第25話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(16)

 すべて平らげた(!)彼女も満足げだ。

 そういえば、きょうのオーダーはエジプト料理なんだ。

 エジプトでは、古代から豆料理や鳩を使った肉料理が主流で、あんまりよく出来たクレオパトラのレイヤーさんに引っ掛けて出してみたんだが、好物のようでよかった。

 しかし、不思議なことに食後のコーヒーに至ると・・・彼女はとたんに怪訝な顔をした。

「ハチ・・・この真っ黒で苦い飲み物は?」

「あれ? コーヒーだけど・・・」

「コーヒー。聞いたことがない飲み物だ、初めて飲んだが苦いな」

 内心驚いた・・・だって、いまどきコーヒーを知らない娘がいるだろうか?

 出会いからこっち、とにかくたくさん驚かせてくれるぜ・・・俺のCPU(頭脳)をもってしても、ぜんぜん追い付かないよ。

「だが、飲み進めると口の中がすっきりしてくるし、なにやら香ばしい。これは癖になりそうだな!」

 彼女が笑顔を見せてくれるとうれしいのだが・・・いろんな疑問自体は全く解決していない。

 ご機嫌が良くなってきたところで、

「そろそろ暗くなってきたから、帰ろうか。近くなら送っていくけど」

 このセリフを聞いて、彼女は急に真顔になる。

 あれ?

「ハチ・・・よく聞いてくれ」

「ん?」


「妾はクレオパトラ七世なのだ」


「それは聞いたけど・・・ごめん。キャラへのなりきりは凄いけど、君はコスプレイヤーだろう? どうやらすごいお金持ちらしいけど」

「こすぷれ・・・なんとかとは何なのだ? いや、そうじゃなくて本当にクレオパトラ七世なのだ」

 うわ、めちゃめちゃ会話が噛み合わないぞ。

「・・・でも、今はプトレマイオス朝エジプトの時代から二千年以上経っているぞ?」

 彼女は、俺の顔をきっと見据え、


「魔術で時代を超えてきたのだ」

 彼女の口からは、あまりにも想定外の単語が出てきた。


「なんのために?」

 喉がいきなりカラカラになっちまった。


「世界を救うためだ」


 俺は考え込んでしまった。

 こんな中東で「ドッキリ」もなにも無いし。

 冗談にしても、ちっとも面白くない!

 だが。

 俺を見る彼女の瞳は、そう・・・とても真摯だ。

 冗談とかウソの類とはとても思えない。

 はじめ一瞬、『レイヤーの設定のことを口走り始めたぞ・・・凄い美人さんなのに・・・なんとも残念な中二病なのか?』と思ったが、彼女の語り口と眼差しを見ているうちに、とてもウソとは思えなくなってきた。

 ・・・もっとも話している内容自体、とても俺には信じられないものなんだが。

 そりゃそうだろう?

 おおむね二千年近くの時を飛び越えてきたというのだから・・・。

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