第19話 ODIN vs unknown-glow


「左は囮だ、右側にいる部隊をまず殲滅しろ! 正面からの攻撃はオッジが防げ! 突破されると終わりだ、死ぬ気で踏ん張れ!」


 怒号が飛び交うのは島の北側、街の出入り口である4つの門の内の1つである北門を抜けた先の平原であった。戦艦と戦闘機で気を引いている中、密に上陸した部隊を見つけ出し迎え撃ったのは14位の[メビウス]と9位の[ODIN]である。


 真緑の平原を駆ける軍人は現在正面左右の三方向に展開しており、正面の部隊には[unknown-glow]のW、右の部隊にはフーがいるのが見えた。


 [メビウス]ギルドマスターのマッシュルームボーイは50人ほどの左部隊に釣られないようにメンバーに指示を出し、右から少数で攻めてくるFを止めることに重点を置く。


 WとF。


 正面から様子を伺いながら距離を詰めるWはアーティファクトである飛行型攻撃支援ユニット【wing】での中距離戦闘を得意とし、右から駆けるFはユニークスキル【弱肉強食】での近接戦闘を得意とするプレイヤーであるのだが、このFの【弱肉強食】が非常に厄介なスキルであった。


 敵を倒す度に全てのステータスが上昇するスキル【弱肉強食】。しかし、その代償としてそのスキルを発動すると他のスキルや魔法が一切使えなくなるという諸刃の剣である。


 一定以上までステータスが上がってしまえば無双となるが、一度タネが割れてしまうと真っ先に狙われてしまうため扱いの難しいスキルであり、それを知っていたためマッシュルームボーイはまず先にFを潰すよう動いたのだ。


「ノーミンは[メビウス]の援護へ行ってくれ、他の奴らは左を叩く、付いて来い!」


 [メビウス]のその行動を見て[ODIN]のロングナイトは手を振り、勢いよく進軍してくる左側の大部隊に攻撃を仕掛ける。


 現在[メビウス]と[ODIN]は絶妙な位置関係にある。纏め役であるフローズンがいなくなったために宙に浮いた主導権はおそらく今回の戦いでより大きな戦果を収めたものに渡される。そしてこの場で言う最大の戦果とは[unknown-glow]のプレイヤーを倒す事であり、[unknown-glow]サブリーダーであるWは絶対に倒したい相手であった。


 しかしながら、たった1人でも上位7位以下のギルドと同等に戦えるほどの力を持っている[unknown-glow]はそう簡単に倒せる相手ではない。[メビウス]と[ODIN]の協力は必須であり、それでいて[メビウス]より先にWを先に倒す必要がある。


 それを理解していた[ODIN]ギルドマスターのロングナイトは[メビウス]側にサブリーダーのノーミンを向かわせ、自分は本隊を連れて左の大軍を相手どる。


 強いと言ってもFの【弱肉強食】は対策することが出来るため、[メビウス]とノーミンで行けば潰せるとロングナイトは判断したのだ。


 そして劣勢になった右側Fの援護に中央に陣取るWは動き、タイミングを見計らって左の部隊を突破すれば右へ向かったWの背後を突ける。それがロングナイトの策であった


 一番厄介な敵を倒す事に重点を置いたマッシュルームボーイと一番戦果となるWを倒す事に重点を置いたロングナイト。難しい所ではあるが先を見据えて上手を取ったのはロングナイトあった。


 しかし、現実はそうは上手くはいかない。


「放て!!」


 ロングナイトと対面した部隊は掛け声とともに1キロほど離れた丘の近くで急停止し銃を構え引き金を引いたのであった。


 迫り来る銃弾を、しかし、ロングナイトの部隊は上手くかわした。


 言っても最強の一角、9位のギルドであるためそれぞれが横に飛んだり、伏せたり、壁を張ったりとしっかり対応して見せたのである。


 だが、その瞬間を相手は見逃さなかった。別の遊撃隊が隠れていたのだ。


 ロングナイトたちよりさらに左から十数人の人間が姿を現し、一斉に襲いかかる。


「メーチル左に盾だ!」と、ロングナイトが仲間に指示を出すと同時に彼らの左側に巨大な半円状の土の壁が反り立ち銃弾を防ぐ。それは完璧な連携であったが一瞬のタイムラグの隙に抜けた銃弾が数人にヒットしてしまう。


「人数とダメージは?」


「3人、銃弾一発につき20のダメージです」


 ロングナイトの問いにすぐにダメージを食らったプレイヤーが答えた。


 プレイヤーの体力が平均1000である事を思うと一発20ダメージというのは優しくない。集中砲火されれば一瞬で消し飛ぶだろう。もちろんタンクの装備とメイジの装備では防御力に差があるため一概には言えないがその火力は想像以上だ。


 慎重に立ち回らなければ危ないと思いながらロングナイトは考えを巡らせる。


「ロンナイ、右からFが来てるぞ!!」


 仲間であるロトのその言葉に反応し右を見ると、遠くの方から多くの人影が徐々に大きくなってきているのが見える。


「向こうの部隊は?」


「後ろから追いかけてるらしいが完全には止めれないとさ。どうする完全に挟まれたぞ」


「……なるほどな、取り敢えずロトはままれとポムを連れて左を制圧しに行ってくれ。ここはノーミンとマッシュが対応してくれるのを期待するしかない」


「了解。殺さない方がいいんだよな?」


「ああ。できる限り殺さず頼む」


 頷いてその場を去るロトを見送ってロングナイトは右の敵へ向き直る。


 Fが右から現れ、その上ノーミンが捉えきれてないとなるとかなり早い段階で右の部隊がこちらに向かって進路を変えたという事であり、ならばこれが彼らの作戦だったという訳だとロングナイトは考えた。


 右に誘っておきながら叩くのは左。


 遊撃隊で足止めをしておいてその隙に右から中央を渡って強襲、そしてFを追って来た部隊は中央でWが叩く事で常に有利な状況で戦うことが出来るのであった。


 単純だが大規模戦闘のお手本のような作戦。しかし、[unknown-glow]らしくないとロングナイトは思う。


 個々の能力に頼った力押しが[unknown-glow]の定石であり状況に応じて協力することはあってもこうしてしっかりと作戦を立てて来るのは見たことがなく、つまりは作戦を立てる誰かがいるということであった。


 そして最初に対面した時にWとF以外のプレイヤーの姿が見えなかったことからそれはおそらく軍人である。


「仕方ない。一度【hit me】を発動するからカンナと游に後は任せるぞ!」


 その言葉に「了解した」と、巨大な両刃の戦斧を持った赤髪ポニーテールの女性カンナが言葉を返すのを見て、ロングナイトは自身が持つユニークスキル【hit me】を発動させる。


 範囲内のあらゆる遠距離攻撃のターゲットを一定時間自らに吸い寄せる特殊スキル【hit me】はFの【弱肉強食】と同じで扱いづらいイロモノスキルではあるがそれ故に強力なスキルでもあった。


 平原に響き渡る銃声と飛び交う銃弾。その全てが発動と同時にロングナイトに向かって方向を変える。


 それは一見すると蜂の巣にされているようにも見えるが、どこに飛んでくるのかが分かれば思ったよりも対処は簡単でありロングナイトは上位スキル【クロムロック】を使って自らの周りを土の壁で囲った。


 出来上がったのは正方形の茶色いキューブ。


 下位スキル【ロック】の上位互換【クロムロック】は高硬度の鉱石で自らの周りを固める技だが、その性質上スキルの中に入っている間は攻撃が出来ない。


 しかし、土系の防御スキルで最高の防御力を誇るそれを打ち破るのは容易ではなく、【hit me】と合わせることにより遠距離攻撃を完全に封殺する事が出来るのであった。


 まさに鉄壁。放たれた銃弾は次々とキューブにぶつかって潰れ地面に落ちる。


「ロンナイさんが耐えている間に殲滅するぞお前ら! 覚悟を決めろビビんじゃねぇぞ!」


 戦斧を高く振りかざしたカンナは吠える。


 華奢な容姿とは似つかない高らかな声が戦場に響き、それに呼応するようにして[ODIN]の士気は上がる。


「さて……士気は上々、後はお前に任せるぞゆう


 彼女の視線はすぐ近くにいたこの戦場には似つかわしくない地味な男、游に向けられたのであった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る