第4話 対処法

はじめに対処方を書いておく


四十三℃以上のお湯で患部を温める


ムカデの毒がその温度以上になると分解されるから

いたって簡単である

どこの家庭でも手軽に出来る






その時は違うのだよって叫びたい気持ちだった


「これはさ、ムカデにやられたの」

「ハオコゼに刺されたんじゃないよ」

「俺、釣り歴二十五年だもん、嘘じゃない」


なんて言っても

説得力ねぇよ・・・・・・・あえて黙った俺








ムカデに噛まれたのは金曜日


夜中に寝ていたらチクッとした痛みで起きた



すぐにわかった


コレ、ムカデだな

部屋中を探すと居た


デカイな十㎝はあるじゃないか

すぐに外に出して再び寝た


コレがいけなかった





翌々日の早朝



篠島の沖堤防に渡してくれる船の中

俺の右手が異常に腫れあがっていた







それでもメバル釣りに行きたい


我慢はしません

痛いのは我慢するけど

釣りに行くのは我慢しない





沖堤防に到着し、ヘッドライトの明かりを頼りに仕掛けを作る

時刻は午前4時過ぎ




俺は胴づきでメバルを狙う

第一投目から小さなアタリ



軽くあわせて引き上げる

暗い海面からあがる小さな魚


ヘッドライトを照らす


「ちっ、ハオコゼか」





近くで釣っていた親子連れが近づいてきた


「ハオコゼですか?」父親が言った

「見せていただいていいでしょうか?」

「子供に教えたくて」




当然、快諾

「どうぞ」



ハオコゼを魚バサミで掴み 子供に見せる


「コレがハオコゼ」

「背びれに毒があってね、ここで刺されると手なんてパンパンに腫れあがる」

「たまに釣りを始めたばかりの奴が刺されて手をパンパンにしているよ」


なんて得意げに教える俺




輝きを失って行く星たち

初夏の日の出の勢いは凄まじい

みるみる明るくなる景色に浮かび上がる俺の右手

子供は俺の右手をガン見していた



「・・・・・・・・・違うから!!!」

叫びたいのを堪える



四十三℃のお湯で温めても

きっとこの気持ちは分解されない

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