第20話 ODIN vs unknown-glow (2)


「はぁ。やっぱり僕が作戦立てなきゃいけないんですか」


「信頼しているからこそだ。皆の今後がかかった大事なこの場面、頼むぞ游」


 気怠げな游と常にハキハキしていて力強いカンナ。対照的な2人だが、[ODIN]の戦闘力を底上げしているのはこの2人である。


 游が策を考えカンナが前線を維持、ロングナイトが遠距離を吸収し、ノーミンとロトが打ち破る。この連携の完成度の高さによって[ODIN]はギルドランク10位の壁を超えたのである。


「状況が分かりづらいし面倒だなぁ。……本当は一旦立て直したいけどギルマスも閉じこもっちゃって一時撤退も出来ないし、一呼吸置いてスキル発動してくれればいいんだけど情に厚いというか仲間が危ないとすぐ使っちゃう癖があるから困るよ」


「そう言うな。ロンナイさんはいつも真剣だ。隙があるなら私たちで埋めれば良い。そうだろう?」


 愚痴を呟く游の背をカンナが力強く叩く。


「諸々を調整するのは僕なんですけど……まあ仕方ないですね。取り敢えずカンナさんはいつも通り前線でタゲ取ってくれればいいですよ。右側のFを止めれるのはカンナさんしかいないし、そこ止めれなきゃどうすることも出来ないんで死ぬ気でお願いします。後はこっちで何とかしときますんで」


「了解した。誰1人として右の道は通さないことを約束しよう! 死ぬなよ游」


 普段の会話に混ざる死を危惧する真面目な声。初めて聞くその声に驚きながらも游は「カナンさんもお元気で」と、いつも通りの調子で言葉を返した。


 小さく笑ったカンナは前衛部隊であるnoorノーア、クレート、LITORリトールPasパスNoKノクの5人を連れて右から迫るFの元へと駆けた。


 それを見送り、游は大きく溜息を吐きながら現状の整理を試みる。前からは50人規模の軍隊が迫り、右からはF、左からは遊撃隊が睨みを利かす。一見すると絶望的だが、左にはロト、右にはカナンが展開しているため游たちが止めなければいけないのは前方の部隊だけであった。


 問題は右の部隊にはFが控え、さらにその横からはWが挟撃を仕掛けようとしている事である。ノーミンと[メビウス]、カナンがいるとは言えあの2人を相手に挟撃された状況で勝つのは難しいだろう。


「はい。ではみなさん、ここはもうどうしようもないので思い切って引きましょう。ギルマスはここに置いて、前に詰めてきている敵の右翼をヒットミー範囲ギリギリまで引き付けます。付いてきてください」


 数秒の後、游は手を叩きながら口を開きギルドメンバーを後方へ誘導した。


 右と左ではカンナとロトが戦っている中でギルドマスターをここに置いて下がると言う判断に、しかし、文句を言う者はいなかった。


 常に冷静に状況を判断する誰もが認める[ODIN]の作戦担当、その実力を皆知っているのだ。


 絶対の信頼を持ってして游の指示に皆従う。


 游の指示の聞こえる範囲にいたギルドメンバーは一斉に互いをフォローし、かつ目の前から迫る軍隊に牽制を入れながら素早く後ろに下がっていき、それに伴い軍隊は手出し出来ないロングナイトのキューブを銃で威圧しつつ通り過ぎ、元々戦っていた場所が遠くに感じる後方まで進攻する。


 カナンが右に流れてから僅か15分。見事な動きで游たちは軍隊の誘い出しに成功したのだった。


 【hit me】の有効範囲は1キロであり、游は音からおおよその敵の位置を確認し反転する。


「僕が出来るのはここまでです。後はロトさんが来るまで耐えます。頑張りましょう」


 彼らが相対するは武装した軍人。【hit me】の範囲から漏れた銃弾が飛んで来てはいるものの不意を突かれなければ銃弾で大きなダメージを受ける事はなく、時間は稼げると考え臨戦態勢をとる。


「無理に攻めようとしないで下さい。盾を張って粘ることを優先的に考え被ダメ少なめ、後の為に魔力も抑えめでお願いします」


 ギルドメンバーは指示を聞くと同時に行動に移す。


 タンク3人がスキルで目の前に銃弾を防ぐ岩壁を出し、その背後にアタッカー4人が待機、さらに背後にメイジ4人とサポート3人が構える形をとなったのであった。


 ギルド戦用にあらかじめ用意してある陣形の中の1つを、全員が思考を共有し即座に作ってしまうのはさながら訓練された軍隊のようであった。


 こうして態勢が整ってしまえば、プレイヤーたちの近接の強さを把握できていない軍側は攻めるに攻められず硬直状態に陥り、游は岩壁に張り付きアタッカーとメイジに目配せをしながら機を窺った。


 そしてそのまま牽制し合う不毛な戦いが始まるのかと思ったその時であった。


 軍隊の後方で爆発が起こる。


 その一瞬を游は見逃さない。


「……行きます。アタッカー先行でタンクは付いて来て下さい。メイジのスキルはまだ温存で、サポートはいつもよりも厚くバフとヒールをお願いします」


 軍隊の意識が爆発音の聞こえた後方に向いたのをしっかりと確認して游は岩壁から飛び出したのであった。


 一瞬の隙を突いた強襲。だが、相手も鍛えられた軍人であり数人はすぎに反応し銃を放つ。


「丘をなぞります。タンクは常に壁を張って下さい」


 状況を見てすぐさま対応した游は身を隠せる丘の裏を通りながら左側に伸びた相手部隊に接近する。


 50人ほどの軍隊は10人ずつの部隊に分かれ展開しており、その中で最も孤立していた左の部隊を狙いに行ったのである。


「メーチルさん、前面に大きな壁を出して下さい。それを合図にアタッカー全員で乗り込みます」


 ある程度の距離まで近づいた所で游はさらに指示を重ね、アタッカー全員が頷いたのを確認してからメーチルは自らと敵との間に3メートルほどの巨大な岩壁をスキルで出現させた。


 地面から唸りを上げて現れる岩壁。その背後から游は飛び出し携えていた短剣を一番近くにいた10人の内の1人の喉に突き刺したのであった。それに続いて他の3人のアタッカーも襲い掛かり、右側の部隊からの攻撃を受けないようにタンクが間に壁を立てる。


 押し倒した軍人の首から噴き出す血が游の顔を濡らし、アタッカーの1人は耐えきれずにその場で吐いてしまった。


「無理な人はタンクとスイッチして下さい。メイジは更に左へ回ってタンクの盾の中へ」


 言いながら、呻き声を上げその場で転げる軍人の首から短剣を抜き取った游は次を狙う。


 銃を構える暇を与えないように游は歩みを止める事なく冷静に動きを見ながら相手に近づき、再び短剣を刺したのであった。


 流石上位プレイヤーと言ったところだろうか。見た目に似合わない無駄のない素早い動きで反撃など物ともせず彼らは相手を圧倒していったのである。次々と人を刺し殺すその姿は無情にも見えるが躊躇いや苦悩がない訳ではない。しかし、純粋に戦闘への集中がそれをかき消してしまっていたのだ。


 プレイヤーたちがこの島で目覚めて4日。事前に戦う準備をしていたとは言え異常な速度で状況に慣れていくプレイヤーたちは次第にその片鱗を見せていく。


 そして、1分も経たない内に游たちは1つの部隊を壊滅させたのであった。


 だが、軍人たちもプロである。強襲された部隊が岩壁で孤立させられたのを見るやいなやその部隊を切り捨て、巻き込まれず尚且つ攻撃しやすい位置へとそれぞれ散開したのであった。


 残る人数は40人、4部隊。そこへ追い打ちをかけるのは先程の爆発の正体。相手の注意を引きつけ隙を作ったロト部隊とカンナ部隊、そしてギルドマスターロングナイトである。


 後ろへ引こうとした2部隊をロトは火属性魔法で消しとばしたのであった。


 再び鳴り響く爆発音。


 10人以上の焼死体が焼け焦げる油の臭いが漂う中で立つロトの右手にはちりちりとした火の粉が張り付いている。


 魔法をメインに扱うアタッカーであるロトだが、こうしてみると近接よりも魔法の方がむごいと游は思った。人を切った感触などはない代わりに、人に対して魔法は絶対的な力を誇るため死体も人の姿を保っていないのである。


 平原にあるのは誰だか分からない同じような人の形をした炭だけであった。







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