第16話 話は戻って


「この後はどうするんだみおみお?」


 強襲作戦が開始して数時間後。[FRANZ]のホームの近くにある喫茶店で俺はみおみおと話し込んでいた。


 ゲームの頃にはただの張りぼてだった街の建物もどうやら全て機能しているようで、この喫茶店もその一つであった。特に驚いたのが食べ物や飲み物までしっかり出てくるというところだ。テーブルに乗っているコーヒーやチョコケーキも硬貨で買え、味も悪くない。どうやらデータを具現化しているようなのだが、如何せんその仕組みは未だに判明しない。


「取り敢えずペラーさん待ちじゃね? 今は他に何もできる事ないし、下手に動いて墓穴掘るよりペラーさんが持って帰ってくる成果に期待して待ってた方がいい気がするかなぁ」


「それも一理ありけり」と、呟きながら俺はコーヒーを啜って話を続ける。


「でもそれなら向こうにもザークがいるから作戦を考えておかないとあんま意味なくないか?」


「それを今から考えようって話よ。まずペラーさんたちが任務を達成してザークさんが報告に来るだろ、その時点でおそらく戦闘の戦果はさっき向かったアカミンと宋江、そしてペラーさんの三強だと思うんだけど、この戦闘はそもそもザークさんやシロの手助けがあってこそだから、まあ活躍にそこまでの差はあまりない」


「そうだから差を付けるためにこっちでも動いておいた方が良いんじゃないかって話よ」


「いやだからそれで墓穴掘ったら意味ないって話よ」


「じゃぁどうするんだって」


「だからそれを今から考えるんだって」


 言いながらみおみおはオレンジジュースを一口飲み、再び話を続けた。


「[臥竜]の宋江は白うさぎのムーンみたいに派閥争いというかこの街の主導権みたいなのに興味がないだろうし良いんだけど、アカミンがバチバチにフローズンを出し抜こうとしてるから面倒なんだよなぁ」


「面倒か? フローズンはそう簡単に出し抜ける相手じゃないし、俺らがアカミンを利用して抜きに行くのが理想じゃね」と、俺は単純に思ったことを口にしたが、それに対してみおみおは難色を示す。


「なんだねじお前らしくもない。この街に来て舞い上がってるのか知らないけど[noob11]は俺たちより格上だぞ。そんな上手く利用して出し抜くなんてまず不可能だろ」


「あぁ……それもそうか」と、俺は呟き軽く顎を摩った。


 確かにらしくない考え方ではあった。


 自分の都合に合わせて相手を動かすことが出来るという慢心。普段ならば有り得ない考え方だがどうしてかこの街に来てからそういったミスが増えているような気がする。


「……やっぱぺラーさんの言ってたキャラクター初期設定が影響してるんかな?」と、考え込む俺に向かってみおみおは疑問を投げかけた。


「あーそういえば昨日そんな話してたな。キャラと同化してるからキャラの性格も引き継いでしまうだっけ。俺だと豪胆で豪快な性格ってことか」


 そういえばゲームを始める時の一番最初の設定にそんな項目があったなぁと思いながら俺は答える。


「ほら、今も。昔なら昨日ペラーさんが話してたことを自分なりに纏めて解答を出してたじゃん。少なくともあやふやに覚えてるなんてことはなかった」


 みおみおにそう言われて俺ははっとした。


 元々俺はどちらかと言えば慎重な性格で、俺とみおみおとペラーさんが冷静に客観的に物事を考えられるため、作戦などを決めるときは全員で決めたことを3人で会議して詰めていくという方針をとっていた。


 それなのに昨日の会議の内容すらおぼろげに覚えているだけというのは、明らかにおかしい。


「でもそれだけ性格を変えるならもしかして人を殺した時の感情にも補正がかかるのかも知れないな。どのキャラも一度は絶対対人戦を経験してる訳だし、ペラーさんがいうには対人戦の経験値も体に刻み込まれてて拳に対して勝手に体が動いて避けてくれるらしいから、もしかすると物凄く便利なのかも」


 みおみおの考えを聞き俺は首を横に振る。


「いや、怖さの方が大きいかな。……知らぬ間に自分の性格が変わってるとか想像しただけでも震える」


「便利な代償は大きいか」


「大きすぎる。少なくとも俺は自分を失うんじゃないかと恐怖しているレベルに大きいデメリットだし、下手に他の人に言わない方がいいかも知れんな」


「そうだな。……今回の戦いが終わるまではギルドメンバー含め他の人間にはあまり言わない方が正解かな。まあそれはまた次に3人で会議する時に詰めようか。今は目の前の問題。この戦いでフローズンより優位に立つにはどうすればいいかだ」


 みおみおは再びオレンジジュースに口を付け、ズレた話を元に戻した。


「そうだな。今考えても仕方ない事だし保留か。……で、墓穴掘らずに動く方法か。つってもフローズンの先を取る以外無いような気もするけどみおみおはどう思う?」


「先を取るってやっぱり上陸後に先に国会を押さえるとか?」


「んーどうだろう。今回の場合は駅とか橋とかそういう所押さえといた方がいいんじゃね。もしくは武器のある自衛隊を占拠してしまうか」


「ならもう今の内に誰か向かわせておいた方がいいんじゃね?」


「あー…ありだなそれ。そうだな、どうせザークやアカミンが戻ってくると同時にフローズンの本隊は動き出すんだし今から数人動いててもバレないだろ。てかみんな同じこと考えて動いてるんじゃね?」


「それは思った。んじゃ早めに動くかぁ。……メンバーは誰にする?」


「神風、ブラスト、みーちゃんの3人辺りじゃね」


「きょーすけの嫁の件はどうする?」


「それだよなぁ問題は。きょーすけの家って確か静岡だっけ? 静岡かぁ、今は無理だろうしそれも保留にしとこうや。この作戦が終わって東京とったら行けばいいんじゃね」


 そんな話をしていると左手にはめられた銀のブレスレットのボタンが緑に点滅する。


「来たか」と、俺は呟きみおみおに目配せをしてからボタンを押した。


 おそらくはフローズンからの招集メッセージ。ザークライルが戻ってきて次への準備が整ったのだろう。


 宙に開かれたウィンドウのメッセージ欄には赤いマークの付いた未読のメッセージがあり、俺はそこに指を滑らす。


『緊急事態です。上位ギルドの皆さんは今すぐに先ほどの会議場へ集合してください』


 メッセージの主は予想通りフローズンであったが、その内容は若干予想とは外れたものであった。


「……どう思うみおみお」


「どうだろう。フローズンとメッセージのやり取りなんてほとんどしたことないから分からんけど緊急事態なんて簡単に使うタイプじゃないことは確かだな。……でも今の状況で何か緊急になることなんてある?」


 俺は伸びをしながら電球の光る天井を眺め考えを巡らせる。


「まあとにかく行ってみるか。行けば分かるだろ。あと、念のため神風やブラストには連絡送っておいてみおみお」


「了解」


 そうして俺たちは店を後にする。





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