第22話 細い勝ち筋
時は数分前に遡る。
「ノーミン、お前は俺たちにどれだけ力を貸せるんだ?」
裏をかき[ODIN]への攻撃を仕掛けたF率いる部隊を追う[メビウス]のギルドマスターマッシュルームボーイは横に立つ短髪の優男ノーミンに声をかけた。
「その意図は?」
「意図なんて大層なものはないけど、ギルドランク14位の俺たちが[unknown-glow]とガチで戦う為には死ぬ気でやらなきゃならないからな。それに参加してくれんのかって話よ。頭数に数えていいのか?」
「……因みに作戦は?」
「ここから真っ直ぐにFまで突っ切って力技でFをぶっ飛ばす。俺のユニークスキルを使えばそれも可能だからな。ただFに触れなきゃいけないから数が欲しいんだ。どうだ? 手伝ってはくれるか?」
「何とも雑な作戦だが、不可能ではないって事か。悩ましいがまぁ俺がここにいる理由は出来るだけ游を動きやすくする事だしな。……よし、良いよ手伝おう。ただ無理だと思ったらすぐ引くぞ。死にたくないからな」
「それでオッケー。こっちも死ぬ気はないから十分。そんじゃまぁ、少しは役目を果たしておきますか。半数はここで背後からくるWを止めて、もう半数は俺について来い」
伸びをしてマッシュルームボーイは深呼吸をする。
「お前ら死ぬ気で踏ん張れよ! 何か成果を持って帰らなきゃ円卓で弾かれるからな! 行くぞ!」
そして彼らは走りだしたのであった。
再び戻って現在。
銃声の中を駆け抜けるのは[メビウス]であり、ダメージを受けながらも無理やり軍隊の中へと突入していった。
数個の小隊に分かれて連携を取る軍人たちの中を彼らは駆け抜ける。
「遅れた奴は置いていけ! ひたすらに前のやつの尻を追いかけるんだ!」
マッシュルームボーイの声が響き、その動きを游はすぐに察知した。
「僕たちも動きましょう皆さん。マッシュさんはたぶんFをスキルで固有空間に連れて行くつもりでしょうから僕たちはFを引きつけつつWの方へと流れます。ct管理だけは気を付けて下さい」
「俺はどうする游、カンナに付いてくか?」
「はい、ロンナイさんはカンナさんの援護をお願いします。Wの横を僕とロトさんで突き時間を稼ぎます。では」
機を逃さぬようにすぐに行動に移す游と最低限の会話を交わしロングナイトとカンナは再びFと対面する。
その場には[ODIN]の殆どのメンバーが残っており、遊撃隊となったロトと游には先程と同じくロト部隊のままれとポム、そして新たにアタッカーのヨヨとメイジのリーリアを加えた4人が付き、計6人の部隊としてその場を足早に離れたのであった。
「さて、食い止めるぞ!」
力を入れたロングナイトの声と共に[ODIN]はFと衝突する。
部隊の先陣を切るFは走る勢いを利用しながら拳を振りかぶり、その拳をカンナは戦斧を盾にして受けたのであった。
鐘を鳴らしたような鈍い金属音が響き、それを合図として銃を構える軍人に[ODIN]のメイジたちが魔法を放った。
魔法を避けるために軍人は数個の部隊に分かれ散開し、それに合わせて[ODIN]のタンクが間隔を空けて土の壁を数枚作る。
[ODIN]にとってはまずまずの動き出しだが、問題はFとの対面。
異常な速度で動き、圧倒的な火力で攻撃を繰り出すFをカンナ含め10人のギルドメンバーは連携して必死に抑え込む。
振り下ろされるカンナの戦斧を紙一重で交わしたFはそのまま拳を振るうが、カンナもそれをしっかりと避け、慣れた手つきで今度は横に戦斧を振り抜いた。
戦斧を避ける為に跳んだFをアタッカーのクレート及びパスが仕留めに行く。
高速で迫り来る青く光る2人の拳を、しかしFはその手首を掴んで受け止めて見せたのであった。身動きの取れない空中を狙った攻撃であったがFの方が一枚上手。
「残念だったなお前ら、今の俺はちょっと強いぞ」
笑ったFは手首を掴んだまま腕力だけで2人を地面に叩きつけ、カンナの腹に蹴りを入れる。
「クソッ、ノーア! サポート!」
「了解」
カンナが飛ばされたのを見てすぐにもう1人のメインタンクであるノーアが入れ替わりで入り、身長ほどある長方形の盾と刀身の長い剣を構えてFの前に立ち塞がったのであった。
「リートル、ラボくん後ろからカバー頼む!」
カンナたちが体勢を立て直すまでFの猛攻を受けきれないと感じたノーアはすぐにメイジへ助けを求める。
「俺もカバーする。2人で抑えるぞ」と、押され出したノーアを見てロングナイトがカバーに入った。
カンナ、ノーア、ロングナイトというギルドランク9位[ODIN]のメインタンク3人を1人で圧倒する様はまさに圧巻であり、[unknown-glow]の強さを彼らは再確認したのであった。
「遅れた奴は置いていけ! 進み続けろ!」
声を掛け合いながら銃撃の中を一直線に突き進む[メビウス]一行。しかし、損害なしとは流石に行かず銃弾を受けてしまったプレイヤーも少なくなかった。
それでも、死ぬプレイヤーは1人もおらず、軍人に邪魔をされ先頭集団から逸れてしまったプレイヤーは無理をせず離脱して自分の出来る事を見極め遂行する。[メビウス]はユニークスキル保持1つアーティファクト無しのギルドだが、だからこそ割り切ったその作戦と連携は他の上位ギルドにはない強さを生み出すのであった。
「後ろの敵はどうだアクト?」
「逸れた人達が暴れまわって気を引いてるので追いかけてくる敵は思ったよりは少ないです。このまま進んで大丈夫だと思いますよ」
マッシュルームボーイの隣を走る小さな少年、メイジの
「オッケーオッケー、十分だ。ここまま突っ込むぞお前ら! ローアインにヒールを集中させろ!」
先頭を走る屈強な鎧の男ローアインの体が薄く光り、サポートによるヒールと身体強化のスキルが付与される。ローアインが捌き切れない敵はマッシュルームボーイとノーミンが捌き、横から銃で狙う敵はメイジが処理をする。
そうして次々と敵を薙ぎ倒し進み続けた[メビウス]は遂にFを視界に捉えたのであった。
「見つけた! 突っ込めローアイン!」
「はいよ!」
先頭を走るローアインはさらにスピードを上げ[ODIN]に夢中なFへと突撃する。
完全な死角からの強襲。しかしながら、背後での騒ぎをFが気づかない訳がなく、振り向きざまに腰を落としてローアインの突進を受け止めて見せたのであった。
「止めんのかよ。お前それはやり過ぎだろ」
「まだまだ強くなるから楽しみにしてな」
タックルを止められ苦笑いを漏らしたローアインをFは蹴り飛ばす。
「頼むぞマッシュ」
「任せろ」
飛ばされたローアインの背後からはマッシュルームボーイが飛び出し、Fに触れようとするが、その手は空を掻いた。
「甘いね」と、呟きながら悠々と交わすFに対し[メビウス]は更に追い討ちをかける。
代わる代わる攻撃を続け、それに合わせて[ODIN]も動く。
やり過ぎとも思える大人数での一斉攻撃。合計20人近くがFを取り囲み攻撃を重ね、ジリジリFを追い詰めていったのであった。
そしてついに圧倒的な身体能力で捌き続けるFの態勢が一瞬崩れる。人影に隠れ虎視眈眈と狙っていたマッシュルームボーイはその隙を見逃さない。背後に飛び出しその背中へ手を伸ばしたのであった。
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