第17話 unknown-glowと言う存在。


 数分街を歩くと[FRANZ]のホームが見えてきて、その前に数人の上位プレイヤーが集まっているのが分かる。


「何してんだお前ら」


 俺が声をかけると全員がこちらに目線を向ける。


「君らを待ってたんだよ。さてこれでさっきのメンバーが全員揃いましたよメモリアリス。早くフローズンに会わせてください」


 [雨のち晴れ]のギルドマスター雨天の空のその発言で俺はある程度状況を理解する。


 しかし、全員を呼びつけたフローズンが一番最後に登場とは珍しい。それほど切羽詰まった状況なのだろうかと俺は思う。


「みなさんお待たせしました。突然呼び出してしまい申し訳ありません」と、全員を見回してメモリアリスが深く頭を下げる。


「それはいいが何があったんだ。フローズンも姿を見せないし予定ではこのまま本隊で本土に上陸するはずだろう」


「すみませんマッシュさん。それも含めて今からご説明します。とりあえず中に入って下さい」


 俺たちはメモリアリスに連れられギルドホームの中に入り、そのまま先ほどの会議室の中へ入った。すると、そこに居たのはザークライルであった。


 治癒魔法をかけてもらった後なのか、体に傷はないが装備には傷が目立つ。


「よぉお前ら、良い知らせと悪い知らせがあるからまぁ座れ」


 前回フローズンが座っていた席に座るザークライルの言葉には真剣な雰囲気が漂っており、皆状況を理解してか茶化す事なく静かに席につく。


 ザークライルのその姿に俺やみおみおは不安を感じていた。調子に乗って遊ぶ事はあってもペラーさんは最年長でありしっかりした性格だ。それなのにザークライルが戻ってきていてペラーさんたちからは何の連絡も入っていないということに違和感を持っていたのだ。


「みおみお、ペラーさんから連絡あったか?」


 俺はみおみおに耳打ちするが、みおみおは首を小さく横に振る。


 どうも嫌な予感がする。


 ザークライルの装備の削れ具合から見て向こうで激しい戦闘があったのは確かだ。しかし、ここに戻って来ているということは戦闘はすでに終わっており、作戦は完了したと見ていいだろう。


 普通ならばペラーさんから連絡があって然るべき展開なのだが。


「まず良い知らせだ。強襲は成功し、目標は破壊。そのまま[臥竜]や[noob11]と共に都庁に攻め込んだ。そして悪い知らせはそれが失敗した事だ」


「……何がどう失敗したんですか?」と、言葉を挟む[Vs]のガロンに「まぁ慌てるな」と、ザークライルは言葉を返して話を続ける。


「そうだなぁ、失敗というよりも惨敗だ。ボコボコにやられて皆はぐれ、俺だけこうしてスキルを利用して戻って来れたという訳だ」


 そこまで聞いて最悪の事態を予期した俺は「誰が出て来たんですか?」と、口を挟む。


 最悪の状況。


 フローズンが緊急事態という程の最悪で、離脱性能の高いザークライルのみが戻って来られたという現状を考えると敵が俺たちと同じ《ディザスター》プレイヤーであることは明白であり、ならばあれだけの面子を倒せるプレイヤーは誰なのかという話となる。


 そしてそれは恐らく……。


「[unknown-glow]だ」


 ザークライルの口から出た名前に、やはりそうかと俺は納得する。


 ペラーさん、宋江、アカミンとアタッカー最強クラスが勢揃いしている強襲部隊を退けられるのは[unknown-glow]くらいしかいない。


 15人という小規模ギルドにも関わらずギルドランク2位である[unknown-glow]は《ディザスター》において異質な存在だ。


 個人ランク戦には一切参加せず、しかし、アーティファクト9個、クエスト報酬のユニークスキル6個保有している最強のギルド、それが[unknown-glow]だ。


 その最強が敵に回ったという情報はこの場にいる全員に危機感を持たせる。


「だけど、いくら[unknown-glow]が相手だからと言ってペラーや[noob11]、[臥竜]がそう簡単にやられるとは思えないんだが何があったんだ?」


 雨天の空のその疑問にザークライルは口を開く。


「都庁を制圧した俺たちを襲ったのは毒ガスだ。神経毒だと思うが数人は気づくのが遅れ動けなくなったためペラーの【残】で建物を破壊し全員で外に出た。しかし、そこに[unknown-glow]のウイングケイからの強襲があり全員深手を負わせられたって感じだ。しかし、まあこっちも精鋭揃いだったから死ぬことはなかったんだが逃げる時に離れ離れになり今に至ると言う訳だ」


 その言葉を聞き、なるほどと俺は自分の中で情報を整理する。


 ある程度全体像が見えてきた。


 [unknown-glow]全員が向こう側にいるのは想定外だったが、やはりフローズンの予想通りここに居ないプレイヤーは敵陣営としてリスポーンしているようだ。


 こうなるともうこちらの有利はなくなったと見ていいだろう。むしろ制限時間がある分こちらが不利とも言える。


 また、強襲が失敗した以上、本隊で攻め入るのは難しくフローズンの案は根底から瓦解した。攻撃の要である[noob11]と[臥竜]が孤立してしまったことも含めるとフローズンの信用はガタ落ちである。


 自らリードしておいての大失敗。その余波はフローズンと組んでいた俺たちにも影響するだろう。そしてそれは[NEO.MION]にフローズンと話を繋げた俺の責任でもあり、俺がどうにかしなければいけない問題だ。


「取り敢えずフローズンは何処に行ったんだ? フローズンならこういう時のための保険を用意してあるだろう。……まさか作戦が失敗したから逃げたとは言わないよな」


 俺は言いながらメモリアリスの顔を見た。


「マスターは現在お会い出来ない状態にありますので今この場においての[FRANZ]の全権は私とザークライルに委ねられています。その上で、マスターからの言伝をお伝えします。


 マスター曰く、[unknown-glow]はこの後大規模な〈アンリヴァル〉進攻を行うでしょう。それは主に戦闘機や戦艦を使っての波状攻撃と[unknown-glow]メンバーの首都直接攻撃が予想され、[unknown-glow]のギルドマスタージークの目的はおそらく〈アンリヴァル〉内部に潜入しての防衛装置の無力化であると考えられます。そのため当面の目標は首都〈アンリヴァル〉の死守となりますので[Vs]のギルドマスターであるガロンさんのユニークスキル【ネスト】を主軸にしての防衛作戦をお願いします。


 とのことですので、ここからはガロンさんをリーダーとして進めて行ってくださいお願いします」


「待て待て待て話を進めるな。俺はフローズンを呼べって言ってるんだから回答としては何故呼べないのかを説明するのが正解だぞ。そんな話の通じない女じゃなかっただろお前」


 唐突に話を進め出したメモリアリスに向かって俺は制止をかける。


 もはや笑えてしまうレベルで勝手に話を進めようとしていたメモリアリスだが、そういう訳にはいかない。何よりもこの場面でフローズンが出てこないということがありえないのだ。


 みんなフローズンならば大丈夫だろうと心の中では安心して任していたのも事実だが失敗したのはフローズンであり、ヘイト管理を怠らない普段のフローズンならば必ずこの場に現れ謝罪の一つでもしていたはずだ。そうやって一度リセットしてから次の作戦を説明し立ち回って挽回することが出来る力をフローズンは持っている。しかし、それすら行わず姿を見せないというのはフローズンらしくない立ち回り方であり、だからこそ何を考えているのか少しでも情報が欲しい所であった。


 「話を聞いていたかねじまき。フローズンは今は会えない状態だと言ったんだ。わざわざ言葉を濁す訳を考えろ。お前こそそんな察しの悪いプレイヤーじゃぁなかっただろう」と、突っかかる俺に言葉を返したのはザークライルであった。


 ザークライルの言うことは理解できる。


 作戦を先回りされていた事からこの場にスパイがいる可能性もあり、繊細な情報は出来る限り口に出さないと言うのは合理的だ。だが、それを踏まえてもこの特殊な状況で行なっていい行動とは言い難い。


「それはフローズンと言えど横暴だザーク。先導者としてこの場で説明する責任がフローズンにはある」


「いや、というかそもそも僕がリーダーとか無理ですよ。この面子を纏めるなんて出来ませんし、それに順当に行くなら[NEO.MION]がフローズンに賛同してたんですからみおみおさんが責任を取って指揮するべきでしょう」


 [ODIN]のロングナイトと[Vs]のガロンが立て続けに言葉を重ね、それを気に全員が一斉に意見を言い始めるが、それを止めたのは不意に聞こえてきた爆発音であった。





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