第49話 第三章 『護衛するのだぞ? 同居生活は当然であろう!』(8)

「・・・・」

 すげえ、本物のファラオ本人にネーミングの由来を直接話してもらえるとは。

 考古学者にとっては、想像を絶する至福の瞬間で、鳥肌モンだぜ!

「この名前の起源は、もとはアレクサンドロス大王と同じ母親オリュンピアスから生まれた妹、クレオパトラから来ているのだ。その妹は母方の出身地のマケドニア王家に嫁いだ。従ってプトレマイオス朝にて、一族の女性にクレオパトラと名付けることは、『マケドニア王家の伝統を引継ぐ』という意味がある」

「なるほど・・・ではフィロパトルも何か由来があるのか? 後世の我々は『父親の威光』とか『一族の栄光』って感じで理解しているが」

「それは、さらに皮肉な話でな」

 ここで、クレオはさらに自虐めいた調子を強める。

「そなた、歴史学者ならば詳しいだろうが、確かに『父親の威光』というあたりで意味は合っている・・・だが、その名は皮肉られて・・・という側面もあるのだ」

「?」

「わがプトレマイオス朝は恥ずかしながら、血族の中で権力掌握のため血みどろの闘争が絶え間なく続いていた。そして、その権力闘争の最中、父を殺すことも厭わなかった・・・それを皮肉ったというわけだ」

「・・・そんな理由があったのか」

「そうだ、だから妾はこの王名に特に強い愛着を持てずにいるのだ」

 今度は、いたずらっぽくニヤリと笑う。

 クレオは、どんな笑い方でも絵になる・・・やはり飛び切りの美女だからか。


「なあ、ハチよ。実はプライベートで使う『真名』というものが、他にちゃんとあるのだぞ?」


「え? そうなのか? なんて名前なんだ?」

 ファラオが王名のほかに真名を持っているだなんて・・・そんな論文は見たことない。

 驚いていると、



「教えるのはかまわないが・・・それを知ってしまうと、そなたは妾を娶らねばならぬ。女の王族の真名を知ったら結婚するというのが、古くからのしきたりだからな」



「ええっ? いや・・・それは・・・」

「ははっ! これは冗談ではないぞ? 気をつけてくれ」

 クレオは、屈託なく大笑いをする。

 こんなに笑ってくれたのは、出会ってから初めてかもしれない。

 なんだか・・・俺まで嬉しくなるよ。


「いやー、遠慮するぜ。さっきのとおり『クレオ』って呼ぶよ」

「それで頼む」

 なんか、親密度がまた上がった?

 そのせいで、セクメトナーメンがこちらをちょっとだけ睨んでいるような気もするが、気にしないようにしよう・・・。

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