第29話 戦闘は佳境を迎える
青いビームが地面を抉る。
至近距離から放たれた最強の一線は、しかし、唐突に何かにぶつかったようにして歪み、軌道を変え遥か上空へと消えていってしまったのであった。
JとGは無傷であり、その場に残っていたイルミーにはGの短刀が突き刺さる。
その様子に俺は舌打ちをした。
それはVの持つアーティファクト【天候盤】による能力であった。
【天候盤】は単に天候を操るアーティファクトではなく、気象を操作し、大気を生み出すアーティファクトであるのだ。
荷電粒子を亜光速まで加速させ打ち出す兵器である荷電粒子砲。現代では実現不可能な空想科学の産物であるそれを【gun game】は魔力の力で実現させてはいるが、全ての弱点を克服した訳ではない。
荷電粒子は磁気や荷電粒子束の影響を受けやすく、特異な大気下ではビームを真っ直ぐに進めることが困難であるのだ。
その特異な大気を【天候盤】は発生させることが出来るのであった。
今回、俺とGたちの間に発生した大気は磁気圏にある太陽からの高エネルギー荷電粒子の密度が高い領域に近いものであり、他の粒子に影響された荷電粒子砲はその軌道を強制的に変更させられたのである。
2年前に荷電粒子砲対策として生み出された【天候盤】にのみ許された防御方法。
【天候盤】がサポート系アーティファクト最強と呼ばれている理由はそこにある。
奇襲をかけ、目くらましをし、至近距離で撃った荷電粒子砲ですら難なく防ぐ。その強さこそが[unknown-glow]であった。
やはりVを何とかしなければと思い辺りを見回すがその姿はどこにもない。一切気配も感じないということはそれなりに遠い位置から状況を窺っているのだろう。こういう時にみーちゃんの探知魔法があればと思うがこればっかりは仕方がない。
「ようやく来たかねじまき。俺はお前に用があったんだ」
イルミーの張った壁が消え、荷電粒子砲の余波で砂煙が舞う中でGの声が響いた。
声のする方に顔を向けるとその姿が目に入る。
目を覆う真っ白の髪とタイトな黒の服から伸びる褐色の両手には2本の短刀、龍刀【牙】が握られていた。そんなGの隣には灰色のローブを纏った長髪の男Jも見える。
「用? 俺はあなたに用なんかないから早く帰ってください。荒らしすぎです」
これは無理だと思い、木の陰からGたちの正面まで出て行った俺はため息混じりに言葉をこぼす。
「そう邪険にするなよ俺とお前の仲だろう? 話だけでも聞いてくれないか?」
Gのその言葉に俺は頭を悩ませた。
俺が昔所属していた元トップギルド[LittlePeace]。その中でも最強と言われた初期メンバー18人の内の1人がGであった。つまり、俺とGは同じギルド出身の古馴染みと言う事だ。
とは言ってもGの方がゲームプレイ歴は長く、俺が[LittlePeace]に入ったのは第三世代と呼ばれる《ディザスター》リリースから半年が経った頃であるため初期メンバーであるGとは部活の先輩後輩みたいな関係である。
憧れの存在であり、自らのギルドを持った今では倒したい目標でもあるG。そんな男が俺に話があると言っているのだからどうしたものか。
昔からGは思慮深く頭の切れるプレイヤーである。話を聞くだけならとも思うがそこには必ず何か意図があるはずで、それを見抜けない内に行動を起こしてしまうのは軽率だ。
歴代最強のギルド[LittlePeace]。そのアタッカーであったGを舐めると痛い目に合う。
「まず他のギルドメンバーを下がらせてください。これじゃ脅迫ですよGさん。話はそれからです」
「お前が大人しく俺について来てくれるならこの場は引いてもいいぞ」
その言葉を聞いて俺は疑問を頭に浮かべた。
「なぜ俺なんですか? Gさんとは昔馴染みですが最近は全く関わりがなかったですし、俺を名指しする理由が分かりません」
最大ギルドのフローズンや[NEO.MION]ギルマスのみおみおではなく俺を選ぶ理由が見当たらなかったのである。
ザークライルやシロのように移動系の特殊スキルを持っている訳でもなく、ペラーさんのように戦闘力が高い訳でもない。唯一性といえば【gun game】だが、わざわざここまでやって来る理由にはならない。
一体なぜと疑問を覚えた俺の頭はGが発した言葉でさらに混乱する。
「なつめが居るんだ。だからお前を呼びに来た」
「嘘を吐くな!」と、Gの言葉に俺は反応した。
[LittlePeace]のギルドマスター
「嘘じゃない。そもそもお前はこちら側で目覚める筈だったんだ。なつめと共にな」
「いくらGさんでもその嘘は本気で怒りますよ」
「あぁ、怒ればいいさ嘘だったらな。だがお前も知っているだろう。[LittlePeace]メンバーにとってその名前がそんなに軽いものじゃない事を」
「分かっています。しかし、彼女はもういない。それは揺るがない事実です」
「こんな世界だ、奇跡くらい起こるさ。一度会いに来い。彼女はお前を待っている」
Gがそう言うと同時に何かが俺の真横を勢いよく通り過ぎ、次の瞬間地面を叩くような衝撃音が鳴り響いた。
巻き起こった砂煙の中現れたのは[KKD]のキングである。彼の手には巨大な黒の大剣、アーティファクト漆黒シリーズである【
Gを狙っての一撃だったが、寸前で危険を察知したGはその刃を避けキングの間合いの外で短刀を構えている。
「良い反応だなG。どうやら本物のようだ」
黒の大剣の剣先を引きずりながらキングはGに向かって歩み寄る。
「誰かと思ったらキングか。おかしいな、君の居た東側には
「Nぐらいは相手にならないさ」
「嘘を吐くな。お前の実力じゃ無理だキング」
「じゃあ無理かどうか試してみるか!」
会話をしながらジリジリとGに近づいていたキングは、言うと同時にGへ向かって一気に跳躍した。
その細い外見からは想像も出来ない力で大剣を振り上げ跳躍の勢いそのままにGに向かって振り下ろしたのであった。
重さに速さが乗ったその一撃は圧倒的な破壊力持ってGの居た地面を打ち砕き、砕けた地面が岩となってあたりに飛び散る。
キングの動きだしと同時に数歩下がって攻撃を交わしたGとJはその飛び散った岩を避けつつ攻撃に転じた。
攻守交代、キングに出来た隙をGは逃さない。
Gはキングとの距離を一気に詰め、目にも留まらぬ速さで二本の短刀を振るった。
Gの持つ龍刀【牙】は防御無視の能力を持った二本の短刀である。
敵のあらゆる装備やスキルを無視して定数ダメージを与える事が出来るアーティファクトであり、その能力の前では龍刀【鱗】も無力となる。
定数ダメージは一撃300。カンスト勢の平均体力が1000である事を考えれば約4回攻撃を当てればほぼ全てのプレイヤーが死ぬこととなるのだ。
まさに全てを噛み砕く龍の牙。短刀という性質上接近戦以外の戦闘方法がなく、能力上昇と斬撃を持つ生刀【残】などの前では手も足も出ないと言う弱点もあるが、その天敵がいない今の状況では無敵だ。
一体キングはどうするつもりなのかと俺は思い様子を窺った。
上位ギルドのギルドマスター2人の衝突。下手に手を出せばかえって邪魔になり不利になってしまう。速すぎず遅すぎず、横槍を入れるなら慎重にタイミングを図らなければならない。
Gに距離を詰められたキングは体を捻りながら大剣を引き、回転斬りの要領でGに向かって再び大剣を振り下ろすが、Gは持ち前の俊敏性でその一撃も軽々避けてしまう。
そしてキングの脇腹にGが右手に持つ短刀が突き刺さったのであった。
嗚咽を漏らすキングとさらに追撃をかけようとするG。
突き出される左手の短刀を、キングは体を捻って気力で躱し距離を取ろうとバックステップを行う。その瞬間、キングはまるで壁にぶつかったかのようにして何もない空中に背中を打ち付けたのであった。
混乱するキングを見て俺は一瞬で状況を理解した。
キングが背中を打ち付けた透明な壁。そんな能力は1つしかない。Jの【クリアパネル】だ。
視認不可能な最高強度の四角形のパネル。キングはそれにぶつかったのだ。
そしてこれは[unknown-glow]の得意戦術でもある。
Gが接近し、それに合わせてJが【クリアパネル】でGごと上下左右を囲う事で絶対に逃げられない死のリングの完成だ。そうなってしまうと流石のペラーさんやアカミンでも勝てはしない。キングならば尚更だ。
手を出すなら今しかないと思って俺は銀の腕輪からメニュー画面を開いて【gun game】のctを確認する。
残り時間は2分14秒。今ならばキングを巻き込む事になるが荷電粒子砲でGを殺せる。問題はctの時間をキングが稼げるかどうかだが、さてどうだろうか。
期待を込めて再びキングに目をやった瞬間、キングの肩に短刀が突き刺さる。
血に変わって傷口から漏れ出す光の粒。
これは無理だと判断し【gun game】を二丁のリボルバーにコンバートさせた俺は反対側、会館の方に居たみおみお達に目配せをしてJへ向かって駆け出した。
Gが無理なら逆に孤立したJを狙う。
Jまでの距離は約100メートル。この体なら10秒で射程圏内だ。
Gとキングの隣を抜けて最速でJへと駆ける俺とそれに呼応して動き出すみおみおとロンロリ。
急速に近づく俺に気が付いたJであったが、その背後からはロンロリの放った上位魔法【
受ける側からは巨大な氷のつららのように見え、魔法を放ったメイジ側から見ると断面がまるでバラの花のようである【氷華ノ槍】は全長4メートル断面の直径が2メートルと言う大きさを持ち、その威力は氷雪系水属性魔法の中ではトップクラスである。
放たれた巨大なつららは、しかし、空中で何かにぶつかって大きな衝撃音を鳴らしながら砕け散ったのであった。
【氷華ノ槍】が砕けた結果辺りには冷気が漂い冷やされた空気は霜を作る。
不自然に空中に張り付いた霜。つまりは今の攻撃も【クリアパネル】によって防がれたのである。しかし、これで合計6枚のクリアパネルの位置が明らかとなった。
残りは4枚。
俺はJの意識がロンロリに向いた瞬間に走る速度を上げ、そして引き金を引いた。
音と共に放たれる銃弾。ロンロリと挟み込むようにして行われた攻撃であったが、こちらも【クリアパネル】によって阻止される。
しかしながら、俺たちの狙いはそれだった。
【クリアパネル】の残りは3枚。ゲーム時代から[NEO.MION]の基礎戦術としてJと当たる時はその位置を明らかにするのが優先される。
基本として【クリアパネル】のスピードはパネルの大きさに依存する。大きければ大きいほど遅くなり、小さければ小さいほど速くなる。そしてその大きさは10枚全て同じ大きさでなくてはならないのだ。
【氷華ノ槍】を防ぐ大きさのパネルということは、その大きさは最低でも縦横5メートルほどは必要だ。そして5メートルのパネルの移動速度はおおよそ1秒で3メートル。それだけ情報が揃えば付け入る隙は十分ある。
それを理解してかどうなのか。俺の発砲音と同時にロンロリの背後でノナカが動く。
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