第139話 第五章 『みせてやろう! おしかけ彼女の本気というヤツをな』(4)
キーボードに美しい指を華麗に走らせて(教授はブラインドタッチが恐ろしく速い!)、データを表示する。
セクメトナーメンは最近、教授のところにしょっちゅう顔を出し、いろいろ学習しているからデータをみても面食らった様子はない。
・・・短時間で現代科学に馴染んできているのだから、驚きだ。
だが・・・我らが騎士団長殿は、眼をぱちくりさせ俺の横腹を突っつきながら、
「なあハチよ。これはどう見たらいいのだ?」ひそひそと聞いてくる。
無理もない、現代人だって理工系専攻でないと厳しいからな。いくら俺から現代科学の基礎を説明されたからといって、直ちに頭に入るとは限らない。
もちろん、基礎を理解出来ているだけでも、クレオだって凄いと思う・・・なにしろ、二千年前の古代人なんだからな。
だが、クレオのリアクションを見透かしたかのように、教授が解説を始めてくれる。
「まず、イルミナティの腕の一部だが・・・ホモ・サピエンスであることは間違いない。遺伝子配列、特に核酸の配列が同一だからな・・・ただ・・・」
「ただ? なんです?」
セクメトナーメンが、好奇心を押さえきれない様子で身を乗り出す。
「細胞の組成が変わっていて、生体エネルギーの蓄積が異常に少ないのよ」
「?」
「つまり・・・肉体を動かすのに、わたしたちより格段にエネルギーが少なくて済んでいるっていうこと。想像するに、そのぶん脳にエネルギーが集中しているので、わたしたちより遥かに知能指数は高いでしょうね」
俺は唸った。
「教授・・・もしかして奴らは、その省エネルギー体質のせいで長命だったりしますか?」
何かピンときたらしいクレオが質問する。
「ええ、正確には分からないけれど・・・そうね・・・我々より数倍は・・・長命でもおかしくない」
クレオは思わず、セクメトナーメンと顔を見合わす。
「やはり大王の分析は正しかったのだ。この時代の最新科学で立証されたという訳だ!」
唸るクレオに対し、セクメトナーメンは無言で頷き、同意の意思を示す。
だが、俺は教授の分析を聞いて一人納得したことがある・・・それはクレオたちが奴らを倒すとき、いくつもの断片に切り刻む理由だ。
肉体維持のため生体エネルギーが少なく済んでいるということは、肉体を再生する時にも省エネが可能だ。
すなわち一・二か所傷つけたところで、細胞自体の再生が簡単で迅速なのだろう。
体自体を幾つかに切り刻んで、物理的に復元不可能に追い込む必要がある・・・というわけだ。
・・・そういえば!
俺自身、やたら傷の再生が早いシーンを見ていたじゃないか!
長命の件といい、トドメの差し方といい、マケドニア騎士団は、アレクサンドロス大王の時代からしっかり敵を分析して、それらを何百年も引継いできたんだ・・・正直、感嘆せずにはいられないな。
「とにかく、生命体としてみればイルミナティは、ある意味我々とはちょっと異なった進化をしたってわけ」と言いながら教授はPCを操作して、次の検証データをスクリーンに出力する。
「これは・・・?」
またしてもセクメトナーメンは、身を乗り出す。
「今度は、ハチが分解を断念した箱よ」
ディスプレイにCG化された分解図面が映し出される。
「分解出来たんですね?」
俺が勢い込んで聞くと、
「当たり前じゃないの・・・ここをどこだと思っているの」
まあ、教授の言うのもごもっとも。
ここはDARPA(アメリカ合衆国国防総省の国防高等研究計画局)にも引けを取らない。
「結論を言うわね」
教授らしくズバリときた。
「間違いなくこれはレーザー兵器よ、しかも個人が携行可能な大きさと軽さのデバイスから、装甲板を打ち抜くほどの威力を持っている」
俺は驚いた。
そもそも、現代ではレーザー砲ですら本格実用化されていない。たしか米軍が実験中だが、大気中の減衰率が大きくて鋼鈑の薄い航空機やミサイルくらいしか撃破出来ない。
戦車などには歯が立たないのだ。
だがそれも、戦車や艦船に搭載する「レーザー砲」の話だ。
コンパクトで人間が軽々と持ち運べて、ジャケットのポケットに忍ばせることが出来る「レーザー銃」なんてものは、まだ現代においてはSFなのだ。
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