第136話 第五章 『みせてやろう! おしかけ彼女の本気というヤツをな』(1)

 俺は、久しぶりに大学の研究室に顔を出すことにした。

 先般イルミナティの残した武器と腕の解析を依頼するため、クレオとセクメトナーメンも一緒にだ。

 っていうか、それ以前に最早俺の単独行動は、美貌のマケドニア騎士団長殿によって固く禁じられていたのであるが・・・。


 アパートから旧市街を抜けて、エルサレム工科大に続く道を進む。

 やっと巨大なキャンパスの一角が見えてきた。

 ゲートで俺は、いつもながらの顔認証と各種生体認証を実施する。

 いっぽうクレオとセクメトナーメンについては、事前に教授から提出されている来客データに基づいた生体認証が実施される。

 さらに、特別なブレスレットの装着を義務付けられているのが特徴だ。

 これは常時居場所が特定され、会話やデータ伝送など体から発せられるすべてのデータを記録、さらにデータについてはブロックするという優れ(?)もので・・・要はコイツで悪さが出来ないように、ガッツリ監視されるってワケだ。

 まあ、普通の大学には似つかわしくないセキュリティ態勢だよな。

 さすが、世界屈指の技術力を誇る工科系大学だ。


 広場に続きいくつもの校舎がそびえているが、土地が広大なせいか・・・どの校舎も階数は七から八階程度だというのに、いっぽうの床面積がとても大きい。

 だからかもしれないが、キャンパスに足を踏み入れると、広大な空間を実感してちょっと圧倒される。


 クレオとセクメトナーメンも興奮気味だ。

 おしゃべりしながらも、巨大な校舎に驚いている。

「なあ、セクメト! あの建築物などはみんな学び舎だというではないか! 我が王朝のムーセイオンや大図書館に引けを取らないのではないか?」

 すっかり興奮しているなぁ(笑)。

「そうですね! デザインは全く異なりますし、壁の材質などはどうなっているんでしょう」

 ははは、セクメトナーメンはやっぱり材質が気になるよなぁ・・・などと呑気なことを思っていたところ、

 一瞬、ふたりの眼つきが険しくなり、阿吽の呼吸を交わしたように見えた。


 ほんの一瞬だった。


 俺は凄く違和感を覚えたが・・・気のせいかもしれないな・・・すぐに二人は、元の笑顔に戻ってはしゃいでいる。

 教授が、エルサレム工科大から借り受けている部屋のある校舎に歩を進める。

 ちょうど昼飯時とあって、校舎の廊下などは職員や学生が多く賑わっている。

 階段で二階に上がり始めたころ、クレオが俺の前に、そしてセクメトが俺の後ろについ歩き始めた。

 んんっ?

 いつもは女子二人が隣り同士なのにな・・・どうしたのか・・・。

 さて、この広大な廊下をあと二十メートルほど進むと、ようやく教授の間借りしている研究室に到着だ。


 廊下を進んで対面からやってきた教員とすれ違った、


 刹那!


 俺は後ろのセクメトに物凄い力で後ろに引っ張られ、そのまま廊下に潰されるように叩きつけられた!


 ほんの一瞬前、

 後ろに倒れ始めた瞬間、

 俺のアタマのあった位置を、黒っぽい大きな物体が凄いスピードで駆け抜けた!

 ストップモーションのように、本能的に横目でそいつを追った俺は・・・


 人間の生首だった。

 切り口が鮮やかで鋭利なせいか、血飛沫もほとんど無い。

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