第26話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(17)

「なあ、確認するけど。君は今年何歳で、何年生まれなんだ?」

 いきなりな質問だが、迷いもせずに彼女は即答する。

「今年で二十歳、生まれはローマ歴六八四年だ」

 俺は頭の中で換算する。

 元々エジプトは独自の暦だったのだが、新王国時代の末期は、ローマの影響を強く受けていたためローマ歴を使っていたはず。

 ここは辻褄が合っている・・・。

 肝心の年代も、紀元前七五三年ローマ歴開始年からカウントすると、ローマ歴六八四年というのは、西暦に換算して紀元前六九年。

 クレオパトラ七世は、確か紀元前六十九年生まれ・・・ドンピシャだ。

 俺のような考古学者なら、こんな計算も楽勝だが・・・もし普通の現代人なら・・・ほとんど聞いたこともないであろう暦法『ローマ歴』をすらすらと口にするなんて出来るだろうか?

 普段から使っていなければ、出来っこない・・・。

 まさか・・・本物?

 そもそも衣装とか装飾品も、本物のクレオパトラ七世であれば、納得がいくものだしな・・・。


 なんてこった!

 目の前の女の子が、二千年前から現代にタイムリープしたファラオだって?


 冗談じゃない、俺までおかしくなっちまったらしい。

 だが理性に反して俺の本能は、彼女が本物じゃないかと・・・思い始めている・・・。

 彼女が何もない空間から取り出した『聖槍』、言葉が一瞬にして通じるようになったこと、人体を幾つもの肉片に一瞬で切り刻むこと・・・それらは説明がつかないんだから、仕方がない。

 だが、信じ始めた一番の理由は『彼女の眼』だ。

 こちらを見る、あの真摯な眼。

 あの眼差しを見てしまうと、とてもウソを言っているようには思えないんだ。

 ・・・・

 とりあえず、彼女が本物かどうかはいったん保留としよう!

 考えていても埒が明かない。

 ◇◇

 勘定を済ませて店を出たところで、さてこれからどうしたものか・・・。

 こうして考えこんでいる間も、彼女は俺のことをじっと見つめている。

 俺は、彼女のほうに向き直ると、

「ええと・・・話を戻すけど、君が本物のクレオパトラなら、帰る家は・・・無いよな?」

 もちろんまだ本物と決めたわけではないが、命の恩人である彼女を怒らせたくは無かったので、とりあえず本物扱いをすることにした。

「そうだ」

「うーん、君の仮の宿泊先はどうしようか・・・俺もここでは外国人なので、女性の知り合いも少ないしなぁ」

 知り合いといえば教授くらいだが、さすがに泊めてくれなんて頼めないしなぁ。

 ホテルでもいいが、正直金がかかるのは痛いし・・・。

 はて、どうしようかと悩んでいると、

「なあ、ハチ」

 朗らかな表情に戻ったクレオパトラは、平然と言い放つ。

「それならば、そなたの宅に行こうではないか!」

 え? 俺ん家?

 そりゃまずいだろ。

 こちらの悩みも何のその。屈託なく笑いながら言ってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る