第141話 第五章 『みせてやろう! おしかけ彼女の本気というヤツをな』(6)

 教授は、データを片付けつつ、

「それにしても、あなたがかのアレクサンドロス大王直系の子孫とはねぇ・・・ちょっと信じられないわねぇ・・・だって生粋の日本人でしょ?」

「ええ、まあ」

 だがそこで、クレオが割り込む。

「教授、先日ハチに説明する時にも話したのだが・・・我がエジプト王国は、遠く南米大陸のコカインや、インドの香料を求めて活発に交易をしていたのだ。その時代から二千年もの時間があったのだから、全世界に血脈が広がっていても何ら不思議は無い」 

「おっと・・・今のクレオちゃんのコメントに、この時代の考古学の定説をひっくり返す大ネタが!」

「そうなのか?」

「そうよぉ。わたしたちの歴史では、喜望峰を超えてインドに渡った初渡航は『プトレマイオス朝からおよそ千五百年後くらい後のこと』となっているもの」


「なんと!」


 これにはさすがに、クレオのみならず黙って聞いていたセクメトナーメンも驚いて、思わず呟く。

「・・・歴史というのは、案外正しく伝承出来ていないものなのですね」

「そうよ~、考えてもごらんなさい・・・何によって伝えるの? 口頭? 紙? 粘土板? 口頭では途絶えてしまうし、情報も間違って伝わりやすい。紙と粘土板は正確に伝わるけれど、紙は燃えやすく、粘土板は壊れやすい・・・情報を長期間伝えていくのは本当に大変なことなのよ?」

「でも、教授。現代ならばディスクやチップがあるから保存性が抜群では?」

 教授はそこでニヤリと笑い、

「甘いわねぇセクメトちゃん。それら媒体を読み取るデバイスが、二千年後にも残っているという保証はあるの?」

「あ!」

「そう・・・PCだってあと何年残ることやら・・・少なくとも千年なんて残らない。PCが全く別の規格になれば、現存するデータは読めなくなってしまうのよ?」


 ◇◇

 そんな歴史談義もそっちのけ・・・妾は大学からの帰路、ずっと心に引っかかっている言葉を反芻し続けている。


「君は女の子だろう!」


 ハチのやつ・・・,

 何だというのだ。

 たしかに妾は女だ。

 だが、それが何だというのだ。


 妾は、王室の外交の道具となって男を魅了する操り人形でもなければ、お飾りでもない。


 れっきとしたプトレマイオス朝エジプト王国のファラオであり、マケドニア騎士団長なのだ。

 バリバリの指揮官なのだ。


 その最前線に立つ指揮官が、自らの傷を気にしてどうする。

 むしろ勲章、武勲ではないか。


 ・・・・

 いや、認める。

 ・・・・

 いままで、気にしたことも無かったし、セクメトに言われたことも無い事だったのだ。


『女の子』


 この言葉で・・・動揺したのだ。

 妾は。


 はじめて殿方から言われた言葉、だった。


 ・・・どう受け止めていいかわからぬ。

 先ほどからこのことを考えていると顔が熱くなり、胸がドキドキして、鼓動まで早くなっている気がする。

 なんか・・・胸が苦しい。


 なんだろう・・・この感覚。

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