第22話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(13)
ふらふらしながら通りを十分ほど歩いたところで、とある店の前に立つ。
「ここは、俺の行きつけの料理屋でなかなか美味いんだ」
そう言って、入っていく。
店の主人が声をかけてくる。
「ハチ! きょうはまたえらい美人連れじゃねぇか!」
「ははは、親父さん、ちょいとワケアリなんだ」
彼は笑ってごまかしながらテーブルに着いて、なにか注文しているみたいだ。
恥ずかしながら・・・店内のいい匂いを嗅いで、そわそわしてしまう。
自分で言うのもなんだが・・・結構な食いしん坊なので、とにかく空腹に弱いのだ・・・。
料理を待つ間、彼の自己紹介が始まった。
「その! さっきは命を救ってもらって・・・ホントにありがとう!」
彼は、かなり硬くなりながら礼を言ってくる。
ふふふ、女の子に慣れていないのかな?
ちょっとかわいいかも。
「ああ・・・ええと・・・俺の名はさいごう、ヘイハチロー・サイゴー。長いから『ハチ』って呼んで欲しい」
「そんなに硬くならずとも、ではハチ殿と呼ばせてもらう」
「いや、ハチでいいよ」
「うむ・・・では・・・ハチ。この度はとても助かった。感謝する」
「いやっ・・・俺の方こそ、命を救ってもらって・・・その・・・なんというか、いや、ありがとう」
「ハチも、そう硬くならずに。そなたも気軽にクレオパトラと呼んでくれ」
ふふっと妾が微笑むと、彼もつられて少し笑う。
よしよし。互いにようやく少し、硬さが取れてきたかな?
しかしハチは、どういう御仁なのだろうか?
細い体つきでとても兵士には見えない。もちろん貴族にも見えない。
エルサレムのはずなのに・・・見覚えのない奇妙な衣服を着て、魔術を展開しないと通じない言葉を話している。
二千年も経つと、これほど世界が変わってしまうのだな。
あらためて、大きな年数を跳躍してきたのだと実感させられる。
ここだって飲食店のようだが、壁は日干し煉瓦ではないし、見たことのない色で着色されている。
それになにより、建物に屋根があるのに・・・室内が明るいではないか!
松明が無いのだぞ!
しかも、室内がやたら涼しく快適だ。
これも氷を置いて、涼を取っているわけでもないのに!
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