第140話 第五章 『みせてやろう! おしかけ彼女の本気というヤツをな』(5)

「ハチ、教授が言う兵器は、現代でもそんなに凄いものなのか?」

 当然ながら疑問を持ったクレオが聞いてくる。

「そうだ、現代技術の粋を集めても・・・この武器を造ることは出来ない・・・なあ、クレオ。そもそもイルミナティの連中はどこからその技術力を得ているのかな?」

 ふとした疑問を口にしてみる。

 教授も黙ってクレオを見つめる。


「我らがマケドニア騎士団に伝わる伝承では、太古の昔から伝わる技術を記した粘土板群があり、それには明と暗があるのだ。『光の粘土板』は大王が解読した魔術式に関連する知識が載っており人の世を為すべきもの、『闇の粘土板』は人類文明を破壊して余りある力が記されている邪悪なものだと」

「じゃあ・・・」

「そうだ、イルミナティはアレクサンドロス大王の時代の更なる太古より存在し、『闇の粘土板』の力を吸収したと思われる・・・だから、さきほど教授の説明があった破壊兵器も、その情報をもとにして開発されたはずだ」

「つまり」と、教授がまとめに入る。

「簡単に殺せない特殊なホモ・サピエンスと、そいつらが扱う現生人類未到達兵器が相手というわけね」


「教授・・・どうしたらいいですかね?」

 我々はイルミナティに勝てるのか?

 想定を超えた重い現実に、場が静まり返る。

 教授は唇を軽く噛み、指先で肩先の髪の毛をクルクルと弄っている。

 教授が真剣に考え事をしているサインだ。


 やがて、

「そぉねぇ・・・ポイントは、わたしたちのほうが数で圧倒的に劣っているから一気に片付ける必要がある・・・それに、将来に禍根を残したくないから相手を殲滅する必要があるってところかしら」

 それを聞いた俺はちょっと閃いた。

「クレオ、イルミナティも力の源泉は『光』と『闇』の違いこそあれ『粘土板』なのだから、騎士団の魔術式と似たようなことは出来るんだよな?」

 振られたクレオは、ちょっとだけ目をぱちくりさせて、

「ああ・・・そなたの言うとおり、力の源泉が同一だから間違いないだろう」

「じゃあ、次の質問。奴らはなんで俺のことが探せるんだろう?」

「・・・あくまでも推測なのだが、おそらく『血』だ」

「血?」

「奴らは大王が仕掛けた『血の封印』を知っている。そこから『何の血』であるか解析して、同じ・・・そうだな・・・『匂いの同じ血』を探す仕掛けを造り出したのだろう・・・そうして封印を解き、『闇の粘土板』を奪取して世界を滅ぼす・・・」

「そんなことが可能なのか?」

「ああ、現に妾もセクメトも、『大王の血脈』を術式で探し当てたであろう? プトレマイオス朝から二千年も経ているのに、大王が編纂した魔術式はピタリとそなたを探し当てた・・・こんなに世界は広いのに」

 ちょっと得意げな顔をするクレオ。

 やはり、マケドニア騎士団の創設者であり、自らの王朝の祖であるアレクサンドロス大王を敬愛してやまないのであろう。


「どう? ハチ。なにか作戦が浮かんだ?」

 付き合いの長い教授は、どうやら俺の気持ちを見抜いたようで。

「ええ、ただ・・・まだイメージだけなんで、もう少し詰めてみます」

「そう?」

「はい! 数日後に具体的な施策を説明します」

「分かった、楽しみにしているわよ?」

 教授は楽しそうに微笑み、残ったコーヒーをぐいと飲み干す。

 期せずして同じタイミングで、クレオとセクメトナーメンも飲み干す。


 ・・・一筋の光明を感じたかのように。

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