第21話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(12)

 しかもだよ?

 なにより、先刻フード野郎を全滅させた技。

 あれは、武器の使用では断じてない。

 スピードと切れ具合の見事さが、説明出来ないからだ。

 人間の身体を瞬時に、複数の細切れに完全切断するって・・・刀剣とか銃器とか、現代のどんな携行武器でも無理だからだ。

 ・・・これも、もし本物の魔術師っていうなら、納得出来るワケだ。

 とにかくなにからなにまで、俺の好奇心を釘付けにしている。

 と、そこへ。

 

 ぐ~・・・。


「ん?」

 いまの音は・・・おなかの音か?

 あれ? 俺か? 


 ふと見ると、さきほどまで毅然としていた彼女が、俯いて真っ赤な顔をしている。


 ちょっと緊迫した空気感があったが、いまの音で気が抜けてしまった。

 まあいい、命の恩人にいろいろ聞きたいことは山ほどあるんだが、後回しだな。

 俺はクスリと笑って、恥ずかしがっている彼女に声をかける。

「あの・・・救ってくれた、お礼と言っては何だけれど・・・もしよければ・・・食事でもどうかな?」

 なにせ、年齢イコール彼女イナイ歴だからな。

 こういうときに、どう言って女の子を食事に誘ったらいいかなんて分からん・・・ので、なんだか、しどろもどろになってしまい我ながら滑稽だぜ。

 ◇◇

 たしかに出会ったばかりの殿方に、いくら護衛対象とはいえ・・・だ。

 おいそれと付いていくのは軽率かもしれぬ。

 妾だって分かっている。

 しかし今は誰一人頼る者もいないし、遠く離れた未来に来たわけだから、食事ひとつとっても苦労をするだろうということは承知の上だ。

 使命を果たす前に餓死するくらいであれば、最悪、食べ物を他人から奪ってでも命をつなぐ覚悟もある!

 なにせ二千年後など、プトレマイオス朝の通貨ひとつ通じぬ異世界なのだから。

 だがいまは・・・はぐれぬよう彼を追うと、外壁を抜けてそのまま市街のメインストリートであろう人込みに入っていく。

 エルサレム神殿があるので分かったが、ここはおそらくエルサレム。

 幼少のころ、父王の遠征に伴い来たことがあるが、その時の市街地の景観とはまるで違う。

 さすが二千年の時が経つと、人間の想像を超えるのだな・・・。

 うーむ・・・実は・・・正直に白状してしまうが・・・とにかく腹が減ってしまって、食事の誘惑に負けてしまったのだ。

 だから、とにかく食事にありつきたい。

 権威あるファラオで騎士団長といっても、腹が減っては・・・状態なのだ。

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