第25話 判断


 [unknown-glow]のギルドメンバーであるJは圧倒的な防御力と応用力を持つユニークスキル【クリアパネル】を持つプレイヤーである。


 視認不可能の透明なパネルを自由自在に動かす事が出来る【クリアパネル】は四角である事、同時に10枚までである事という制限はあるものの、パネルの大きさや強度を自由に変更する事が出来る最強のスキルの1つであった。


 【クリアパネル】が最強スキルの1つに数えられる最大の理由はその強度にあった。パネルそのものの性質をダイヤモンドのような硬く変化させる事もでき、最大硬度で展開すれば《ディザスター》に存在する殆どの攻撃を防ぐ事も可能であるのだ。


 俺の持つ荷電粒子砲ならば破壊する事は出来るが、他の銃では破壊はおろか傷一つつける事も出来ない。


「見間違いじゃなく本当にJが乗ってるとして、つまりは何処かの増援へ向かってるって訳か?」と、言葉を返すみおみお。


「そうじゃね、多分あの進行方向からして北門かな。輸送機はエリアシールドを通り抜けられないんだし……」


 そこまで言って俺はとある事に気づく。


 エリアシールドはプレイヤー以外の全てを通さない。そうプレイヤー以外を通さないのだ。


 壁を超え街の中へ入ってきているWやFやAを見ればわかるが彼らはプレイヤーであり、ならば輸送機で街の上空まで行きそこから飛び降りる事も可能である。


 おそらく狙いは街の中心にある協会とギルド会館。協会が破壊されれば復活が出来なくなり、会館が破壊されればアイテムの購入や武器防具の修理そして街の管理が出来なくなる。そしてそれは絶対に阻止しなければならない。


 しかし、現在[Vs]と[HTT]、[雨のち晴れ]は北門のWとFの対応をし他の上位ギルドは各方面で軍や敵プレイヤーと戦闘、上位ギルド以外のプレイヤーもザークライルと共に東にある広場に集まっている。結果、街の中心部には[NEO.MION]のメンバー以外誰も居ないのである。


 あの輸送機にJの他に誰が乗っているのかは分からないが、本拠地を攻めると言うことはそれ相応なプレイヤーを用意しているだろう。[NEO.MION]だけでそれを相手にするのは正直厳しい。


 また、輸送機が現れるタイミングを考えるとこれは偶然ではなく予め用意されていた作戦なのだろう。四方からの一斉攻撃で主戦力を誘い出し、誰かが門を突破すると同時に上空から会館への直接攻撃。門の突破と同時にしたのはこちらに防衛戦に強い[Vs]がいるからだろう。隙のない良い作戦だと素直に感心すると同時に、メモリアリスの言っていたフローズンの伝言を思い出す。


 ごたごたしていて忘れていたが、フローズンは首都中央へ強襲が来ることを読んでいた。つまり、あの男はさらに先を読んで行動しているということであり、未だに一切姿を見せない所を見るにまだ予測の範囲内なのだろう。


 末恐ろしい男だ。


「あれさ、ちょっとヤバくね?」


 北門の遥か頭上を通り抜けた輸送機を見てみおみおは俺と同じ思考に至る。


「激ヤバ、多分あれが本命だから取り敢えず雨天とガロンに連絡しといてくれ。俺は撃ち落せないかもう少し試してみる」


「了解」


 俺は深呼吸をして再び照準を覗いた。


 カーキ色の輸送機は先程の狙撃など意に介さず依然として街の中心部へ向かって進み続けている。


 【クリアパネル】が展開されているのであればスナイパーライフルの狙撃ではもう意味がないと考え俺は【gun game】を対物ライフルへコンバートさせた。


 若干スナイパーライフルよりは命中精度は劣るが対物ライフルならば上位スキルで作った壁でも数発で破壊が可能である。もちろんそれでも【クリアパネル】には有効打にはならないのだが、雨天やガロンがフォローに入るまでの時間を少しでも稼げれば十分だ。


 俺は引き金を引く。


 爆音と共に放たれた.50口径の銃弾は青い光を纏い輸送機へ向かってまっすぐに線を描き飛んでいき、そして壁にぶつかった。ひしゃげる銃弾がその壁の頑丈さを物語るが、しかし、その衝撃が影響したのか輸送機は弾が飛んできた方向、俺たちのいる山側から逃げるようにして進路を変えた。


 追い討ちをかけるか俺は悩む。


 進路を変えたと言っても荷電粒子砲でなければ【クリアパネル】は割れない。では何故輸送機は進路を変えたのか。おそらく敵は俺の位置を正確に割り出そうとしているのだ。この山に居るという事は知られていても正確な位置はそう簡単に割り出せない。その為、このまま俺たちに逃げ隠れされるよりも撃たせる事で位置を割り出し他のメンバーに倒させる方が安全と判断したのではないだろうか。と、考えているとみおみおが話し出した。


「ダメだねじまき、[Vs]も[HTT]も雨天もWたちに釘づけで動けそうにないらしい」


「……これもう撃っちまうか」


 みおみおの言葉に少し考えた俺はそう呟いた。


 [unknown-glow]相手に[NEO.MION]だけでは到底勝てない。ならば少しでも時間を稼げればと思っての提案であった。


「荷電粒子砲をか?」


 みおみおの言葉に俺は頷く。


「あぁ、ある程度の位置はもうバレてるだろうしあの輸送機撃ち落として敵の降下地点をズラした方がいいと思うんだが、どう思う?」


「ありっちゃあり。[NEO.MION]の他の連中もいるとはいえ俺たちも協会に向かわないといけないだろうし、その間に荷電粒子砲のctも切れるだろうからな」


「オッケー。じゃあもう面倒だし撃つわ。あれくそ邪魔だし」


 言うと同時に俺は【gun game】を荷電粒子砲へコンバートさせた。


 再び現れた巨大な荷電粒子砲の電子照準を覗き狙いをつける。


「撃つぞ。3、2、1」


 カウントダウンと共に銃からは青い光が漏れ出し、エネルギーの安定完了のマークが点くと同時に俺は引き金を引いた。


 魔力を使っての圧縮と加速。荷電粒子砲から放たれた青いビームは圧倒的な速度と威力を持って直線上の全てを破壊してつき進み、そして輸送機を跡形もなく消し去ったのであった。


 しかし、乗っていたプレイヤーは殺せていない。俺のいる山側を意識していたのか、銃から青い光が漏れると同時に3人の人影が輸送機から飛び降りていたのが見えていた。


「3人飛び降りたな。多分J(ジェイ)とV(ブイ)とG(ジー)。北東側だけどしっかりした位置は分からなかったな」


 俺は青い光の中、視界の端で捉えていた3つの姿を記憶にある[unknown-glow]のメンバーと照らし合わせる。


「やっぱGが来てるか。メンバーには伝えとくけど俺らも急ぐぞねじまき。全力で止めないと」


 立ち上がるみおみおに合わせて、俺は熱気を吐きクールダウンに入る荷電粒子砲を球体に戻しながらインベントリに仕舞い、足早に山を下って行ったのであった。



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