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新山さんの家のマンドラゴラ農園は品種ごとに区画が分けられている。
基本的に、需要のあるものほど多く、需要のないものは少なく、栽培しているようだ。
マンドラゴラは品種によって適切な栽培方法が異なる場合もあるのだが、そこは江戸時代からマンドラゴラの栽培を続けてきた新山家。きちんとした方法で安定して、高い品質のマンドラゴラを生産している。
「業界人の間じゃ結構有名みたい」
新山さんは誇らしげに語ってくれた。
さて。マンドラゴラの栽培数が品種によって異なるというのはつまり、品種によって農地面積が異なるということである。
たとえば、食用のブランドマンドラゴラ「ほまれ鳴き」にαへクタールの農地が当てられているとすれば、医療系に需要のある「晴天突破」には3αヘクタール……つまり3倍の農地があてられているのだとか。
だが、今の新山家には全盛期ほど人がいない。広大な農地も、複数のマンドラゴラを同時に栽培するノウハウも宝の持ち腐れとなりつつある。
その上、近年では企業による計画的マンドラゴラ栽培も行われるようになってきている。
マンドラゴラの叫びは人間を発狂、ないし死に至らしめるものであることは小学生でも知っていることだ。
ゆえに、歴史的に組織的大規模経営が幅をきかせてきた農業世界においても、マンドラゴラは特別、家族単位の小規模経営が主流だった。
◆
マンドラゴラは企業にとって生産しにくい作物だ。
収穫作業は命がけ。悲鳴による精神汚染は密かに進行し、閾値を超えて発狂した段階でやっと、精神汚染が進んでいたのだと分かる。作業員が要求する報酬は無論、高額になってゆくし、そもそも人が集まらない。取り締まりも厳しい。
すなわち、雇用契約関係によって農園主と労働者が繋がるにはこれら大きな問題があった。
とりわけ我ら日本では江戸時代に発令された田畑売買禁止令によって、狭い農地での作物栽培を余儀なくされた百姓らが一攫千金を狙い、禁令が発布されるまで南蛮人参ことマンドラゴラは盛んに栽培された。一つ一つが高価で取引されるマンドラゴラは、夢のある作物だったのだ。
昨年のセンター試験では江戸時代に好んで栽培された商品作物を選ぶ問題が出題されたらしい。マンドラゴラという横文字を見て明らかに違うと判断し、正解である「木綿、菜種、マンドラゴラ」を選ばなかった受験者が多かったのだとか。もったいない。
閑話休題。
しかし、IT化著しい近年では企業によるマンドラゴラ栽培忌避の流れが薄れているのだと新山さんは語る。
「……最近はマンドラゴラも稲みたいに機械で収穫できるようになってね。大量の収穫作業員を雇う必要がなくなってきてるみたい」
収穫機械を操縦する一人がいれば、十分に効率的な収穫ができる。マンドラゴラ収穫作業員の雇用についての問題は、もはや解決されたも同然。そのように時代は変わりつつあるらしい。
……にしても、すごい話だ。マンドラゴラの叫びは精密機械の動作すら狂わせる代物なのに、収穫機械を現実のものにしてしまうなんて。
情報系の学生としては大変興味深い話だが、今は捨て置く。
――ともかく、こうした企業による経営の波に対抗するために、新山さんはITの力――僕を頼ることにしたのだ。
現状の、すべてを収穫するのに一ヵ月近く費やす非効率的なやり方ではだめだと、強く感じて。
……だが、それには一つ、障害があった。
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