第9話 第一章 『世界を統べる騎士団長は、決断を下す』(7)
「近日、ファラオも騎士団長も妹アルシノエに譲る。あやつは積んできた努力の成果が出てきているから、もう任せても問題ない」
セクメトの視線が厳しい。
だが、すぐに明らかなる狼狽を見せはじめる・・・こんな彼女は見たことが無い。
「じゃなくて・・・分かっていると思うけど、魔術師の魔力を結集する『跳躍術式』では、帰ってこられないかもしれないのよ?」
つまり、二千年後に騎士団が消滅、ないしは残っていても充分な人数がいないと、未来からこの時代に戻る術式を発動することが出来ない・・・ということを指摘しているのだ。
その可能性は高い。
だからこの時代から助太刀に行くのだから。
もちろん、分かっている。
「・・・っ、わたしだけ残して・・・あなたは・・・それで・・・」
そこまで言うと踵を返し、セクメトのやつ、急に出て行ってしまった。
そりゃ妾だって、不安で仕方がない。
気が遠くなるような未来なのだぞ?
もはや異世界に違いないし、同じ地球には見えないだろう。
果たして妾がそんなところへ飛び込んで、やっていけるのか?
だから不安に決まっているだろう・・・口に出せないだけで。
・・・・。
しかし、あんなに動揺するセクメトは初めて見た。
彼女は幼いころから一緒だったから・・・人一倍妾に対する愛情が深い・・・。
口では日頃から厳しいことを言っていても、なんだかんだと世話を焼いてくれているのだ。
この歳でも、侍従長としてひたすら尽くしてくれている。
嫁に行ってもいい歳なのに。
・・・だから、無理もない。
だが・・・これは、こればかりは、アレクサンドロス大王の名誉ある系譜の者として・・・仕方のない決断なのだ。
◇◇
一か月後。
機は熟した。
アルシノエへの引継ぎも無事に終えた。
妾自身の幕僚、騎士団メンバーに説明した際は、ちょっとしたパニックを引き起こしたが、さすがに妾の側近たち。最終的には、きちんと必要性を理解して様々な協力をしてくれた。
いま、『跳躍術式』のための魔法陣の生成が終わり、周囲を高位の魔術師が囲んで魔力を結集し、術式の詠唱が始まった。
・・・・この時代に思い残すことは無い、頼むぞアルシノエ。
アルシノエをはじめとする騎士団メンバーや、プトレマイオス朝の宰相をはじめとする閣僚たちが若干の不安な表情を見せる。
案ずるな、妾も『大王の血脈』を護り、この世界の未来をも必ずや護ってみせる!
アルシノエに気持ちを込めて頷いて見せる。
彼女も迷うことなく、頷き返してくる。
さあ、そろそろ魔力が高まり、空間に甲高い音が充満し始め、周囲の光景も歪み始める。
異時間空間への接続が始まった兆候だ!
すぐに音階が急上昇し、歪みが激しくなる!
時空跳躍だ!
と、そのとき!
妾の下へ飛び込む影が!
ばかな! いまここに来たら・・・・!
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