第137話 第五章 『みせてやろう! おしかけ彼女の本気というヤツをな』(2)

 続いて視界に入ったのは、すぐ前方で聖槍を手にして教員と思しき数名に切り掛かっているクレオパトラ七世・フィロパトル!


 すでに二名が一瞬のうちに数個の肉片に切り裂かれており、彼女は体を躍らせて三人目と四人目に切り込む。


 完全にストップモーション、コマ送りにしか見えない! 時間が遅延している!


 そのとき、


 俺の背後に猛烈な光源が見えるが、なぜか俺を避けるように散乱し、周囲の壁や窓を焼き尽くしている!

 あっという間に立ち込める、硝煙と焼ける匂い、

 それに沸き立つ紅蓮の炎。

 一瞬にして、周囲がそれらで充満する。


 俺は・・・なぜか・・・無事だ。


 って!

 気がつくとセクメトが、俺の後方から術式を展開し、聖槍を障壁のようにしてレーザーを弾いている!

 前方のクレオは、素早く敵を片付けると後方で防御壁となって攻撃出来ないセクメトナーメンの脇をひらり、と躍り出る。


 だがそのとき一条の光が隙無く突いてきた!


 俺は咄嗟にクレオを突き飛ばした。

 彼女の驚いた表情を見るのと、左上腕に焼けるような痛みを感じるのがほぼ同時だった。


「ばか!」


 ふたたびイルミナティの射手に襲いかかったクレオは、体から糸を引くように、叱責のひとことを俺に向かって投げつける。


 セクメトナーメンはすかさず、クレオの突撃を護る様に障壁を拡大していく。

 次の瞬間、銃撃の間隙を見切ったクレオが飛び出し、

 残りの二名を片付ける。


 自動消火装置が作動するただならぬ光景、

 充満する硝煙と焦げる匂い・・・そして、

 むせるような血の匂い。

 銃撃で焼けただれた壁やガラス、

 めくれ上がった床、

 黒煙でびっしり煤の付着している天井、


 そして・・・十何体はあろうかという、人体の破片と廊下を覆い尽くしそうな血だまり。


 ・・・ふつうに地獄絵図だった。


「西郷殿! 大丈夫ですか?」


 敵をすべて屠ったようだ。

 セクメトナーメンがいつもの柔和な表情に戻りつつも、駆け寄ってきて心配そうにこちらを覗き込んでくる。

「・・・大丈夫、かすっただけだと思う」

「では、治癒の術式を」

 言うや否や、聖槍を僅かに振って詠唱する。

 みるみるうちに出血は止まり、皮膚が再生していくじゃないか!


 ・・・魔術、目の当たりにすると・・・やはり言葉も出ない凄さがある。


 などと感心している場合じゃなかった・・・。

 目の前には仁王立ちをするクレオが。

 うわ・・・まだ聖槍も手に持っている。

 めちゃめちゃ怒っている・・・。


「ハチ! 先ほどのはどういうつもりだ!」


 かなり怒っているなぁ。


「どういうって・・・その、つい」

「つい、ではない! そなたが妾をかばってどうする! 一歩間違えば、そなたの命の危機なのだぞ?」

「・・・・」

「護られねばならないそなたが、危険の前面に立つとは! 『大王の血脈』としての自覚を持ってくれ! まったくけしからん!」

 クレオが顔を真っ赤にして怒鳴り込んでくる。

 つい、こちらも、

「しかし、そんなこと言ったってだな! あの瞬間セクメトナーメンの防御壁から出る瞬間だろう? もし傷でもついてしまったらどうするつもりだ? 君は女の子だろう!」

 言い返してしまった・・・


「そんなリスクは覚悟の上だ! いいか、よく聞け!」

 続けて彼女は胸を張り、気高くも高らかに宣言する。


「我らマケドニア騎士団、『大王の血脈』の剣とならん! 盾とならん!」

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