03

「それで? 学生さんごときに何ができる」


 茨城県――新山さんの家の客間にて。

 新山さんのお父さんはこちらを軽んずる態度を微塵も隠そうとしなかった。


「……僕が提案するのは、最小の精神汚染で最大の収穫数を実現するための収穫順序です」


「順序?」とお父さんが訝る。


「んなもん変えたところで意味なんかねえ」

「それは違います」

「ああ?」


 お父さんの鋭い眼光が容赦なくこちらへ向けられた。……心臓が止まるかと思ったが、ここで臆しては説得なんてできやしない。

 二人きりの客間の中、僕はごく、と唾を飲んで相手の目をしっかりと見る。


「特定危険植物取扱法第9条――『マンドラゴラの収穫は、規定の汚染度未満の作業員によって行なわれなくてはならない。作業中に既定値を超過した作業員は、直ちに72時間の安静期間に入らなくてはならない』。マンドラゴラの発する叫びによる精神汚染は、収穫時間を伸ばす大きな要因の一つです」

「フン」


 この反応は、僕の説明に多少は耳を貸す気が起きた、ということだろうか。

 続ける。


「ですので、収穫効率の最大化には汚染度の考慮が必要不可欠です。具体的には、汚染度の小さな品種、または作付数の少ない品種から収穫していくべきであるとなります」

「……それは、ウチをバカしてるんか? ええ?」

「い、いえ。そのくらいのこと、当然実践しているとは思います。ですが、徹底するのは難しいのではないでしょうか」

「どういうことだ。言ってみぃ」


 容赦ない威圧感だ。正直怖い。


「……新山さんが現在育てているマンドラゴラの品種は10以上にものぼります。それら全ての収穫数、品種ごとに異なる汚染度を把握し、完全に考慮した上で収穫を行うことは非常に大変だと思います」

「フン」

「僕が提案するのは、それらの計算を全てプログラミングによって実現するということです。そうして、最小の汚染度で最大の収穫数を実現する順序を求める」

「…………」


 僕が一通りの説明を済ませると、お父さんは浅黒く、筋肉で内から盛り上がった腕を組んで「むう」と唸る。

 どうやら心証はそこまで悪くないらしい。少なくとも、考慮に値すると見てもらえたようだ。少し、安堵する。

 やがて、お父さんは口を開いた。


「いくつか、聞きたいことがある」

「……どうぞ」

「具体的に、どんなプログラムで調べるんだ?」

「専門的な話になってきますが、」

「構わん」


 僕は予定しているプログラムについて説明した。

 ここで変に侮ったりして、説明を省いてはこれまでの努力が水泡になりかねない。可能な限り分かりやすく、しかし些かの欺瞞も折り込むことなく可能な限り学術にも正確な説明を心がける。


 ――結果、お父さんは納得してくれた。

 相変らず、固い岩のようなしかめっ面のままだったが、どこか穏やかなようにも見える。少なくとも、最初に見られたようなこちらを侮る雰囲気はなかった。


「うむ。そんじゃあやってみぃ」


 許可が出た瞬間、客間の扉から「やったーっ!」という、新山さんの歓喜の声が聞こえてきた。

 お父さんはため息をつくと僕をまっすぐに見て、人を殺せそうなほどの気迫を放つ。


「……許可は出した。だが、失敗は許さん」

「はい」


 正直、上手くいく保証なんてできやしない。僕はまだ、新山さんちの育ててるマンドラゴラの品種も作付数も、十分に把握していないのだし、例年の収穫順序だって知らないのだから。

 もしかすると、一日たりとも収穫日数を減らせないかもしれない。


 ――それでも、やるしかないのだ。

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