第28話 一瞬の判断


「使っちまうのか?」


「あぁ、どうせ位置はバレてるんだからこのどさくさに紛れて撃った方がいいだろ。それに今撃っとけば戦闘中にもう一回撃てるし撃ち得だ」


 その言葉を聞きみおみおはすぐに考えを理解する。


「了解。ここから一直線に抜くんだな? 一応ブラストさんたちにチャット送っとくわ」


「頼む」


 俺は兵士から距離を取りながら【gun game】を荷電粒子砲にコンバートし、地面に接地した。


 電子照準には兵士の姿が映し出され、俺はその真ん中を通すようにして狙いを定めカウントダウンを開始する。


「撃つぞみおみお! 3、2、1、発射」


 引き金を引くと同時に青く光る銃身からは一直線にビームが放たれ目の前にいた兵士を一掃し、その衝撃波は霧を切り裂き町の中心に向かって真っ直ぐ霧のトンネルを作ったのであった。


「行くぞ!」


 掛け声と共にクールダウンに入る荷電粒子砲を球体に戻した俺はみおみおと一緒に霧の消えた道を駆け抜けた。


 街の中央。時計塔の下に広がる広場の近くまで来ると一段と霧が濃くなっているのが分かり、俺は立ち止まる。


 そのまま俺とみおみおは建物の屋根に登り、陰に身を潜めながら様子窺った。


 霧に触れ再び召喚された兵士が街を彷徨う。こうして兵士が召喚されたとしても兵士に命令を下すのは指輪の持ち主である。おそらく命令は近くの敵を狙うこと。しかし、兵士はコピー対象の周辺にランダムに召喚される為、召喚される前に見つからないよう隠れてしまえば戦闘を避けられるのだ。


 指輪の持ち主が近くにいたら見つけられて終わりだが今回の様なコピー兵士が近くにいる敵を探して自動で攻撃する場合はこの戦法が通用する。


「それでどうする? 会館まで見にいくか?」と、落ち着いたところで俺は話を進める。


「未だにブラストさんたちから連絡が無いんだよなぁ。何が起こっているのかが分かりづらいし動きづれー」


 頭を掻きながらみおみおは愚痴をこぼす。


「この状況でGたちと戦って勝算は?」


 その言葉にみおみおは首を横に振った。


「ゼロ。万に一つも勝てないだろうな。そんなぬるい相手じゃない」


「だよなぁ」


 俺がそう呟いたその時であった。


 誰かが俺の肩を叩いた。


「誰だ!」


 はっとして振り向くと同時に男が俺の口を押さえる。


 とっさに【gun game】を起動しその男に視線を向けると、そこに居たのはギルドメンバーのロンロリであった。


 ロンロリは左手の人差し指を口元に当て静かにするように俺に促す。


 安堵した俺はハンドガンにコンバートされた【gun game】を持った右手と何も持っていない左手を頭の上に挙げ頷く。


「何で連絡よこさなかったんだロンロリ。何があった?」


 俺の口元から手を離したロンロリにみおみおが小声で問いかける。


「この霧の中で常に戦闘状態だったからチャット見てる暇なんかなかったんだよ。今は少し落ち着いてるけどマジで激戦だったんだからな」


「ブラストさんとかは? 残った面子ならブラストさんは見る暇くらいありそうだけど?」


「それ返事きてないなら多分死んでるわ」


「は?」


 唐突なロンロリの言葉に俺とみおみおは驚き声を出す。


「いやいや死んだって何で?」


「いや、今思えば悪手だったんだけど守りはガチャさんに任せて個人で戦える俺たちは遊撃に出たんだよ。ただこの霧だろ? 見事に分断されて今に至るってことよ。他の人の動きなんて見れてないし、ブラストさんが返事してないって事はそう言う事でしょ」


「なるほど」と、呟いてみおみおは何かを考え始める。


「とりあえず会館行かないか? ガチャが守ってるって言ってもこの状況じゃ危ういだろうし、会館と協会の死守が最優先だろ?」


 俺の言葉にロンロリとみおみおが頷く。


「そうだな。悩んでても仕方ないし向かってみるか。ガチャさんの方は他に誰かいるのかロンロリ?」


「BBのノナカ、ノラ猫の四季波がリーダーになって合計44人のプレイヤーが集まってる。その内の12人は俺たちと遊撃に参加してたから残ってるのは32人かな。今はどうか分かんないけど」


「それだけ人数がいれば大丈夫だと思うけど念の為急ごう。協会破壊されたらマジで終わるからな」


 意見をまとめ、俺たちは屋根伝いに早足で会館と協会がある中央広場へと向かった。


 キャラクターの身体能力を活かして屋根から屋根へ静かに飛び移り、霧で2メートル先も見えない中でそれぞれ逸れないように目配せしながら進むこと数分、戦闘音が聞こえてくる。


「協会側か?」


 ぴったりと背後に着く俺とロンロリに向けてみおみおが呟き、それに俺は反応する。


「おそらく協会。音的にまあまあな人数居るな」


 会館と協会はもう近い筈だが霧が濃いためにまだその姿は見えず、俺は音と記憶を頼りに場所と人数を割り出した。


「タイミング取りたいけど無理か。しゃーない突っ込むぞ!」


 みおみおの掛け声とともに音のする方へ向かって俺たちは足を早める。


 徐々に大きくなっていく戦闘音と見えてくる巨大な建物の影。そして天辺に十字架の付いた三角屋根の協会がついに姿を現した。協会の周り500メートルほどには戦闘の為か一切キリがなく、その姿がはっきり見える。


 戦闘音の主。協会前で戦っていたのはガチャゴチャ、ノナカ、ザークライル、そしてノラ猫連合のillmeイルミーであった。


 相対するはJとG。しかし、善戦とは行かないようで、余裕のある[unknown-glow]と対照的にこちら側の4人は満身創痍といった様子である。


 戦闘は終盤。今すぐアクションを起こさなければと思いながら俺は混雑した思考を無理やり纏めようと努める。


 そんな中で先に声を出したのはみおみおであった。


「ねじ! 荷電粒子は!」


「行けるけどこの状況だと味方も巻き込むぞ」


「構うな、協会に当てず敵を入れて撃て! ロンロリは付いて来い!」


 みおみおによる一瞬の判断。普通ならば躊躇するこの場面で俺はその言葉を信じて【gun game】を荷電粒子砲へ展開させる。


 距離にして約200メートル。至近距離での荷電粒子砲はチャージ時間中に狙われるのを防ぐために地面への設置を行わない。巨大な銃を抱えながら俺は敵の目線を意識して協会の前に広がる広場の木の陰に隠れた。


 そんな俺から意識を逸らす為にみおみおとロンロリが敵へ突っ込みヘイトを貰う。


 突如戦場に現れた[NEO.MION]のリーダーみおみお。その存在に敵も味方も同時に気づく。


 誰よりも早く動くみおみお。


 ローブをなびかせ走るみおみおの左手には先端に水晶のような物が付いた180センチほどの長い杖が握られており、敵がこちらに気づくと同時にそれを振る。


 バフ、デバフのスキルを扱うサポートキャラクターのみおみおが放ったのは敵の足を止める移動阻害のスキルである。


「離れろ!」


 見事な奇襲。スキルにより現れた沼に捕らわれたGとJの移動速度は数秒間遅くなり、その間にみおみおは他のプレイヤーに離脱を促す。


 蜘蛛の子を散らすようにして一瞬でその場から離れる味方と取り残された[unknown-glow]の2人。


 その様子を見ながら俺は射線を意識し動き出す。


 チャージの時間に合わせて最速で撃てるように射線を通し、そして構えた。電子照準に移る3人の人影に向かって俺は引き金を引いたのであった。


 射線内に入っていたのはJ、G、イルミーの3人。


 メインタンクとして戦っていたイルミーは避けられないと見たのかGたちの周りに目くらましの壁を立てる。そして土の壁に囲まれたJとGを荷電粒子砲が襲ったのであった。



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