余裕の様子で送ってくれるんだ。ひと月に2本くれることもある。だからそれはありえない。それに・・・」


 自信満々に言った男の様子は少しふらついていた。そして話している途中で、彼はその場でしゃがみ込んでしまった。


アルド「おい、大丈夫か?」


 アルドは咄嗟に男の隣に駆け寄る。男はアルドの肩を借りてなんとか立ち上がると、自身の家にもたれかけた。


男「すまないな、大丈夫だ。私は元々体は弱いからいつものことだ。むしろ私が心配しているのは彼女のほうだ」


アルド「彼女?」


 アルドは思わず男に聞き返す。


男「あぁ、やりとりをしている相手がトッテという女性なんだが、彼女も虚弱体質らしいんだよ。だからもしかしたら体調が悪くなってしまったんじゃないかと・・・」


 男は壁にもたれかけながらうなだれた。


アルド「たしかにそうなると心配なるな」


男「できるなら私が直接行きたい気持ちもあるが、この体では難しくてな」


アルド「そうなのか・・・」


 相手のことが心配で仕方ない、その思いが虚弱な彼を動かそうとしている。しかし、彼がアクトゥールからラトルへ行くのは危険だ。しかし、このままだと彼は1人でも行きかねない。放っておけない、そう思ったアルドは男に提案をした。


アルド「そこまで気になるんだったらさ、代わりに俺がラトルに行って確認してこようか?」


男「えっ、いいのか?」


 男は驚きのあまりか、思わず体を一瞬壁から浮かせる。


アルド「だってこのままだと、あんた無理してでもアクトゥールに行っちまいそうだしさ」


男「しかし・・・」


 アルドはやれやれと言わんばかりのため息と笑顔を見せる。


アルド「気にするなよ、俺に任せておいて」


 自身の胸を叩くアルドを見るや否や、男はアルドの手をとり、「ありがとう、お願いするよ」と言った。


 こうして、アルドはアクトゥールの男と小説の送り合いをしているラトルの女性の状況を確認するというクエストを受注した。


男「そうだ、まだ名乗っていなかったな。俺の名前はアクタだ。よろしく」


 男は落ち着いたのか、壁から離れた後、ようやく名乗った。


アルド「俺はアルド、よろしく。ところで早速ラトルに行こうと思っているんだけどさ、やり取りをしている相手の名前とか聞いておきたいんだけど」


 アルドも自分の名前を言う。そしてアクタがやり取りをしている相手について情報を聞き出そうとする。しかし、ここで意外な返答が返ってきた。


アクタ「彼女の名前はミロカなんだが、実は彼女と会ったことが無いんだ」


アルド「えっ、会ったことないのか?」


 アルドは思いもよらない返答に思わず聞き返した。


アクタ「ああ、さっきも言ったが、私も彼女も体が弱くてね。会いに行くだけの体力がないんだ。だからすまないが彼女の容姿についてはわからない」


アルド「マジ? 全くわからないのか?」


 アルドはまたもや驚きの声が漏れてしまった。それと同時にある一つの疑問が出てくる。


アルド「えっ、でもそれじゃあ小説のやり取りってどうしているんだ?」


 考えてみればアクタもミロカも体が弱いなら、ラトルとアクトゥールを行き来できないはず、それに対してアクタはこう答えた。


アクタ「小説のやり取りはとある女性に頼んで運んでもらっているんだ。共通の知人でね、リーニャって言うんだが。この2、3日の間も彼女が来るのを待っていたんだ。多分ラトルに居ると思う」


アルド「わかった、取り敢えずラトルへ行ってくるよ」


 そう言うとアクタに一旦別れを告げて、アルドはラトルの村へと向かった。

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