第4話 第一章 『世界を統べる騎士団長は、決断を下す』(2)

 ◇◇

 妾だって、仮にもプトレマイオス朝のファラオなのだから、普段から多忙なことこの上ない。

 まず法律の整備で関連書類の確認と裁可、経済運営で国庫の状況確認、諸外国と交わす外交文書の確認、徴税関連の進捗チェック・・・などなど、ハッキリ言って寝る間も惜しい。

 それにいざ戦争となれば、軍を率いて最前線に立たねばならない。

 だが・・・それら重要な国事を脇にどけてでも、取り組まねばならない懸案事項が生じているのだ!

 それは、歴史上の表舞台に出てこない秘密結社である『マケドニア騎士団』に関わる重大事。

 かのアレクサンドロス大王が結成した、最高の魔術師集団だ。

 代々魔術を継承し、この二百余年、変わらず王朝の安定ためにその力を駆使している。

 妾の表の顔はファラオだが、実はこの時代におけるマケドニア騎士団長も務めている。

 裏の顔というヤツだな。

 だが、たとえ裏の存在であっても、騎士団が無ければ王朝の存続は出来なかったであろうと断言出来る。

 そのくらい騎士団の存在、いや魔術の威力というものは凄まじく大きい。

 我々騎士団は、日々大王から受け継いだ誇りを胸に王朝を、そして『大王の血脈という大王直系の男系子孫』を護るために闘っているのだ。

 その証左として現在までに、かの強大なローマ共和国やナイル源流域の有力蛮族などが、このプトレマイオス朝への侵入を躊躇しているのは、ひとえに奴らが騎士団の魔術を目の当たりにし、恐れをなしているからに他ならない。

 だが、その騎士団のメンバーがこともあろうに最近不穏な輩の存在を発見している。

 その輩は、一件黒装束の修道僧のような姿をしており、魔術に似た異様な力を使って騎士団メンバーを襲ってくるという。

 明らかにローマ勢など既成勢力ではなさそうだ。

 幸いにしていまのところ、散発的な活動なので個別撃破に成功しているが、見過ごすことは出来ない。

 なぜなら、その異様な力が騎士団の魔術に似た匂いがするからだ。

 もし、騎士団とは別の魔術師集団(?)がいるのであれば一大事だ・・・我が騎士団の築いた王朝が脅かされてしまうリスクにもなりうるからな。

 たとえばそいつらが敵国ローマに組してしまったら、それこそ我が王朝の危機に直結する。

 ・・・まあ、そういうわけで騎士団ナンバーツーでもあるセクメトナーメンを巻き込んで、敵の正体を調べようと文献を当たっている訳だ。

 この大図書館には、大王の時代から引継がれる魔術に関する秘密文書が眠っている。

 それらは歴代騎士団員にのみ閲覧が許され、大王が解読した謎の粘土板の内容や、騎士団のメンバーが受ける継承の秘儀、それに各時代の騎士団の活動記録などが収められている。

 それらを漁って、不気味な連中のヒントが無いか探そうってワケ。

 なんたって、敵も魔術に似た超常的な力を使っているのだから、何らかの記録が残っていてもおかしくは無い。

 ・・・・

 かれこれ一か月にもなろうという時間を費やして徹底的に調べている・・・せいか、ヒントがいくつか出てきている。

 テーブルに積んだ書籍や粘土板の山を掻き分けて、セクメトが話しかけてくる。

「どうやら大王の時代、いやもしかするとさらに太古から、この連中は粘土板と関連があるらしいわね・・・大王の粘土板解読時の記録にも何度も出てきているわ」

「こっちの騎士団結成前の記録にも出ているぞ・・・ええと『光差すピタゴラス教団の一派』とあるな。ピタゴラス教団・・・つまり大王の時代より三百年以上遡る『狂信的な啓蒙思想の集団』とある」

 セクメトは訝しそうに、

「こっちには『愚かな人間に理性という光を当て、理想的な社会を目指す狂信者』と見做して大王は、『闇の者』または『イルミナティ』と記録している・・・」「そしてイルミナティは、我が粘土板を狙って執拗に襲ってくる」


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