第5話 第一章 『世界を統べる騎士団長は、決断を下す』(3)

 んんっ?

「っていうことはさ、奴らは遥か昔から、粘土板を手に入れた我らが大王と敵対していた・・・ってコトか?」

「そうみたいね」

 だいぶ敵の素性に近付いた気がして、妾も思わず興奮して・・・暑気を忘れていたくらいだ。

 だが暑いことには変わりなく、気がつけば喉がカラカラだ。

 控えている侍女に酒を注がせて、一気に飲み干す。

 セクメトはなおも文献の山の中から、ヒントになりそうな個所を次々妾に読んで聞かせる。

 大王が手に入れた粘土板を、(たぶん)価値あるものと知っていて、執拗にそれを狙う狂信者集団・・・。

「でもセクメト。大王がそれにどう対処したのかっていう記録は無いのかな?」

「そうねぇ・・・」と、ぼんやり相槌を打ちながらなおもセクメトナーメンは、資料を片っ端から読みまくっている。

 こういう集中力はさすがだ。

 元々勉強があまり好きではない(いや言っておくが、各種学業の成績は良いのだぞ?)妾は、書物に長時間集中するのはどうも苦手だ。

 ・・・こんな感じで毎日が過ぎていく。

 ◇◇

 二日後、いつものように資料の山に埋もれながら調べていると、

「クレオ! ちょっとこれ見て」

 冷静なセクメトが珍しく声を荒げ、妾に一枚の粘土板を見せる。

「どれどれ・・・『かの秘儀を記したる粘土板には天と地があり。上なるものは下なるもののごとし、しかして両者は対を為し、片や人を信じて歩みを助ける、片や人を信じずすべてを無に帰すものなり』・・・粘土板に二つの顔があるってコト?」

「そこで終わりじゃないわ、ホラ、続きを読んで」

 セクメトが指し示す個所を読む。

「えー・・・『粘土板の姿が見えたり、その姿を我は残すが、許しを与えられた者のみ読むことが出来るよう封印するものなり』・・・これって・・・つまり粘土板にさらなる秘密があるってコト?」

「そう読めるわね。そしてその秘密にアクセス出来るのは・・・おそらく騎士団長、今はクレオ、あなただけなのでしょう」

「ああ、『許しを与えられた者』ってとこか」

「そう、はっきり書いていないけれど、粘土板の秘密ほど重要なこととなれば、大王自らが記録を残しているはず。その大王が指名する者とは・・・代々魔術の秘儀の責任者として引継がれている『マケドニア騎士団長』の他にはいないでしょう」

 すこし興奮しているのか、やや上ずった調子でセクメトは続ける。

「そして、粘土板の真の秘密が解れば、イルミナティが狙ってくる理由も分かる可能性が高いわ」

 ◇◇

 妾たちふたりは、さらに一か月かけて騎士団ゆかりの秘密書庫を探り当て、何冊かの秘密文書を探し出すことに成功した。

 うーん・・・それにしても、穴倉の様な秘密書庫に入り浸ったせいで、毎日全身が埃だらけで、イイオンナが台無しだよ・・・。

 さっさとミルク風呂に浸かりたい。

 ま、それはさておき。

 肝心の秘密文書は、たしかに魔術で封印がなされていた。

 魔術師は、魔術の秘儀を授けられた際に特定の位階も与えられる。まあ、軍隊の階級のようなものだ。そしてその位階ごとに使役する術式が決まっているのだ。

 だから、封印を解くことが出来るのは妾だけ・・・ということらしい。

 セクメトと顔を見合わせて、妾は秘密文書に向き直って、開封の術式を詠唱する・・・。

 わずかな光を発し、封印が・・・解けた。

 すぐに手分けして読解に着手する。

 どの書物も薄いものだったので、それほど時間はかからなかった。

 ・・・・

 だが中身はというと、文書の薄さに反してメチャメチャ深刻なものだった。

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