第6話 第一章 『世界を統べる騎士団長は、決断を下す』(4)

 ・・・・

 大王は、粘土板の解読の最終段階で重要なことを発見した。

 粘土板は究極の二面性を持っており、かたや人類の文明の発展を手助けする『光の粘土板』、もう片方は人類自体を滅亡に追い込み文明自体をリセットさせる『闇の粘土板』・・・らしい。

 そして、イルミナティは『闇の粘土板』を狙っている・・・理由は書いていない。

 そこまでは、分からなかったのだろう。

 ただ、彼らにそれを渡して使われたら、人類文明が灰に帰すということだ・・・。

 にわかには信じられないが、粘土板由来の魔術を使って、その威力を知り尽くしている我々とすれば、信じるほかない。

 大王の言う通り、間違いなく『闇の粘土板』は世界を滅ぼす力を与えるのだろう。

 だが幸いにして記録によれば、何度もイルミナティの襲撃があったものの、すべて騎士団が撃退して粘土板を護りきっている。

 そこで、賢明な大王は気付いていたのだ。

 こんな小競り合いを続けていても、そこに解決は無く消耗戦になるだけだと。

 そしてその解決策として、大王は『闇の粘土板』一式を封印したらしい。どこに封印したかについては、ここに記されていないが、別の文書に示されているかもしれない。

 ・・・そして、封印には大王をしても大変な術力が必要だったらしい。

「ここに『血の封印』という文字が見えるな」

 妾は、ごくりと唾を呑んだ。

 騎士団のメンバーなら誰しもその言葉の意味を理解している。

「どうやら粘土板は、それ自体大変な魔力を持っていたみたいね」

 セクメトも神妙な面持ちで続ける。

「・・・ああ、大王自身の『血の封印』となると、そもそも封印という術式自体が彼の命を奪った可能性が高い・・・」

『血の封印』とは、それほど強力な術式で、術者の一命と引き換えるほどのものなのだ。

「我が王家の伝承では、大王は病死したと伝わっていたけれど・・・こんな事実が潜んでいようとは思わなかったわね」

「それに・・・・なぜ我が騎士団の使命に大王直系男子を守護する、とあるのかが分かった気がする・・・『血の封印』を施したのであれば、開封には大王の遺伝子が必要だからだ」

 大王直系子孫を護るというのは、帝国の血筋を絶やさない・・・ということだけじゃないんだ。

 裏に『血の封印』に絡んだ理由があろうとは!

 だがここで、セクメトが何か閃き、

「ねぇクレオ。『血の封印』を開封するのに大王直系子孫の血が必要ってのは分かるけど、封印が万全なら血をもってしても開封は出来なんじゃ・・・」

 そうか! 

「なるほど・・・『大王の血脈』を護れっていうことは、『大王の血脈』を使うと『血の封印』を開封出来るタイミング・・・とか、なにかがあるっていうことか」

 妾は、書庫に格納されていた大王直筆の魔術式要覧を探し出し、懸命にキーワードを追う。

 セクメトは何か嫌な予感がするらしく、冷静な彼女にしては珍しく青ざめている。

 妾もその雰囲気を受けて、なんだか脈が速くなってきたような・・・ううむ、なんか嫌な感じがする。

 あった!

「これだ、封印の術式・・・の・・・有効期間・・・オシリス大周期の二・・・水の周期の三・・・マルスの欠けから五・・・ってコレ、ローマ歴じゃなくって、ヘルメス暦じゃんか!」

「そりゃそうよ。そもそも大王のは時代まだマケドニア王国は隆盛だったし、ローマ歴なんて使ってないでしょ」

 当然見透かしてましたって感じで、セクメトは騎士団に伝わる太古の度量衡であるヘルメス盤を用意して、さっさと計算を始めている。

「出来たわ・・・『血の封印』の効力は二四一九.二八年にて弱くなる・・・このヘルメス盤の精度は問題ないはず・・・つまり、ローマ歴二千八百五十二年の年に急速に弱体化してしまう計算よ」(※ローマ歴は太陰暦で一年が現在の西暦より短い、現在の西暦に換算すると二千二十一年時点ということになる)

 今日はそんなに暑くないのに、気がつけばイヤな汗をかいている。

「いまからおおよそ二千百年後のタイミング『血の封印』が弱体化するタイミングがあって・・・『大王の血脈』の血を使って封印を解くことも可能となってしまう・・・のか」

 セクメトの無言の肯定。

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