第20話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(11)

 ・・・彼女の言っていることが全く分からない。

 いや、世界三大美女のひとりの名前と、魔術師ってところは引っ掛かったが・・・。

 ん?


 クレオパトラ!

 いま二十一世紀・・・だよな。


 しかも『魔術師』!


 うーん。

 いろいろ俺のキャパを超えた単語が出てきているな・・・。

 クレオパトラだって?

 たしかにホンモノのクレオパトラならば、口調が仰々しいのも理解出来るのだが。

 あたかも貴族とか王族のように、偉い人の喋り方だ。


「なにか驚いているようだが・・・まあ無理もない」

 俺の目一杯の動揺をよそに、彼女は落ち着き払っている。

 

 さきほどは、彼女の容姿自体に目を奪われたが、あらためて彼女の衣装に目をやる。

 ・・・・。

 はじめはコスプレか? などと思ったが、いやいやとんでもないぞ。

 考古学専門の俺にはすぐ分かった。

 だってよく見るとだな、まさに古代エジプト時代といっても・・・貴族階級や王族といった、支配者層の女性の衣装なのだ。


 頭には金細工の冠を被っていて、そこには太陽神ラーを象徴する造形が付いている・・・太陽神、そうこのシンボルこそ俺が彼女を見た時に『古代エジプト期』と直感した一番の理由だ。

 首飾りと腕飾りも金細工だ。

 ・・・しかし、ここから輝きや材質感を見ると・・・どう見ても本物の金だ・・・。

 数々の遺構発掘で、数多くの埋葬品の金細工を見てきたから、感覚的に一目で分かる。

 コスプレのアクセなら、鉄や樹脂を金色に着色したフェイクに決まっているはずなのだが。

 もしも・・・本物の金ならば・・・『一生かかっても買えないような、とてつもなく高価なシロモノ』となる!

 そもそも、あれだけの品を作り上げる金を集めるだけでも、それはもう・・・たいへんなカネがかかるんだ!

 ああ、もう! 伝わるかなぁ、この興奮!

 そのうえ、いずれの装飾品も極めて薄く細工され、繊細な彫刻が施されている。

 こういった工作は、金の性質から可能となっているものの、金を均一に薄く延ばし、さらに細かい彫刻を施すというのも、最高級の熟達した技術が必要だ。

 さらに言うと、首飾りの配色はどうみても着色には見えない・・・おそらく、色ガラスを使っているはずだ。

 だが、なぜ色ガラスなのだ?

 現代では着色した方が輝きを出せて見栄えが良いはずだ。コストだってかからない。だが、本当に古代エジプト時代ならば、色ガラスは途方もなく高価で希少だ。

 製造コストがべらぼうにかかるからだ。

 下手すると金細工どころではない。

 いっぽう身に纏っている衣装はパステル調の薄い青だが、見た感じでは木綿のチュニックドレス(※現代的に言うとワンピース)だろう・・・一般的に使われそうな化学繊維ではない。

 なぜわざわざ木綿など・・・こいつもむしろ手間暇がかかるだけだ。

 いずれにしても、彼女の身に着けている数々は、贅を尽くした素材と技術なわけで・・・。

 まあ、コスプレイヤーだとは思うんだが・・・この身に着けている品々からすると、『すげー金持ちのレイヤーさん』だよ。

 本物のクレオパトラってことなら・・・納得出来るんだが。

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