第17話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(8)

 俺は考古学をやっている手前、海外を飛び回って、いくつもの言語を話すことが出来る。

 英語はもちろん、ドイツ語、ギリシャ語、イタリア語あたりは流暢に話せる。

 ・・・のだが、全く分からない。

 ここイスラエルの公用語であるヘブライ語かと思ったが、おそらく違う。俺はヘブライ語を話せないが、読むだけなら少し出来るので、何となく判別はつく。

 もしかして、本当にエジプト人であればアラビア語?

 いや、アラビア語とは発音の雰囲気が全然違う・・・では、何語なんだ?

「□×〇▽△〇v・・・・・・・・・」

 参ったな、この俺が見当もつかないなんて。

 そう思って戸惑っていると、急に彼女は、あたかも何かに気がついたかのように表情を明るくした。

 と、同時に何事か小声で呟くと・・・彼女の手元の空間がぐにゃりと歪んだ!

「!」

 俺が面食らっていると、次の瞬間彼女は槍のような棒状のものを握っている!

 こんなもの・・・持っていなかったよな?

 いったいどこから出したんだ?

 いや、俺は見た。


『彼女の右手は、何もない空間から一瞬にして・・・槍状のものを手にした』


 鳥肌が立っている・・・なにか見てはいけないものを見てしまったような感じがしたのだ。

 そう・・・何と言っていいか・・・『この世の理(ことわり)から外れたもの』というところか・・・。


 俺がちょっと引いていると、彼女は続けざまに槍を振ってなにごとか小声で呟く。


「どうした? これで言葉が通じたであろう」


 言葉が通じた!

 俺は唖然とした。

 あまりに驚かされて。

 動揺して気づくのが遅れたが、彼女の槍は、先端がキリスト教の十字状の形状をしていてちょっと変わっている。

 どこかで、見覚えが・・・。

 そうだ!

『ロンギヌスの槍』だ。

 イエスを磔刑にした際、彼を貫いたと言われる槍だ。

 槍を使ったローマ帝国の百人隊長ロンギヌスから、その名を付けられた。

 もちろん当時は写真も無いし、絵画だって無い。

 後世に伝えられた逸話や伝承をもとに、歴史学者や宗教学者が推測した形状・・・なのだが、いま、目の前で彼女が握っているものが同じ形状だ・・・。

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