第48話 第三章 『護衛するのだぞ? 同居生活は当然であろう!』(7)
「まず服装なんだが・・・近日、街のショップに行って現代の衣服を見繕おう。今のままじゃ目立ちすぎる」
だが、クレオパトラはちょっとだけ怪訝そうな顔をして、
「これではだめなのか? ファラオ向けに特注した逸品だし、なにより平時でも戦時でも機能的にふさわしいように考えられているのだが・・・」
そこへ、セクメトナーメンが諭してくる。
「西郷殿の指摘は正しいかと・・・やはり、わたしたちのチュニックは目立ちすぎます。『郷に入りては郷に従え』・・・この時代の服装のほうがいいでしょう。目立てば、それだけイルミナティにも察知されやすいことになりますよ?」
「・・・そうか、もっともだな」
さらに俺が止めを刺す。
「それに、何日もの間着っ放しってワケにもいかないだろ? 洗濯しちゃったら着替えも無いワケだし・・・」
「わかった。そなたの言うとおりにする」
「それと、君の呼び方をクレオパトラから変えたいんだが」
「なぜだ?」
名前はその人間に与えられた固有のもので、各個人のアイデンティティーともいえる。だから俺は、彼女の自尊心を傷つけないように、表現に気を付けながら説明する。
「ああ、それも服装と一緒で・・・その・・・『クレオパトラ』っていう名前は、現代でも凄く有名なんだ。だから街中で君を呼ぶときに、この名前だけで目立っちまう」
「妾は、二千年も前の人間なのに、そんなに名が知れているのか?」
「ああ、『歴史上の絶世の美女』としてな」
「なっ・・・」
彼女は真っ赤になってしまった。
おお、なんか初々しい。
ファラオなのに、ふだん周囲から褒められたりしないのか?
「それはそうでしょう、歴代ファラオの中でも一、二を争う美しさなのは、王国でも周知のこと」と、隣で食器を拭いているセクメトナーメンも相槌を打つ。
セクメトナーメンのやつ、クレオ自慢のときは思いっきりドヤ顔だぞ。
「いや本当だぜ。だから『クレオ』ってニックネームで呼んでもいいかな」
「ま、まあ・・・そういう理由があるのならば仕方あるまい。そなたの言うとおりにしよう」
「納得してもらって助かるよ、ありがとう」
「いや、そこまでいろいろ気遣いしてもらって、こちらこそ感謝する・・・まあ、もともとクレオパトラという王名は、いわば称号みたいなもので、強い愛着があるわけではない」
彼女は、ちょっと皮肉めいた笑いを浮かべながら話を続ける。
「そうなのか?」
「ほら、妾の祖先に有名なトトメス大王がいるだろう? あれは『トート・モーセ』すなわち『トート神の息子』という意味だからな。『クレオパトラ』も同じような感じだ」
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