12話 サラマンダーと冒険者パーティとの遭遇

 翌日、緋夜は再び冒険者ギルドに来ていた。ガイに言われた通り今朝は早めに朝の五時に起き、ギルドに来てみるとそれでも人が幾人かいるのだから驚きだ。


「今日はどうしようかな……前回は討伐系だったから今回は採取とか……?」


緋月は一つの依頼に目を止めた。


【依頼内容:販売の手伝い

  ランク:問わず

 場  所:ユナンの薬屋

  依頼者:ユナン

 報  酬:銀貨二枚(追加報酬???)

 備  考:計算が出来るやつ     】


(へえ、やっぱりこういう依頼もあるんだ)


「それにすんのか?」


じっと眺めていた緋月にガイが声をかけた。緋夜はしばし悩みやがて首を振った。


「やってみたい気持ちはありますが、今日は別のものにします」

「けど気になったんだろ?」

「ええ、まあ。故郷ではこういった依頼内容は聞いたことありませんでしたから。実際に見つけてちょっと面白いなと」

「聞いたことない?」

「いえ、なんでもありません」

「? そうかよ」


ガイは少し不審に思ったようだがそれ以上聞いてくることはなかった。


(ふう……常に気を張って少しでも怪しまれないようにするのって結構疲れるな)


など思いながら依頼ボードを眺め、緋夜はある依頼を手に取った。


【依頼内容:ガマの採取

  ランク:問わず

 場  所:王都外れにある沼

    数:五十

  依頼者:クララ

 報  酬:銀貨五枚(追加報酬なし)

 備  考:特になし        】


「これにしよう」

「決まったのか」

「はい。受付行ってきますね」


受付に行くとゼノンが待っていた。


「よう嬢ちゃん。依頼か?」

「そう。これよろしく」

「おう。……今日は採取系か」

「前回が討伐系だったからね」

「そっか。ところで嬢ちゃんガマってのがどんなのか分かってんのか?」

「ツユクサ類イネ目ガマ科ガマ属の多年草の抽水植物で別名ミズクサともいい、主に若葉を食用、花粉を傷薬などに使用してきた」

「……正解だ」

「よかった」


(こっちの植生が向こうと同じで助かった)


この世界の植生が同じであることはセフィロスにいた時に把握していたので、全く問題はなかった。そこは緋夜が安心したところの一つである。


「まあ、わかってんならいい。気をつけて行ってこいよ」

「はーい」



 受付を済ませ緋夜はガイと共にガマが生息している沼に向かった。


「お前植物詳しいのか?」

「そこまで詳しいわけではありません。素人に毛が生えた程度ですよ」

「にしてはやけにあっさり答えていたが」

「親から教わりました。楽しくてすぐに覚えてしまいました」

「そうかよ」

「ですが私何かに没頭すると周りが見えなくなってしまうんです。それでしょっちゅう怒られていました」

「ああ、だから初めて会った時コケたのか」

「はい」

「……それで死んでも知らねえぞ」

「実際何回か死にかけました」

「前科ありかよ。ったく」

「楽しいことはやめたくないし」

「それで死んだら意味ねえだろうが」

「ごもっともです」


そんな会話をしながらも二人は沼のある森林に着いた。


「綺麗なところですね。空気が澄んでいます」

「まあ川があるしな」

「あってもなくても自然はいいものです。川の水はそのまま飲めますか?」

「ああ」

「飲めるんだ……」

「どうした?」

「いえ、私の故郷も昔は飲めたみたいだけど今は空気が汚染されて洗浄しないと飲めなくなったしまったんです」

「故郷? セフィロスじゃねえのか?」

「違います」


(あんな国誰が故郷なんて思うか)


などつい考えてしまい無意識のうちに眉間に皺が寄る。


「どうした」

「いえ。とりあえず仕事を済ませましょう。ガイはどうしますか?」

「この辺りで適当になんかしてる」

「分かりました」

「あんま変なとこ行くんじゃねえぞ」

「……子ども扱いはやめていただきたいのですが?」

「んな扱いした覚えはねえぞ」


(とか言いながら顔若干ニヤけてるのが気になるんだけど)


「終わったら声かけろ」

「はい」


微妙な気持ちのまま緋夜はガマの採取を始めた。沼の近くまで歩いて行いくとガマが大量発生していた。


「これならすぐに終わりそう」


そのままガマの採取を始め、十本採るごとに束ねてポーチに入れていく。三十本採り終えたところでガイの方に視線を向けると、木にもたれかかって目を閉じていた。


「もしかして寝てるのかな。よくあれで寝れるなぁ」


体は疲れないのだろうか、とも思ったがひとまず作業に戻る。


「……よし、あと十本」


さくさくと作業を進めていき残りあと十本になったところでガイが緋夜の側にやってきた。


「あ、ガイさん。寝てたのでは?」

「寝てねえよ」

「声かけるまでもなく来るとは」

「なんだ?」

「なんでもありません……よし」

「終わったのか」

「はい、それじゃあ……わっ!」


突如、ガイが緋夜を背に庇った。突然のことに困惑した緋夜だが、すぐに原因が分かった。


「魔物と……人間ですか?」

「魔物二体に人間が四人だな」

「……随分と正確ですね?」

「あ? そんなん勘でわかるだろ」

「私がわかるのはせいぜい何かくるな程度ですよ」

「もう少しわかるようになれ」

「……」


(まあ確かに気配察知くらいは的確にできるようにならないとまずいか)


と、ガサガサという音が近づき、やがて茂みから四人の男女が叫び声を上げながら飛び出してきた。


「ゲン! 人いるんだけど!?」

「は!? ちょっおい!?」

「このままじゃ巻き込んじまうよ!」

「んなこと言ったってよおっ!」


と、大変賑やかな会話をしながら四人組は緋夜達の元に寄ってきた。


「すみません! お邪魔させていただきます」

「申し訳ねえ……」


など言っているうちに奥から魔物が飛び出してきた。


「あれって……サラマンダー?」

「ああ。んなとこに出るのは珍しいな」

「ここら辺にはいないのでしたよね?」

「ああ、普通は出ない。お前はここにいろ」

「はい」


ガイが剣を抜きサラマンダーに向かっていく。


「ん? ……あいつ『漆黒一閃』じゃねえか!?」

「はあ!?」

「なんでんなとこにいんだよ!?」


(漆黒一閃?)


どうやらこの四人組はサラマンダーに気を取られすぎてガイのことに気づかなかった模様。見たところ冒険者だが大丈夫か、と内心少し心配をしてしまった。その間にサラマンダーを倒し、平然とこちらに戻ってくるガイを笑顔で迎える。


「お疲れ様ですガイさん」

「疲れてねえよ」

「見ればわかります。お強いですね」

「ふん」


何事もなかったかのように会話をする緋夜達に四人組は呆然としていた。


「あ、あの~……」


恐る恐るといった様子で四人組の一人が緋夜に声をかけると緋夜とガイが同時にそちらを向く。


「済まなかったな。巻き込んで……けど、サラマンダーを倒してくれてありがとな。俺らまだDランクでさ……サラマンダーはAランク相当だから、どうにもならなくて……ギルドに戻って応援を頼もうとしてたとこだったんだ」


謝罪と感謝と状況説明をした冒険者はおそらくこのパーティのリーダーだろう。非常に申し訳なさそうな顔で話している。他のメンバーも全員同じだった。


「お気になさらず。私達に被害はありませんでしたし、この辺りに普段棲息していないのなら驚くのも無理はありませんよ」

「だが……」

「気にしていないのですから、そこまで申し訳なさそうにされるとかえって困ります」

「ああ……分かった。ほんとに助かった。俺はこのパーティのリーダーのゲンだ。そんで左から、キラ、ダイアン、シアだ」

「よろしくお願いします……」

「どうも」

「助かったよ。ありがとう」

「ヒヨです。駆け出しの冒険者です。よろしくお願いします」

「そっか、駆け出しか……なら尚更申し訳なくなるな」

「ですから気にしていませんよ。非常に頼もしい付き添いもいますし」

「……付き添い?」


四人はそろっとガイの方に視線をやった。


「……付き添い、なのか?『漆黒一閃』が?」

「はい」

「「「「…………」」」」


四人は揃って固まった。緋夜はその様子を見て苦笑する。


「それはなんつーか……その……」

「贅沢、ですね……」

「絶対無理だ」

「アンタすごいねえ……」


四人はなんとも言えない表情で口々にそう言った。


「ま、まあその、助けてくれたことに変わりはねえ。えっと、ありがとう、ございました」

「「「ありがとうございました」」」

「別に」

「気にしなくていいって言っていますので。頭上げてください」

「そこまで言ってねえよ」

「ですが、そういう意味では?」

「……ふん」


図星だったのか、ガイはそっぽを向いた。四人はおずおずと頭を上げた。


「皆さんこれからギルドに向かうんですか?」

「ああ、依頼も終わったし……ギルドにも報告しといた方がいいだろうからな」

「そうですか。折角ですから私達と一緒に戻りませんか? ここで知り合えたのも何かの縁ですし」


緋夜がそう提案すると、四人は揃って肩をびくつかせ、チラッとガイに視線を向けた。


「いいのか? ……その……」

「私もガイも気にしませんよ。どうせ戻るところが同じなのですから」

「……じゃあ、お願いします?」

「はい」


そして六人揃ってギルドヘと帰還した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る