第15話 激戦必死
ペラーはネメロンに向かって走り一気に距離を詰める。
ネメロン、エルオー、バーコード、葛乃葉の内、最も強いのは間違いなくネメロンであった。個人ランク19位にして[noob11]の参謀。まだ体力のあるうちにその男を潰しておこうと考えたのである。
身体能力に物を言わせ目にも留まらぬ速さで駆けるペラーはそのままネメロンに向かって刀を振り下ろした。しかし、それはエルオーによって阻まれたのであった。
「見切り」
つい今までそこにいたネメロンは一瞬のうちにエルオーに変わり、見切りを発動させたエルオーはペラーの刃を紙一重で躱したのであった。
自らの位置とパーティー内の仲間の位置を入れ替えるスキル【トリック】と物理攻撃を80%の確率で躱すアーティファクト【見切りのペンダント】の合わせ技。80%という制限はあるもののこれが存外に強く、特に一対一を得意とするペラーには刺さる。
【残】の衝撃波はあくまでも牽制用。隙も大きく軌道が読みやすい。
つまり一定以上の強さを持つ敵を仕留める時は必ず接近し斬らなければならず、常に後ろの位置から仲間全員を視認しているエルオーはその斬撃に合わせてトリックを発動するのだ。
結果20%を取る運ゲーが始まる。
一撃さえ当てられれば勝負は決まるがそれを当てるまでにも他の奴らの攻撃は続き、危なくなったらエルオーが飛んでくる。
20%の壁。それは[臥竜]と並び圧倒的戦闘力を有する[noob11]だからこそ出来る力技であった。
「てめぇ、この痛みを感じる状況でよくそんな危ない賭けができるな」
するりするりと刀を躱すエルオーにペラーが呟く。
「ゲームは楽しんでこそですよ。痛みがあるからこそ、このスリルがたまらないんじゃないですか」
「変態が」
「雑談、楽しそうですね。私も混ぜてください」
声と共に目の前のエルオーが一瞬にして葛乃葉に変わり、その右手がペラーを捉える。
それを見たペラーは舌打ちをしながら回避行動に移るが一手遅く、「ショートカット刃」と、呟いた葛乃葉の右手から放たれた無数の風の刃にペラーは襲われた。
次々と飛んでくる風の刃をペラーは衝撃波で撃ち落とす。しかし、全てを撃ち落とす事は出来ず残った刃がペラーを切り裂いた。
痛みで動きと思考が鈍る。
それをネメロンは見逃さず体勢を崩したペラーの斜め後ろから迫った。その右手に握られているのは小さな槌であった。
アーティファクトの1つ。神器シリーズ【破壊の鉄鎚】。触れるもの全てを粉砕するその攻撃をまともに食らえばいくらペラーといえどもただでは済まない。
絶体絶命。これは避けられないと思いペラーが防御の姿勢をとった瞬間、2人の間に火の柱が立った。
「火柱……下がれ!!」
すぐにその火が誰の技なのかを理解したネメロンは全員に撤退を促すが時既に遅く、バーコードの首が飛ぶ。
それは何とも衝撃的な光景であった。
手足に炎を纏ったアカミンがバーコードの頭を持って立っていたのである。頭を失った体はその首の断面から光の粒子を漏らして消滅し、遅れて頭も消滅する。
その後も続々と[noob11]のメンバーがその場に現れ、今死んだバーコードも含めペラー側に6人、クラック側に4人の合計10人の[noob11]が集まったのであった。
「ムカつくけどやっぱ優秀やなぁフローズンの奴は。予想ぴったしやないかい」
「相手も引っ張りだせましたし、しっかり先手取れてますね」
アカミンの言葉に隣にいた眼鏡をかけた男、[noob11]の
「ほんまやで。どこまで予想してんのか知らんが今回ばかりは感謝や。さぁてペラー、ここは俺らに任せてもらえへんかな。この阿呆どもに誰を敵に回したのかしっかり分からせてやらなあかんのや」
言いながらアカミンはペラーの肩をに手を置いた。
「逃すなよ」
「誰に言うとるんや。任せてはよ行け」
「……ミミミ!」
刀を仕舞ったペラーがミミミを呼ぶと、上空から風船に捕まったミミミがゆっくりと降りてくる。
「呼びましたか?」
「そんな所に逃げてたのか。他の2人、あいろんとクマは何処にいる?」
「邪魔するといけないんで先にザークライルの所へ合流しに行きましたよ」
「そうか。俺らも向かうぞ」
「はいっ」
「アカミン、こっちのギルドの奴らも気にせずしばいてくれていいからな」
「わかっとる」
言い残し先を歩くペラーの後をミミミは付いて行き、2人はその場から姿を消す。残されたのは[noob11]のメンバーと満身創痍な[NEO.MION]の3人であった。
「さて、ほんまたるいことしてくれたなお前ら」
2人の姿が完全に見えなくなったのを確認してアカミンは再び目の前にいる[noob11]の3人を睨む。
そんなアカミンを見ながらエルオーは自らの後ろを気にしていた。
「クラックとその他諸々方、逃げられますか?」と、エルオーが小声で後ろの負傷している[NEO.MION]の3人に尋ねるが、クラックは首を横に振る。
「無理だ。あの人数からは逃げられない」
「ならすみませんが置いて行きます。憑依を使っているアカミンに他のメンバーもいては流石に勝ち筋がないので……トリック!」
話の途中でエルオーはトリックを発動させた。
入れ替わった先は葛乃葉であり、入れ替わると同時に「見切り」と呟く。
その眼前に迫るのは全身に炎を纏ったアカミンであった。
唸りを上げて迫り来るアカミンのその拳をエルオーは見切りを使って紙一重で躱した。
勢いのままエルオーの背後に抜けていったアカミンは反転して再びエルオーに向かって手を伸ばすが、それはネメロンが許さなかった。
アカミンの右側から一気に距離を詰め鉄槌を振り上げる。が、それもまた通らない。振りかぶったネメロンを横から[noob11]の大男
同時にアカミンの手がエルオーに襲いかかり、エルオーは再び見切りを発動する。
「ブラッド!!」
エルオーが見切りを発動したのを確認してアカミンが叫び、次の瞬間、エルオーが爆発の炎に包まれる。
そうして悲痛な叫び声が場に響き、エルオーは光の粒となって消え去った。
物理攻撃の時だけトリックで前に出て見切りを発動するエルオーは、他のプレイヤーからすると捉えづらい存在ではあるが、見切りを発動している最中にトリックは発動できず物理攻撃以外の攻撃への耐性がゼロとなるためしっかりと攻略できれば脆い。
同じ[noob11]のメンバーであるアカミン達はそれを逃さなかったのだ。
「これであと2人やな」と、呟くアカミンの目が葛乃葉を捉える。
「下がってください。ここは私が食い止めますので、その代わりカナリンとルーザーも連れていってあげてください。この世界、何があるか分かりませんのでできる限り死なない方が良いでしょうし、協力しましょう」
そう言いながら睨み合う[noob11]の間に入り込んだのはクラックであった。
龍刀【鱗】の鱗に身を包んだクラックは切っ先をアカミンに向ける。
「俺らを相手にしようっていう心意気はええが、手加減はせぇへんでクラック」
「手加減無用。ここは私が通しません」
満身創痍のクラックに相対する6人の[noob11]。そうしてクラックの戦いは再び幕を上げたのあった。
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