第26話 広がる戦火と新たなプレイヤー
「おい見ろお前ら! 荷電粒子砲撃ってるぞ!」
街の中心部にある喫茶店で連絡が来るのを待っていた[NEO.MION]のメンバーの1人、ロンロリは両開きの窓から身を乗り出して青い空を二分するビームを指差した。
喫茶店ではこの島にいる他の[NEO.MION]メンバー、ブラスト、みーちゃん、ガチャゴチャ、ロンロリの4人がテーブルを囲っており、ロンロリのその言葉に全員が空に目を向けた。
「荷電粒子砲はまだ使わないんじゃなかったの?」と、みーちゃんが疑問を口にし、それにブラストが答える。
「あいつらも馬鹿じゃない。使ったって事は使う必要があったって事だろう」
「馬鹿じゃないけど馬鹿をする男子よ彼らは」
「間違いないな」
会話を交わしながらブラストは珈琲を一口すする。
「笑い事じゃないわよまったく。で、どうするの?」
呆れるみーちゃんは横目でガチャゴチャを見る。
心優しい纏め役、胃痛ポジに座るガチャゴチャは頬杖をつきながらウィンドウを眺めていた。
「ちょい待ってください、今チャット来たから………。あぁ、なるほどね。取り敢えず要点だけ説明すると、上空からの強襲部隊を街の北東で撃ち落としたと、んで強襲部隊はG、J、Vの3人で、それをみおみおが辿り着くまで抑えて協会を破壊させるな。って話だそうですよ」
「Gが来てるのは確定情報か?」
「確定情報です。しっかし、4人で止めるのは無理があるなぁ。どうします?」
「時間を稼ぐだけなら出来なくもない。ただ俺らは死ぬかもな」
淡々と状況を整理しながら話を進めるブラストとガチャゴチャ。その2人の話を聞きながらみーちゃんは溜息をつく。
「最悪。なんか損な役目押し付けられてない?」
「そういわないでくださいよみーちゃん。損ですがおいしい役目です。守りきれば死んでも二階級特進できますよ」
「嫌よそんなの。却下。ガチャくんはもう少し女心を知った方が良いわね」
「なら参加しなくてもいいぞ」と、面倒臭そうにブラストが口を挟む。
「それも嫌よ。私だけ除け者みたいじゃない。私はただ怖いから死にたくないって言ってるの。私はまだ貴方たちみたいにゲームに脳まで侵されてない弱い乙女なのよ。まともな作戦考えてくださるかしら?」
「相変わらずめんどくせぇ女だなぁ。ガチャ任せた」
みーちゃんの言葉を聞きブラストは隣に座るガチャゴチャの肩を叩く。
「いや、俺も女心わからないって怒られたんですけど。……ロンロリ何とかして!」
「え、無理。てかミカさんもう27でしょ? もっと大人らしくしてくださいよ」
「ゲーム内では若者で居たいのよ私は!! 早く姫プしなさいよ、この場では紅一点の女子だぞ!」
「チェンジ。ミミミ連れてきて」
「ちょっとブラスト!!!」
怒るみーちゃんを無視して「さて」と、ガチャゴチャは話を進める。
「実際どうやって足止めしようか」
「サポート2人にタンクとメイジだから本当足止めって感じの足止めだろうな。盾張って遠距離攻撃しながらサポート2人の超回復」
「まぁそれしかないですよねぇ」
「無視するなら協力しないわよ!」
依然として文句を言い続けるみーちゃんだが、どうやら眼中には入っていないらしく気にせず2人は話を続けた。
「北東に落ちたんだろ? なら会館側から来るだろうしそこに陣作って籠城にすっかなぁ。市街戦はゲームでもあったとは言え、実際FPS視点でやると混乱するだろうしその隙を突ければワンチャン」
「それが一番良さそうですね。時間もないですしさっさっと動きますか。頑張りましょう」
ガチャゴチャが水を飲み干して立ち上がると同時に、喫茶店の入り口に付けられたベルが鳴って3人の男が入ってくる。
「やっと見つけたなぁ」と、呟くその男はザークライルである。
「ザークさんどうしたんですか?」
驚きながらガチャゴチャはザークの横に立つ2人の男に目を向けた。
甲冑に青いマントを背負った好青年と、真っ黒で簡素なアサシンコスチュームを着た長身の男。
「ノラ連と
馴染みのある顔。ガチャゴチャたちはその2人を知っていた。
甲冑に青マントがトレードマークのギルドランク17位ノラ猫連合ギルドマスター
ギルドランク20位の壁を超えた上位勢の2人だが、現在において上位16位以下のギルドはログインしていたメンバーが少なく、その殆どが活動を休止していたため彼らも例外ではない。
上位15位以上のギルドを対象にしたギルド戦の直後に地震が発生しこの街に飛ばされた為、それに参加していたギルドはメインメンバーが揃っていたがその他のギルドは絶望的な状況であったのだ。
特にBBnaturalは街に来られたメンバーがノナカ含めた4人しかいなかったのである。
「ノナカさんと四季波くんも何かあったんですか?」
「あー…っと、何から話すかなぁ」
「ザークさん、これは僕から話した方が良いと思いますんで僕が」
ザークライルの話を止めた四季波は一歩前に出て一呼吸置いてから話し出す。
「ザークさんの提案で僕含めた休止中のギルドのメンバーやギルドに属さない野良のプレイヤーは会館に集まっていましたが、[unknown-glow]が北門を突破したと言う事でこの島から脱出するか立ち向かうかで議論になったんです。その結果として、僕たちは戦闘参加組と島離脱組の二手に別れることになりました。まぁ御察しの通りこの短時間じゃ意見が纏まらなかったんですよ。そんで、戦闘参加組はその場で一番ギルドランクの高かった僕と個人ランクの高いノナカさんが2人で率いることになったんでここに来たって感じです。理解してもらえましたか?」
「人数は何人だ?」と、様子を窺うようにしてガチャゴチャたちを見る四季波にブラストは声を掛ける。
現在、ゲーム《ディザスター》からこの世界に来ているプレイヤーはフローズンが調べた所、全員で丁度500人らしく、ギルドランク1位から15位までの人数が293人である為、残りのプレイヤー数は凡そ200人となる。
そして、もちろんその中には〈アンリヴァル〉側ではなく日本側に飛んだプレイヤーも含まれるので実際の人数はもっと少なく、その中でも[unknown-glow]と戦えるプレイヤーとなるとかなり限られてしまうのだ。
一度も共に戦ったことのないプレイヤーと協力して最強のギルドを倒さなくてはならないこの戦況で中途半端な戦力はかえって邪魔になることを踏まえると、人数によってはいない方がいいのではないかとブラストは思ったのである。
「44人ですね。やっぱりまだ状況を飲み込めていないプレイヤーも多いのでこれが今の戦力の限界だと思います」
「44なら行けるんじゃないですかブラストさん」
「……正直微妙じゃね」
ガチャゴチャのブラストへの問いかけに答えたのは話の間ずっと窓から外を眺めていたロンロリである。
生意気な大学生といった印象のロンロリだが、こと戦闘の話題になると彼は[NEO.MION]の誰よりも優れていた。戦略ではなく戦闘のスペシャリスト。メイジであるにも関わらずアカミンやペラー並みの戦闘勘を彼は持っていたのだ。
その男の意見をガチャゴチャは無視できない。
「へー、ロンロリがそう言うならそうなんだろうけど、理由聞いてもいい?」
「3人の[unknown-glow]相手に50人近い人数で当たるのはいいと思うけど、問題は連携。俺たちとザークさんくらいならうまく立ち回れるけど50人もいたら絶対に穴が出来るし、そこから崩されるから背中を任すにはちょっとなぁって感じじゃね。相手にはGも居るし北門にはAが居るんだから、無理に隊組んで戦うより俺たちだけで引っ掻き回した方が時間稼げるよ」
「それには俺も同意」
ロンロリの話にブラストが同意し、四季波との間に挟まれたガチャゴチャはどうしたものかと考える。
野良プレイヤーや活動休止ギルドの集まりである四季波たちだけで[unknown-glow]と戦うのは到底不可能であり、彼らが戦うには指揮を執ることの出来る[NEO.MION]の手助けが必要となるのだが、どうにも折り合いがつかない。
「ならこうしましょう」と、ガチャゴチャが手を叩いて鳴らす。
「僕がタンクとして戦闘組に加わり会館前を死守します。他の人たちは個人個人で動いて遊撃してください。これならブラストさんたちも動きやすいですし、僕がいれば会館の守りも安心出来るんじゃないですか?」
無難な折衷案にブラストとロンロリは頷き、それを見てガチャゴチャはようやく纏まったと思って四季波の方を向く。
「ってことで話が纏まったんで行きますか。時間もないですし、作戦は現地で考えるってことで。ザークさんも自由に動いていただいて大丈夫ですんでよろしくお願いします」
「了解しました!」と、元気よく返事する四季波の横でザークライルとノナカは静かに頷いたのだった。
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