第31話 繋がって行く事象
アカミンと並ぶ個人最強のプレイヤー。
「どうした? 元気がないじゃねぇか。……もしかしてお前、俺と戦うつもりか?」
その言葉に俺は言葉を返さなかった。いや、返せなかったのだ。
この距離はAの攻撃範囲内であり、下手に言葉を返して即戦闘になりでもしたら終わりだ。間合いの中ではAには絶対に勝てない。その思いが喉につっかえ俺の言葉をせき止めたのである。
VやJの力を借りずに本当にたった1人で戦い続ける孤高の王様。それは誇張でもなんでもなく、俺はもちろんのことたとえノナカやザークライルが生きていて全員でかかったとしても勝つのは厳しいだろう。
俺は焦る気持ちを落ち着かせてここからどうしようかと考える。
そんな俺を見かねてか、「A、気まぐれなお前が何でこんな争いに参加してるんだ? らしくないじゃないか」と、みおみおが声を掛けた。
俺は助かったと思って小さく息を吐きながら、やはり困った時には頼りになる男だとみおみおに感謝する。
「ん? あぁみおみおか。てか、そうなんだよ、俺だって好き好んでこんな争いに参加した訳じゃねぇのよ。せっかく手に入れたこの体だ、出来ればお前らの陣営で自由に生きたかったんだが、どうやらそうは行かないようでな。Gに頭下げて頼まれたんだ」
「Gが頭を下げる?」と、俺はその言葉に反応した。
「あぁ、そりゃもう丁寧に頼まれたぜ。俺もあんな姿初めて見たからよ、流石に断ることは出来なかったって訳よ。そもそも自由人の集まりの[unknown-glow]が連携してこの島を襲撃したのに違和感なかったのかお前ら。Gが頭下げて頼んだからこそ実現した襲撃だぞ」
それは正直、にわかには信じがたい話であった。
Gは多くは語らない男である。力と人脈を持っているからこそ、何か問題があったとしても誰にも頼らず自分だけで解決してしまう。そんな男だ。
俺の知る限り遥か昔、一度だけ他のプレイヤーに助けを求めていたことがあったが、それ以来は一切見たこともないし聞いたこともない。
だからこそ、Gが誰かに真剣に何かを頼むという状況はGだけでは絶対に解決できない非常に厄介な問題が発生しているということなのだ。
そしてGはなつめに合わせる為に俺と話をしにきたと言っていた。
もしかして本当になつめが生きているのではという思いが俺の中で大きくなる。
「A、ねじまきを力ずくで連れて帰れるか?」
俺の思考を遮ったのはGのその言葉であった。
「あ? まあ出来るけど、何、こいつ敵対するって話なの?」
「そうだ。敵だ」
「オッケー」と、Aが答えたその瞬間、その場に居た俺、みおみお、ロンロリ、ガチャゴチャの4人は上から何者かに押さえつけられるようにして地面に膝をついたのであった。
Aの持つ重力を操るユニークスキル【graviton】が発動されたのである。
まるで巨大な滝の下にいるかのように上から圧がのしかかり、俺は膝をついて地面を見ながら倒れないように踏ん張った。
紛うことなき《ディザスター》最強のユニークスキル【graviton】。その強さの本質はこの世の理を外れて重力を生成できることにある。それはつまり、地球が持つ重力の力を操作するのではなく、物体の質量を必要とせず任意に重力を生み出すということであり、普通は発生することのないベクトルの重力を発生させ操ることができるのだ。
効果範囲は10キロメートル。その範囲内に入ってしまうと重力をものともしないようなスキルがなければ抜け出すことは出来ない。
俺たちはまんまと捕まったという訳だ。
「それでG。連れて行くのかこいつら?」と、体をほぐすようにして伸びをしながらAは声をかける。
「ねじまきだけ連れて行くつもりだ。他は潰してしまって構わない」
「はいよ」
Aのその言葉と同時にみおみお、ロンロリ、ガチャゴチャの3人にかかる重力が大きくなり、そして潰れたのであった。
呻き声すら上げる間も無く潰れる3人と悲痛に鳴った骨の折れる音。まさに一瞬の出来事であった。
重力という圧倒的な力によって潰された3人は光の粒となってその場から消滅する。
「さて、これで話しやすくなったなねじまき」と、言いながらGはこちらに近づいてきており、それに伴って話がしやすいように配慮したのか俺にかかっていた重力が少し小さくなる。
「勝った気でいるみたいですがまだ会館の方に下位ギルドの連合が控えていますし、街外の戦線を守っている他の上位ギルドも健在ですよ」
身体中にビリビリと伝わる重力を感じながら俺は精一杯の虚勢を張った。
実際の所、これだけ音を立てて未だに誰も駆け付けていないと言うことはその殆どが戦闘中もしくは既に倒された可能性が高く、この場にいるA、G、Vを倒せるだけの戦力はおそらく残ってないだろう。
Aがこの場に居る事からAを止めに行った[Vs]や雨天の空も希望は薄い。しかし、[KKD]のキングのように無傷とはいかなくても上位プレイヤーならば個人個人で逃げて生き伸びている可能性は十分ある。
そういった気がかりとなる脅威がどこかに居る可能性を少しでも臭わせておくだけで敵の行動は制限できるはずだ。
そう思った瞬間、背後で爆発音が聞こえた。
重力によって融通の利かない体を動かして目を向けると空に向かって昇る土煙が見え、大きな建物が崩れたと言うことだけは分かる。
一体何が崩れたのか。その方向と大きさからある程度の予想が立ち、嫌な予感が脳裏に走る。そしてその予感は街を覆っていたエリアフィールドが消滅したことで確信に変わる。
崩れたのは会館であったのだ。
「Aだけ来るのはおかしいとは思わなかったかねじまき。[ODIN]のロングナイトから連絡はなかったか? W、F、Aの3人と戦ってるって」
Gのその言葉で俺は全てを理解する。
WとFは他の戦場に向かったとばかり思っていたが、改めて考えれば個々の集まりである[unknown-glow]が他のギルドメンバーに任せた戦場に助けに向かう筈がなく、教会と会館の二手に別れたと考えるのが妥当である。
つまり、今この瞬間にWとFによって会館のプレイヤーが全滅したのだ。
エリアフィールドがなくなった事によって戦闘機が空を飛び交い爆弾が投下される。
爆発音と共に炎に包まれる都市〈アンリヴァル〉。
敗北の光景が目の前に広がっていった。
完全な敗北。一体どこでミスをしてしまったのか。いや、東京への強襲が失敗した時点で俺たちの戦力は大きく削られてしまっていた。そこで勝負は決まっていたのだろう。
俺にはもう彼らと戦う力は残っておらず、のしかかる重力の下で覇気なくうな垂れる。
「待ったかいG」と、俺の横を通ってWとFが現れた。
その声には多少の疲れは感じられるものの消耗した気配はない。
「いや、予定通りだ。KとNがやられる誤算はあったが、計画に支障はない。それでどうでしたか牧瀬さん、情報は手に入りましたか?」
牧瀬。どこかで聞いた名前だと思いWの後ろを歩く男に俺は目を向けた。
軍服を着た中年の男の顔を見て俺は牧瀬の存在を思い出す。
牧瀬は一番最初にこの島にやって来た軍人である。ペラーさんが部屋に捉えて管理していた筈だったが何故ここに。
「残念ながら、Wさんの力添えを貰ってシステムの解明を試みましたが、本土にあるものと同じくやはり不可能でした」
「そうですか。しかし、命がけの任務本当にありがとうございました牧瀬さん」
「いえいえ。米軍が介入しようとして来ていた以上、あの策が最善だったでしょう。どうかお気になさらずに。では私は空襲が激しくなる前に失礼させていただきます」
「はい、また本土で会いましょう」
Gと言葉を交わしその場を後にする牧瀬。
一連の会話の流れを聞くに、牧瀬は作戦の一環としてわざと俺たちに捕まった事となる。その目的は話していた通り会館のシステム解明。しかし、それにしては大胆な作戦であると俺は思った。実際[noob11]の攻撃で彼らは死にかけたし、その後も俺たち以外のギルドに捕まってしまっていたら死んでいた可能性が高い。成功率が非常に低い策とも言えない賭けだ。
そんな作戦をGが行うとは珍しい。
「じゃあ私が牧瀬くんを連れて行くねG」と、俺の思考を遮って女性の声が聞こえて来た。
この場にいないはずの女性の声。空間が裂け、大きなピンクのリボンをつけた真っ白な巫女服の女性が現れる。
「あぁシロ。任せたぞ」
[因幡の白うさぎ]所属のメイジ、シロがそこにはいたのであった。
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