第24話 戦場は何処へ


「まだ来ないな。ねじまきの方はどうだ?」


「こっちもまだ見えないな。一度雨天に連絡してみたらどうだ? 他の場所の現状も知りたいし」


 島の南西に位置する山岳地帯で俺とみおみおは双眼鏡を覗く。


 高い山が幾つか並ぶ敵の侵入しづらい場所であり、尚且つ街全体が一望出来る唯一の場所。何故戦いの最中にそんな場所にいるのか。それは至極単純な理由であった。


 ねじまきが保有しているアーティファクト【gun game】は様々な銃へと形を変える小さな機械の球体であり、その中には《ディザスター》唯一の超遠距離高火力攻撃が可能な武器である中性粒子を用いた荷電粒子砲が存在している。


 それをうまく利用する為に彼らは高所を取って街中への狙撃を試みていたのである。


「待って、今ちょうどチャット来た。確認するから見といて」


 みおみおの言葉に「りょーかい」と、返して俺は双眼鏡で街を見回す。


 俺の持つ荷電粒子砲はゲーム唯一の超遠距離武器と言うだけあってプレイヤーの間では有名だ。その為、どのギルドも[NEO.MION]と戦う時は射線を意識し存在を警戒する。[unknown-glow]もその例外ではなく、いくら強いと言っても《ディザスター》トップクラスの射程と火力を持つ荷電粒子砲を対策なしで受け切ることは不可能であった。


 基本的に荷電粒子砲の対処は狙撃手自身を見つけ出して距離を詰め殺すことだ。最も恐いのは意識外、射程外からの高火力の不意の一撃であり、それさえ封じてしまえば【gun game】はそこまで強いアーティファクトではなくなるのである。


 そして、この島で狙撃できるポジションと言えば街の中心にある時計塔かこの山岳地帯の2つである。敵からすればこのどちらかに俺がいて、先に潰しておきたいと思う訳だ。


 俺はそういった考えからくる奇襲を警戒し双眼鏡で周辺を確認していた。


 念の為みおみおを連れてきているとは言え[unknown-glow]相手ではまともな勝負にならないだろう。もしも奇襲をかけようとしているのならば出来るだけ早く敵を見つけ先手を取らなければいけない。


「おい、北側は全滅らしいぞ」


 チャットを確認していたみおみおのその言葉に俺は耳を疑った。


「……は? 雨天の話ではWやFと戦ってたんだろ、急すぎないか?」


「Aが来たらしい。ロトが善戦したけど敗北、その後ロングナイトとカンナが他のメンバーを撤退させようと立ち向かって敗北、数人が街に逃げ込み今は[Vs]と[HTT]が足止めをしてるってさ」


「……Aが来てんのか、まずいな」


 Aの名前を聞き俺はなるほどと状況を理解する。


「先に殺しておきたいな」と、言葉を続け俺は【gun game】を展開する。手のひらサイズの鉄の球体がまるで絡繰り細工のようにカタカタと動き出し、その質量からはあり得ないほどの巨大な銃、荷電粒子砲へと形を変えた。


 2メートルはあろうかと言うそれは到底人が持てるものではなく、俺は銃身の先にある二又に伸びた支えのバイポッドを地面に設置し、寝転がって横に伸びた特殊な電子式照準を覗いた。


 照準倍率を調節し街の北門付近を見ると、北門を入ってすぐの所で煙が上がっているのが分かった。崩壊している建物もちらほらと見え、おそらくあそこで戦っているのだろうと思って辺りを見回すと北門の上で立つ人影が目に入る。


 倍率を上げその姿を確認する。


「Aが居たぞ。門の上だ」


 長く黒い癖っ毛に4年前に期間限定で出た上下黒の軍服のようなコスチュームを着たAは様子見をしているのか動く気配がない。


「あぁあれか、ちっさく見えるけど微妙な距離だな。荷電粒子砲のctもあるし無駄撃ちは出来ないぞ」と、双眼鏡を覗きながらみおみおは言う。


 最強の遠距離武器である荷電粒子砲の弱点。一発撃つ毎に5分のctが必要であり連射は出来ず、撃った時のエフェクトも大きく目立つ為に位置バレが激しいのだ。


 強さ故の扱いづらさ。特に今回の場合この場所と時計塔の2箇所しか街を狙撃できるポイントが存在しないため位置がバレるのは非常にまずい。


 まさに一度きりの逆転の切り札であり、適切なタイミングで放ち必ず1人は持っていかなくてはならないのだ。


「少し様子見かな。動く気配はないし、そもそもあいつがこんな戦いに参加してるのがおかしい話だから気が変わって帰るかもしれない」


 緊張感を紛らわす為に深呼吸をしながら俺は照準から目を離す。


 正直な所、かなり厳しい状況に俺たちは立たされていた。


 フローズンの策が先読みされ失敗した結果主戦力が東京に取り残され、それを見計らってのこの島への奇襲。こちらは指揮系統が崩れ連携もバラバラ、さらには最強の気分屋Aの参戦に北の全滅と来ている。


 そもそも強襲作戦を読まれていたのが痛かった。


 対応してから攻めてくるまでが異常に早くこちらの情報が漏れていたとしか思えないが、作戦を知っていたのは会議に参加した上位ギルドのみであり、他のギルドのプレイヤーや無所属のプレイヤーにはフローズンから戦うつもりであると言う事しか知らされていない。その為に現在街にいるプレイヤーたちは混乱し、ザークライルとアリスが状況説明に追われている。


 つまり情報を漏らしたとすれば会議に参加していた上位13ギルドの中の誰かであった。


 あそこにいた人物の中で情報を流す事で最も得をする人物は一体誰なのか。順当に考えればフローズンを嫌っている[noob11]だろうが、アカミンはそんな謀略を張り巡らせる様な男ではなく、気に入らない事があれば真っ正面からぶつかって行くタイプの人間である為おそらく違うだろう。


 今の戦いの雰囲気からすると本命はゲスい戦法を使う事で有名な[real escape]だろうか。次点で《ディザスター》随一の策士である[臥竜]の呉用、大穴はとにかく争いがしたい[因幡の白うさぎ]といった所なように思える。


 念の為[real escape]を見張っておいた方がいいなと考えた俺は雨天へ連絡しようとした所で上空を飛ぶ変な影に気づいた。


 エリアシールドに向かって一定時間置きに爆撃を繰り返す戦闘機の中で、視界の左端、島の北側から飛んでくる一機の飛行機は他の機体とは違って明らかに大きく遅い。


「おい、みおみお。あれ何か分かるか?」


 俺は隣で双眼鏡を覗くみおみおを肘でつつき、言いながら指をさした。


「あ? ……あぁあれか」と、飛行機の存在に気づいたみおみおは双眼鏡でそちらを見る。


「あれ戦闘機じゃなくて輸送機じゃね?」


「輸送機? 輸送機で何を運ぶんだよ。別に海岸を固めてる訳じゃないし船で上陸出来るんだから意味ないように思えるが」


「いや、まぁ少しでも早く前線に兵士を送りたいからじゃね? 海岸から歩くにしては少し距離があるし、Wが北門を破ったからそこから攻めようとしてるんだろうけど、ねじまきあれ落とせないか?」


「スナイパーでって事か?」


「そう、魔力弾だしあれなら落とせるだろ」


 みおみおの提案に「やってみようか。コンバート」と、俺が呟く。


 展開されていた荷電粒子砲は小さな銀色の球体に戻り、再びカタカタと動き今度はスナイパーライフルの形に変形したのであった。


 寝そべりながら照準を覗き込むと徐々に街に近づく機体の姿がはっきりと目に入る。


 それはやはり輸送機らしく、でかい胴体には大きな横開きの扉が見て取れる。


 この距離での狙撃ならば戦闘音と混ざって位置の特定は難しく、十分に撃てると思った俺はゆっくりと狙いを付け引き金を引く。


 音と共にスナイパーライフルから発射された銃弾は青い光を纏いながら輸送機へ向かって飛んでいき、そして輸送機の少し手前でまるで何かにぶつかったかのようにして潰れたのであった。


 その様子を見た俺は一瞬にして状況を理解し慌てる。


「待て待て待て、ミスった軽率だったぞこれ」


 壁にぶつかったかのような不自然な弾の止まり方と、不意の魔力弾を止めるほどの高い防御性能。そんな事の出来るスキルを俺は1つしか知らない。


「あの輸送機Jジャックが乗ってるぞ!」








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