第7話 第一章 『世界を統べる騎士団長は、決断を下す』(5)
「うわー・・・参ったな・・・」
妾は猛烈な疲労感に襲われた。
そのまま書庫の巨大なテーブルの上にある本をどけて、その上に大の字に倒れ込んだ・・・いつもなら、「はしたないでしょ?」と注意が飛んでくるところだが、セクメトも思案顔でそれどころではない。
「えらく根の深い話になってしまったな・・・やれやれ、どうすっかな」
思わず本心が口を突いた。
ファラオであり、マケドニア騎士団長でもある妾が、普段であれば口にしてはいけない言葉・・・弱気とも逡巡ともとれる言葉・・・というのは百も承知の上で。
だが、仕方がない。
なんたって、せっかく大王が命を賭して封印した『闇の粘土板』が、遠い二千年も先の未来で解けてしまうのだから。
仮にその時点でイルミナティが存続していて、奴らに奪われるようなことがあれば・・・二千年先の王国が滅亡してしまう!
セクメトが、どこか遠くを見て呟く、
「二千年後に、イルミナティがまだ残っているのかしらね・・・」
こんな表情の彼女を見たことが無い。
それはそうだ、ファラオの教育係でもあるのだから、ある意味妾より強靭な意思を持っている・・・まあ、それほど重大な事件だということだ。
「・・・残念だがまず間違いなくいるだろうな。ここの記録は奴らについての分析も良く残されているが、恐ろしく長命だそうだ」
「長命? 奴らは人間なの?」
「大王は撃退した際、数名捕囚を得たらしく魔術による調査を実施している・・・ホラ。これが記録だ、さっき見つけた」
妾はそう言って、セクメトに該当する巻物を広げて見せる。
セクメトは、こんな記録までよく残しているわねぇと感心しつつも、貪るように読んでいる。
「遺伝子構造は、我々とほとんど変わらないが一部改変された跡がある・・・一応人間と言えよう・・・おそろしく長命(およそ五百年?)であり、生命力自体が強化されている・・・殺害するには、回復不可能なほど大きな傷を与える必要があり・・・ですって」
「異様にタフな、啓蒙主義の狂信者が何を目指しているか知らんが、文明に止めを刺すヤバイブツを狙ってるって? やれやれ勘弁してほしいぜ」
本音だった・・・マジで勘弁してほしい。
しかもその勝負は、二千年後。
「クレオ・・・どうするの?」
振られた妾も正直思案に暮れている。
テーブルの上の寝っ転がった状態から、ごろーんと転がって、セクメトのすぐ前に顔をずいっと寄せる。
セクメトの顔も真剣そのもの。
目の前に来た妾の顔を睨んでいる・・・っていうカンジに近い。
「どうって・・・登場人物を整理するとだな・・・まずイルミナティは二千年後もくたばらなさそうだ・・・いっぽう我々『大王の血脈』を守護するマケドニア騎士団はと言うと」
「・・・騎士団のメンバーは年々減少の一途、よね?」
セクメトがズバリ指摘する。
そうなのだ、マケドニア騎士団のメンバーは、既存メンバーが素質を見抜いた者を選抜し、さらにそのうえ秘儀継承の試験をパスしなければならない。
厄介なのはこの秘儀継承だ。
学科試験でも、身体能力試験でもなく、個々の魔術への適性を測るものなのだ。だから、どうすればパスするか、というのが分かっていない。
近年、この合格者が減少しており、百年前に比べ騎士団の戦力は二割も減少していた・・・。
正直二千年後に、騎士団がきちんとした状態で存続しているかどうか(妾が騎士団長という立場上口には出せないものの)、自信が無いのだ。
「・・・・そうなんだよなあ」
「そして、開封の術式に必要な『大王の血脈』は、といえば・・・現在まで着実に子孫を残して続いていらっしゃる・・・」
「そうだ、不遜な言い方だが・・・もし将来どこかで『大王の血脈』が途絶えていてくれれば、心配の必要は無い。封印解除に必要な『血』自体が、二千年後に存在しないわけだからな」
「だけど、実際にはこの時代のプトレマイオス十五世様もそうだけれど、幼い時からひと際身体頑強で、しかも子沢山・・・先代もそうでいらしたから、どうやらとても生命力の強い遺伝のようね」
「・・・・」
せっかく頑張って調査して結論が見えてきたのに、ふたりとも黙り込んでしまった・・・。
そりゃそうでしょ。
要は遠い未来、封印が弱体化してしまうという時に、悪役と開封のキーパーソンは残っているが・・・キーパーソンを守護する騎士団だけが途絶えているかもしれない・・・という最悪のパターンってワケ。
あーあ・・・。
どーする?
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