第16話 第二章 『さあキスをしよう! 話はそれからだ』(7)
だが、新たな登場人物はそんなフード野郎の動きなど気にもならないくらい、ひらりひらりと舞い、次々と切り裂き倒していく。
蝶のように舞う、ってこんな感じなのだろうか。
腕や胴体がただの肉片と化していくフード野郎。
終わった。
全員が肉片と化した一瞬の出来事。
辺りは血飛沫が盛大に飛び散っており、あちこちに大量の血溜まりがあっという間に出来上がる。
・・・・ツンとむせるような血の濃密な匂い。
白昼夢じゃない。
間違いない、惨殺現場だ。
ああ、フード野郎も人間なんだ。
中東の日差しの強い逆光になって、よく見えなかったが、命の恩人(?)が近づいてくる。
ようやく姿かたちがハッキリしてきた。
それは、嫌でも目に付く格好だった。
その・・・なんと言うか・・・一言で言い表すと『古代エジプト期の女性』ってやつだ。
古代エジプト女性を演じるコスプレイヤーなのかな(こんなところで?)。
とても浮いた格好をしているのだが、周囲に行き交う観光客や巡礼者は、まったく彼女に気をとめる様子は無い。
いやいや!
今はそんなことはどうでもいい。
少なくとも彼女は命の恩人なのだ、お礼を言わねば。
俺は、意を決して彼女に声をかけることにする。
傍から見れば、単なるナンパの様でちょっと恥ずかしいが、仕方がない。
彼女のすぐ横に近づく。
彼女もじっとこちらを見つめている。
しっかし、近くで見ると、こりゃまたすげー美人さんだなあ。
碧い瞳に吸い込まれそうだ・・・溜息が出ちゃうぜ・・・。
いやいや! そんなこと言っている場合じゃないだろう?
「あの・・・本当に・・・ありがとうございました」
とりあえず、無難な英語で話しかけてみる。
彼女は少し驚いたようだが、口を開く。
「☆〇▽□・・・・・・・・・・・・・・・・・」
綺麗な声で、まるで鳥がさえずるかの様だ。
あれ? 話している内容がさっぱり分からない!
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