第33話 そうして世界は動き出す。
戦闘が終わって約1時間が経過した。
空を飛んでいた戦闘機や島を囲っていた戦艦はあらかた街を破壊し終わると首都防衛のために日本に向かい、〈アンリヴァル〉は静寂に包まれていた。
呉用たちは生き残りのプレイヤーを集め、破壊を免れたワープポイントから新しくメニュー画面に追加された都市〈コーネル〉への移動を手引きしていたのであった。
「……それで呉用。〈コーネル〉はフローズンが東京を制圧した結果という事でいいのか?」
俺は瓦礫となった家の上で休憩する呉用に声を掛ける。
都市〈アンリヴァル〉にはもう以前の面影はなく、黒ずみを持った廃墟がそこら中に散らばっていた。
「ねじまきか。その通りだよ。フローズンが東京を取ると同時に街が光に包まれ〈コーネル〉が現れた。そう報告を受け取っている」
「日本ほど離れた場所にはチャットが届かない筈だが、どうやって連絡を?」
「これだよ」
俺の疑問に呉用はポケットからスマートフォンを取り出して見せた。
「携帯? 電波はあるのか?」
「あぁ、不思議なことにこの島には電波が通ってるんだよ。……まあちょうど良い機会か。君には今回の戦いで損な役割を押し付けてしまったからお詫びに1つ教えておいてあげるよ。俺たちの魂がこの体と一体化してきているのは知ってるかい?」
その問いに俺は頷く。
「流石だね。まあそれにすら気づいてないギルドも多いだろうが、俺はさらに先の現象に気が付いたんだ。それは《ディザスター》と現実世界の一体化だ」
「一体化?」
「そう、一体化。それは自らの体だけではなく、チャット機能もインベントリー機能も、ゲーム時代にあった機能全てがこの世界と一体化しようとしているんだ。それも歪な形でね」
それを聞いて俺は少し考え込む。
一体化。身近なものだとチャットとスマートフォンが分かりやすいだろうか。電波の届くはずのない場所に電波があり、ゲーム時代ならばチャットが届いたはずの距離に届かない。
もしそれが一体化による影響だとするならば、チャットの距離と電波の距離が混ざり合ったと言う事だろう。本来チャットは、おそらくではあるが魔力によって送信されていた。しかし現在、その魔力がこの地球に溢れる電波と一体化し超長距離まで届く電波へと進化したのである。
魔力が電波と一体化した結果として、魔力を失ったチャットは長距離に届かなくなり、スマートフォンはこの島でも使えるようになった。
それが呉用の言う一体化であるのだろう。
話は理解できるし、妙に信憑性もある。だが、もしそれが本当に起こっているのだとしたら世界は大きく変わることになる。
それこそ荷電粒子砲のように、現代の技術では不可能であった空想科学の代物が魔力によって実現するのだ。インベントリーも、もしかすると現実の鞄と一体化し四次元ポケットのような物になるかもしれない。
様々な可能性とそれに伴うプレイヤー側の危険性が俺の頭の中で次々生まれていた。
「その話はフローズンたちも知っているのか?」
この話の信憑性と利用法はギルドに持って帰るとして、一体どれほどのプレイヤーにまで話が行き渡っているのかを確かめようと俺は話を振った。
それに対して呉用は首を横に振る。
「いや、[臥竜]しか知らないトップシークレットの話だよ。君には本当苦労させてしまったからね。戦利品として受け取ってくれればいいさ。慎重に使いなよ」
その話が本当なのかを確かめるすべはないが、それを含めても十分すぎるネタだと俺は思う。
いずれ皆気づくことになる話だとしてもこの段階でここまでのネタを俺に渡す思い切りの良さはまるでフローズンの様でもあり、囮に使われた事で少なからず不満を持っていた俺への印象操作であるならば完璧だ。
これが全て呉用の戦略の一貫だとするならば本当に恐ろしい男だと思うと同時に、利害が一致し続ける限りこれほど頼もしい味方はいないとも思う。
ギルドメンバーを〈コーネル〉で復活させたら呉用たちとは別の道を行こうかとも考えていたが、この男を相手にするにはどうやらもう少し準備が必要な様だ。
「そう言えば、[臥竜]が生存しているのは分かったが他のプレイヤー、ペラーさんや[noob11]のメンバーはどうなったんだ?」
「死んだプレイヤーは〈コーネル〉出現と同時に全員蘇生されたよ。ここで戦ったプレイヤーも含めて全員ね」
なるほどと思いながらなも俺は「……さっきの話を聞くと喜んでいいのか微妙だな」と、言葉をこぼす。
「その感性は正しいよ。もしも2つの世界が1つになろうとしているのならば、いずれは協会での蘇生というこの世界と矛盾したシステムも変化するだろう。今回の蘇生はその前触れさ。今後蘇生はこうなって行きますよという前触れ」
言いながら呉用は、話について来られているかを確認する様にして横目で俺を見る。
「今後は現実世界の街を制圧しなければ生き返られなくなる。呉用はそう思っているのか?」
俺の言葉に珍しく言い淀む呉用はいつになく真剣な目で俺を見た。
一体何を考えているのか。
その目には好意も敵意もなく、黒く底の見えないその瞳に俺は一抹の恐怖を覚えた。
そして呉用はにっこりと微笑む。
「今日はGに勝って気分がいいから特別に考えてる事を話してあげるよ。一度しか言わないからよく聞きなよ。そもそも生き返るという世界の理を外れた現象が俺たちの為に用意されていると考える事自体がおかしいんだ。プレイヤーの蘇生はミッションクリアの報酬ではなく《ディザスター》の一部がこの世界と一体化した事による現象であると考えるのが正しい。今回の蘇生は世界一体化における手順の一部なんだよ。
砂場の上に城を作る為には一度砂を慣らさなければならず、砂を慣らす為には手を使って砂を払わなければならないように、世界を一体化させる為には土地を一度綺麗に慣らさなければならず、土地を慣らす為にはプレイヤーが居なければならない。つまり、最初から組み込まれていた手順の1つがプレイヤーの召喚だ。だから今回のように東京を一体化させ、また新たな一体化が始まる時に俺たちは召喚される。
それが今回の件から分かるこの世界の仕組みだ。
そうして、最終的にはこの世界そのものが《ディザスター》を含んだ新たな世界となり、俺たちはプレイヤーではなくたった1つの命を持つ人間として新たな世界に生きることとなるだろう。
だからね、協会は世界が用意した俺たちの為のシステムではなく、偶然残った《ディザスター》の遺産なんだ。一体化が進むと徐々に消えていき、消え去るもの。……君に忠告しといてあげるよ。死は遠からず俺たちの前に現れる。その時こそ俺たちの本当の戦いが始まるんだ。ゆめゆめ死を忘れぬ事だ」
言いながら立ち上がった呉用は俺の肩をポンと叩き、「さてと、俺はそろそろ行かなくちゃね。お前も頑張りなねじまき。期待している」と、言い残してその場から去っていったのであった。
残された俺は近くにあった瓦礫の上に腰を下ろして頭を抱えた。
呉用の話は飛躍し過ぎていた。
その説は1つの結果から推測された仮説の域を出ず、さもそれが正しいかのように話す呉用の口振りに俺は違和感を感じていたのである。
確かに呉用は頭がキレる。賢く、そして鋭い。しかし、今回の一件だけでその全てを理解出来たとは到底思えなかったのだ。だがもし本当に彼の言っていることが正しいのであれば呉用は何か別のルートから得た情報を持っている筈であり、その内容は今俺に打ち明けた内容より遥かに世界の真実に近づくものだろう。
一体呉用は何を知り、何を企んでいるのか。
俺たちはもしかしたら途方もない何かに巻き込まれているのかも知れない。
俺はそんな事を考えながら立ち上がって1つ大きく伸びをして空を見上げた。
夕暮れの空は澄み渡り、ゲームでは表現できない美しさがそこには存在していた。
ゲーム世界と現実世界の一体化。
上等じゃないか。俺たちゲーマーの望んだ世界がそこには広がっている。
臆すな進め。たとえ世界を敵に回すこととなっても、その先には夢見た世界が広がっているんだ。
決意を胸に、俺は新たな戦場に向かって歩き始めたのであった。
@@@あとがき@@@
目標であった10万字に到達したのでこれにてこの小説は一旦終了です。
他にも書きたいネタが沢山あるので基本的に更新はありません。
では、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
今後も他にも色々な作品を書いていきますのでお暇でしたらそちらもどうぞ。
また何処かで。
これより、地球侵攻を開始する。 朝乃雨音 @asano-amane281
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