13話 穏やか(?)な時間

「はあっ!? サラマンダーが出ただと!?」


依頼を終えた緋夜達は知り合ったゲン達と共にギルドに戻りゼノンにサラマンダーの件を報告するとゼノンは驚きの声を上げ、偶然聞いた者達がざわつきだした。


「ゼノン、声大きい」

「すまん。……んで? 本当なんだろうな」

「嘘言ってどうするの。私達全員遭遇したんだよ。まあガイが倒したんだけど」

「そ、そうか。ちなみにそれを持ってきてたりは……」

「ああ、それなら……」


緋夜はポーチからサラマンダーの死骸を出そうとするとゼノンに全力で止められた。


「ば、バカっ! んなところで出すんじゃねえ!」

「ごめんごめん。でもこれで信じてくれた?」

「あ、ああ。嬢ちゃん時々ぶっ飛んだことするよな……」

「証拠は大切」

「そうかよ……まあいいや。とりあえずお前らがサラマンダーに遭遇した事はギルマスに報告しとくぜ。何せここは王都だ。近場にサラマンダーが出たとなりゃ、国王にも報告がいくだろう。……にしても」


そう言ってゼノンはゲン達に視線を向けた。


「お前らは運が良かったな。たまたま嬢ちゃん達が近くにいなけりゃ今頃は死んでただろうぜ」

「あ、ああ。それは、本当に」

「逃げるしかなかったのが情けないけどね」

「依頼は……達成、できましたが……」

「あんまりこういうのは勘弁だな」

「ああ」

「最近はどうも魔物が活発化してるようだがさすがにサラマンダーは予想外だ」


四人の言葉にゼノンが難しい顔で反応を示した。やはり、魔物の活発化はかなり影響が出ている様子だった。


「まあなんにせよだ。無事でよかった。依頼

も達成したみてえだし」

「あ、ああ。そこはまあ……」

「とりあえず……お前ら両方とも依頼達成っつーことで」


ゼノンは依頼達成の手続きと報酬をそれぞれに支払った。


「ありがとう。それじゃあ」

「おうよ」


そう言って緋夜達がギルドを出るとゲン達が追いかけてきた。


「ちょっと待ってくれ!」

「?」

「あ、あのさ、折角知り合えたし、その……少し話さねえか?」

「私と?」

「ああ……まあアンタが良ければ、だが」


そう言われ、緋夜はしばし考えやがて頷いた。理由は単純で情報収集と人脈作りのためである。低ランクの冒険者でも繋がりをつくっておくに越したことはない。


「いいですよ。ではどこか割りのいい店にでも入りましょうか」

「ああ、ありがとう」

「ガイさんはどうします? このまま行きたいところに行っても構いませんが」

「酒が飲みてえ」

「分かりました。……じゃあ行きましょうか」

「え? あ、ああ。けど……その酒が飲みたいって……」

「酒が飲みたいっていうことはつまり酒場に行きたい、という意味です。多くの冒険者にとって割りのいい店は酒場でしょ?」

「ああ、なるほど?」

「では、行きましょうか」

「あ、ああ」


ゲン達は曖昧な反応を示したが、そのまま緋夜達にくっついて近くの酒場へと向かった。



       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「さて、それでお話とはなんですか?」

「いや、その特に話があるってわけじゃねえんだ。ただ……」

「偶然とはいえ、アタシらが助けられたのは事実だから改めて礼を言いたかったんだ」

「そうでしたか」

「ああ、改めて自己紹介をさせてくれ。俺はこのパーティの頭をやってる剣使いのゲンだ。よろしく」

「アタシはシア。斧使いでこのパーティの副リーダーね。女の冒険者が増えて嬉しいよ」

「弓使いのダイアンだ。此度の件感謝してる」

「……えっと、魔法使いのキラ、です……よ、よろしく、お願い、します……」


そう言ったきりキラは赤くなりそのまま俯いた。そんな様子にシアが苦笑する。


「悪いね。この子はちょっとシャイなんだよ」

「そのようですね。私はヒヨと申します。魔法使いではありますが、遠距離系の武器も扱えます。つい最近冒険者になったばかりですがよろしくお願いします」

「ああ。よろしく」

「はい。あと……」


緋夜はガイに視線を向けたが本人は興味なさそうに酒を飲んでいる。


「今付き添いをお願いしてる、ガイさん。大変頼りになってます」

「あ、ああ」


まさか『漆黒一閃』まで紹介するとは思わなかった、という言葉が聞こえてきそうな表情になっているゲン達にクスリと笑いながら、緋夜自身も酒を煽った。


「それにしても、皆さんがサラマンダーと共に出てきた時は驚きました」

「それは本当に悪かった。広いところに出ようと思って走ってたらアンタらに遭遇したんだよ」

「なるほど。あそこは丁度沼でしたし、ガイもいたので本当に運がよかった、ということでしょうね」

「ああ。マジでビビった」

「本当に。あんなもの今までいなかったのに」

「だよなあ」

「魔物の動きがここ数年で急激に活発化しているからな。もはや何があっても不思議ではない」

「まあ、確かにそうだけどね……」

「まあ、実績が増えるのはありがてえがあんまり多くても困るよな」

「そう……ですね……」

「ああ。だからそのヒヨさん? も……」

「ヒヨで結構ですよ」

「そ、そうか。なら俺らに対して敬語はいらないんで……」

「……はい、ありがとう」

「あ、ああ。ヒヨも気をつけろよ。最近の魔物は厄介だ」

「忠告どうも。でも大丈夫だよ」

「そ、そうかならいいんだが」

「そういえばアンタこの王都では見ない顔だよね? どこから来たの?」

「元はセフィロスにいたんだけど事情があってシネラに来たんだ。けど、お金が欲しくて冒険者になることにしたんだ。冒険者ならいい具合でお金が入るから」

「あ~確かに。稼ぐには丁度いいよね~」

「まあ、大体は金だよなあ」

「みんなもそうなの?」

「ああ。俺は元々シネラの田舎にいたんだが、親父と大喧嘩してそのまま家でしちまってさあ、食いぶちに困って冒険者になったんだ」

「なかなか豪快だね」

「アタシは女癖最悪の貴族の坊ちゃんをぶん殴って、そのまま冒険者になったよ」

「貴族の子息を殴った……って、大丈夫だったの?」

「ん? ああ、不敬罪のことね。それがさその坊ちゃんの父親がまともでさ逆に領地の女達に謝ったんだよ。愚息がすまなかったって」

「いい貴族だね。基本的に貴族って謝罪とかしないから」

「だよねえ、アタシ感動しちゃって。まあでもその坊ちゃんは廃嫡になったらしいけどね」

「廃嫡?」

「そ。まあでもあれに孕まされた女も少なくないから当然だと思うよ」

「ああなるほど。それは……なんか父親の方に同情するよ。醜聞どころじゃないし」

「全くだよ。しかも全員遊びだったらしくてさ。おまけに婚約者までいたってんでその婚約者の家とも揉めてえらいことになったし」

「あ~、そういやんな話聞いたことあんな」

「俺もだ」

「私も……聞いたこと、あります……」

「ガイさんは?」

「……聞いた気はする」


緋夜以外全員が聞いたことあるとは、かなり大ごとになったようだ。緋夜は内心でその父親に同情した。これは仕方ないだろう。


「なるほど……ダイアンは?」

「俺は単純に手頃な職を探していたら冒険者に行き着いただけだ」

「そうなんだ。キラは?」

「私、は…………」

「……言いにくいのなら言わなくてもいいよ」

「は、はい。でも、お金が必要だった、ことは、一緒です……」

「へえ……ちなみにガイさんは?」

「あ? 金稼ぎ」

「即答しますか」


とても短くシンプルな答えだった。やはり大概はお金の問題らしい。


「やっぱりお金は大事だよね」

「「「「「その通り」」」」


酒場の一角はいつの間にか金銭欲の塊と化していた。冒険者になった理由からお金の話に移ってから六人の話題はお金一色。それこそ店主が『他の話題はねえのかよ』と全力でつっこみたくなるのを堪えるのに必死になったほどに、出会ったばかりの冒険者達はお金の話を酒の肴にしていたのだった。


       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「それじゃ、また」

「うん。今日はありがとう」

「こっちこそ、楽しかったよ」

「また、何かあればよろしく頼む」

「こっちこそ」

「ああ、じゃあな」


ゲン達と別れ緋夜とガイは宿に戻る。


「楽しかったです」

「ほぼ金の話しかしてねえがな」

「いいではないですか楽しければ。まあ店主が変な目でこっち見てたみたいですが」

「当たり前だ。酒飲んで金の話なんざ」

「ガイも普通に話してたではないですか」

「お前が話振るからだろうが」

「そうでしたか?」

「……お前な……」

「何か?」

「……チッ」


緋夜が顔を覗き込むとガイは舌打ちをしながら視線を逸らした。そんな様子をにっこり笑いながら空に視線を向ける。サラマンダーには驚いたものの、楽しい時間を過ごしたのだった。

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