第24話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(15)

 次に出てきたのは、鳩のロースト焼きだ。

 やった! 妾の大好物!

 エジプト人で、鳩料理が嫌いな奴なんているわけない・・・なんちゃって。

 またしても、妾の眼はキラキラだ。

 堰を切ったように猛然と食べ始めると、こちらもすぐに平らげてしまった・・・。

「ハチ、ありがとう! 実は鳩料理が大好きなんだ・・・この締まった感じと脂の乗った感じが堪らない。それにしてもイスラエルは単なる属州で、文化レベルも低いものだと見下していたが、この料理は大したものだ。見直したぞ」

「そりゃよかった」

「あ・・・すまない・・・妾が一人で食べてしまって・・・」

 いまさらだと分かっていても、妾は恥ずかしくなり、ちょっとだけ上目遣いで彼の様子を見る。

「・・・王宮でも、いつもセクメトにからかわれていたのだ・・・よく食べる女だと・・・」

「セクメト?」

「すまん、妾の侍従長はセクメトナーメンというのだ」

 どこかで、安心している自分がいる。

 出会ってから僅かな時間だが、『大王の血脈』は気さくな人柄のようでよかった・・・。

 さて、彼に起こったいきさつをどこから説明したらよいか・・・。

 腹が満たされた妾は、次の難問に内心頭を抱えている。

 それに・・・何とかして彼ともっと親密にならないと。

 なんといっても、イルミナティをすっかり駆逐してしまうまで、彼の身近で護らねばならないのだから。

 うう・・・課題が山積だ。

 ◇◇

 俺は内心驚いた、たしかにクレオパトラ七世には侍従長というか女官長がついており、セクメトナーメンという名前のはずだ。エジプト新王国時代ともなると記録も割と多いので、侍従長の名前まで分かっている。

 だが、そんなマイナーな名前を、単なるコスプレイヤーの娘が知っているものだろうか・・・。

 俺のような考古学者なら、ハナシは別だろうが・・・。

 彼女がまだ申し訳なさそうにしているので、俺は慌ててフォローする。

「ああ、いいんだよ。俺は少し前に食事をとったばかりで、ぜんぜん腹減っていないしな。それにそんなに喜んでくれると、こっちもうれしいんだよ。本当だ」

 そこまで聞くと、今度はぱっと表情を輝かせて、また食べ始める。

 表情がころころ変わってかわいいな。

 ようやくリラックスしてきてくれたみたいで、こちらもひと安心だ。

 鳩と共に付け合わせたパンも、たっぷりオリーブオイルに漬けて堪能している。

 すごい食欲だなあ・・・。

 女の子でこれだけの食べっぷりというと・・・そうだ、ホワイト教授もよく食べるんだっけ。

 初めて食事を一緒にしたとき、仰天したもんな。

 でも男子に限らず、食べっぷりのいい女子も、見ていて気持ちがいい。

 イイ女は、大食いなのか?

 たしかに俺は腹が減っていなかったので、ちょっとオーダーが多かったかなぁと気になっていたが、結果としては良かった。

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