第21話 ODIN vs unknown-glow (3)


「早く前に進めロト!」


 眼前の光景を他所にしてそう叫ぶのはカンナであり、彼女と相対しているのはFであった。カンナは巨大な鉄の戦斧で地面を叩き割ってFの進攻を阻害する。


 割れた地面はまさに地割れが起きたかのようで、Fとカンナとの間に巨大な谷が出来上がる。


 彼女の扱うランクAの上位武器【巨人の戦斧】は土属性を付与された属性派生武器であるが、その大きさと重さゆえに扱うには筋力に多くステータスを振らなければならず、いわゆる脳筋武器と呼ばれるタイプの武器でもあった。


 また、現在の環境ではアカミンや宋江などが流行らせた速度重視の技量タイプが主流である為、重く攻撃力に重視した武器は産廃武器と言われていたのである。


  しかし、タンクの体力と装備の防御力、そしてヒーラーの手厚い援護を利用しての完全な足止めのみを目的とした運用方法によって筋力補正武器は再び陽の目を見ることとなった。


 筋力補正の天敵である高火力魔法に対する回答である【hit me】を持っているからこその近距離に対しての足止め戦術。


 その効果は絶大である。


 軍人たちはもちろん、Fも直ぐには谷を渡ってこられず、その隙にロトと游はお互いに呼吸を合わせ両側から挟み込むようにして散らばった残りの二つの小隊を殲滅したのであった。


 こうして[ODIN]は再びノーミン以外の全員が揃うこととなった。


「チャットの指示通り動いたが流石だな游。これでこちらの不利はなくなった」


 合流すると同時に声をかけたのはロングナイトである。


 游が引く判断をした時、彼は逃げながらギルド内チャットで戦況と作戦を全員に伝達していたのである。


 自らが大きく引く事でロングナイトの居た場所に空間作り安全にロングナイトが動き出せるようにすると同時に、そのスペースにロトとカンナを逃げ込ませ游と対面している敵軍右翼の背後から攻撃を仕掛けさせて殲滅する。


 軍隊の持つ、得体の知れない敵を目の届く範囲に置いておきたいという不安を利用した誘導作戦。


 こうして、[ODIN]は万全な状態でFと対面したのであった。


「上手くいって良かったですけど、状況が状況とは言え今度からは何かする前に絶対僕に相談してくださいね」


「分かった分かった、頼むぞ游」と、ロングナイトは笑いながら游の背中を数度軽く叩いた。


「しかし、これで状況がスッキリしたな」


 【巨人の戦斧】効果時間が過ぎ平地に戻った平原を進軍するFを見ながらロトが呟く。


 現在、[ODIN]の対面にはFが構え、その横に[メビウス]とノーミン、さらにその背後にWという形となっており、このまま戦闘が続くならば、恐らく[メビウス]がそのままスライドして[ODIN]の横に並び、Wがその空いたスペースを埋めるようにしてFの隣に並ぶ事で最初の陣形に近い形となるだろう。


 しかし、物事はそう簡単な話でもない。


 Wのアーティファクト【wing】はビーム兵器であり遠距離武器でもある。つまり、ロングナイトの【hit me】で【wing】は封殺出来るのだ。そして、それをプレイヤーたちは皆認識していたのである。


 その皆には勿論WやFも含まれ、要するにWはロングナイトには自身ではなく相性のいいFを当てようとし、逆に[ODIN]や[メビウス]はFを[メビウス]に当てWをロングナイトに当てようとするのである。


 ここからはポジションの奪い合いが発生するのだ。


 以上を踏まえた上で游は考える。


「ロンナイさん、【hit me】のctはあと何分ですか?」


「残り10分50秒だ」


 ct、クールタイムはスキルにのみ存在するシステムであり、強い技の連発によるバランス崩壊を防ぐ為の物である。そのため特に強いユニークスキルには普通よりも長いctが設けられていた。


 また、魔法を使う為に必要な魔力にはポーション、武器を使う為に必要な耐久値には鍛治の粉と呼ばれる回復アイテムがあるのに対しスキルのctを短縮する手段は存在しない。


 つまり、残り10分50秒はWに太刀打ちできる手段はなく、その時間を相手に利用され攻められないようにしながらもctが終わる頃にはロングナイトとWを対面させなければいけないのである。


「因みにFの火力はどれくらいでしたか?」


「私の装備で一撃200だ。F自体の元の素手の攻撃が一撃50なのを考えれば既にかなりの数は殺しているな」と、游の問いにカンナが答える。


「一体どこでそんな数を殺したのだか」


「ゲーム内では1試合でスキルに区切りがついていましたが現実ではその区切りがないので永久に発動し続けるんでしょうね。正直強すぎるスキルになりましたが倒すなら今しかありません。倒して一度リセットさせておきましょう」


 呆れるロングナイトと的確に分析する游。


 訪れた一瞬の静寂と緊張感。そして銃声が鳴り響く。


 先に手を出したのは[ODIN]でなければFでもない。銃声が響いた先、それはFの後方を追いかける[メビウス]の方であった。


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