第14話 ”残”と”鱗”
「やってくれましたねペラーさん。それにこの上の階には結構な人数の人がいましたのに」
約3階分の鉄の塊に押しつぶされて、体の所々から流血はしているものの普通に立っているのは流石上位プレイヤーと言ったところだろうか。
「これだけ非常ベルや何やと騒いでまだ残ってる方が悪い。俺は危険をしっかり知らせたからな。敵にこれ以上の情けは必要ねぇよ。それに、危険と分かってて命張って残ってる奴には全力でかからねぇと、慢心したら噛みつかれる」
「いいんですか? これであなたも大量殺人者です。侵略者に正義はありませんよ」
「関係ねぇな。元々艦隊や戦闘機で先に圧力をかけてきたのはそっちだ。だからこっちも圧力かけて対等に戻すだけで、この犠牲はそっちの落ち度だ。自分たちの責任を敵に押し付け罪逃れとは片腹痛いわ」
ペラーは再び刀を抜く。
「さて、話も終わりだそろそろ片を付けるぞ」
生刀【残】の脈が伸びる。それは柄を越えペラーの手を侵食していった。
「最強の盾である龍刀【鱗】と最強の矛である生刀【残】、二人が揃えば最強だとお前をギルドに誘ったが、そろそろどちらが強いのか白黒ハッキリさせようじゃねぇか」
刀から伸びた脈はペラーの右上半身を覆いながら心臓に到達し、漏れた力が周囲を歪ませる。まるで磁気でも帯びているかのように、ペラーの周りには埃が舞い、力に耐えきれず床が沈む。
「待ってください。あなたが【残】をフルパワーで使うとここら一帯が消し飛びます。それはあなたの望むところでもないでしょう」
「それがどうした? 俺はここでこの圧倒的な力を持ってして戦いを終わらせる。全世界に誰を敵に回したのかを見せ、降参させる。それが俺のやり方だ。嫌なら降参しろクラック」
圧をかけるペラーだが、実の所【鱗】と【残】は一対一ならば【残】の方が強いと結論が出ている。【鱗】は攻撃を激減、正確には20分の1にする特性を持っているが、つまりそれは少しでもダメージを食らうという訳でもある。一方【残】は自らの身体能力と攻撃力を10倍にまで増幅させるのだ。
そのため、他の武器ならば殆どダメージを受けない【鱗】であっても相手が【残】となるとじわじわと体力を削られ倒されてしまうのである。
何より【残】の持つ副特性、衝撃波が【鱗】にはキツかった。威力をそのままに、【残】は先程のように刀から衝撃波を発生させることが出来る。本来ならば、肉を切らせて骨を断つ戦法で【鱗】はダメージレースに勝ち相手を倒すのだが、衝撃波によってペラーは中距離からの攻撃が可能である為、相手の手数に追い付けないのだ。
しかし、生刀【残】にも弱点はある。【残】はフルパワーで扱うと自らの体力を削るのだ。
だからこそ、【残】に対して耐久が可能な【鱗】は【残】の最適解と言われており、性能のみを見ると【残】の方が強いが【鱗】ならば使用者次第でその不利を覆すことが出来るのだ。
「あなたとまた耐久戦をする事になるとは……ほんと骨が折れますね」
クラックの全身を銀の鱗が覆い、それに呼応してペラーも臨戦態勢をとる。
「ミミミは下がってな」
「頑張ってくださいねペラーさん。固定ヒールかけときますんで!」
ミミミはペラーに時間で一定数回復する魔法をかけ風船に掴まりながらその場を離れた。
「行くぞ」
ペラーが地面を蹴る。限界まで引き上げられた脚力で出された一歩は神速となり人間の目で追えるスピードを超えていた。そしてその勢いを利用しての左上段から振り下ろされる一撃をクラックは刀で受けるが、勢いは殺せずペラーの力に押されて後ろに弾き飛ばされてしまう。
それを見てペラーは間髪入れずに「一線」と、呟き少し離れたクラックに向けて縦に刀を振り下ろした。
衝撃波が建物を穿つ。
ペラーたちの立っていた場所から一階の地面まで建物が扇状に粉々に砕け散り、足場を失い下に落下しだしたクラックにペラーは追い討ちをかけた。
飛びかかって切り結び、空中に浮いているクラックを更に力で弾き飛ばす。
踏ん張りの効かないクラックは力に押されて急速に落下し、音を立てながら地面に衝突した。
「いってぇな」と、ボヤきながらクラックが立ち上がると、一階ではクラック側[NEO.MION]のカナリン、ルーザー対あいろん、クマの戦いが同時進行していたようで、その4人と目が合った。
「……あ、ちょうどいい所にいましたねカナリン、ルーザー。化け物退治手伝ってください」
「おう、あいろん、クマ。お前らも退いてろ。巻き添え食らっても知らねぇぞ」
削れた建物の階層を一段ずつ飛んで降りてくるペラーとそれを指差すクラック。
「ペラーさんマジモードじゃん。話と違うぞクラック。これは無理だ」と、弱音を漏らすのはサングラスをかけた短髪の男ルーザーであった。
「無理でもやるしかありません。ここで時間を稼がなければ全てが失敗します」
「小賢しい策を並べた所で無駄だクラック。こっちの参謀はフローズンだ。アカミンももうすぐ到着するし諦めろ。お前らに勝ち目はない」
「それでも引けない時というものはあるものです」
「なら死んどけ」
再び彼らの戦闘が始まり、そこから約30分戦闘は続いた。
戦いの余波でまるで大地震でも起きたかのように辺りの建物は崩壊しており、クラックの体にも傷が目立つ。
「なかなかどうして粘るじゃねぇか。そろそろギブアップしたらどうだクラック」
満身創痍ながらも集中力を切らさないように深呼吸をするクラックにペラーが言葉を投げる。
「カナリン、ルーザー、まだ行けますか?」
すぐ後ろで膝をつく二人にクラックは小声で声をかける。
「無理だもうMPがない。一旦戻って回復させないと」
「そうですか……」
頭を悩ませているクラックを見ながらペラーもまた考えを巡らせていた。
現在作戦を開始してから45分が経ち、約束の時間までは15分しかない。既に建物は半壊しているため目標は達成しているといえばしているのだが、肝心の情報は何一つとして入手できていないため出来れば目の前の阿呆どもを連れて帰りたいとペラーは思っていたのだ。
しかしながら、倒すならまだしも連れて帰るとなるとおそらく時間には間に合わないだろう。
その時であった。
「待たせたなお前ら」という掛け声と共に数人の人影がこの場に現れたのだった。
ペラーの目線の先、クラックの背後には4人の男の姿が見え、左から
全員[noob11]の主力メンバーであり、向こう側から出てきたという事はおそらくクラックと同じ枠の敵であるとペラーはすぐに察した。
「ようペラー、奇遇だなこんなところで何にしてんだ?」
「[NEO.MION]の模擬戦だ。企業秘密だから帰れネメロン」
笑いながら冗談をいうネメロンにペラーは舌打ちをしながら何処かへ行けと言うように手を振る。
「ハッハッ、嫌われたもんだな。さて、本気モードのペラーが相手か。悪くはないな。行けるかエルオー?」
「任せて。伊達に[noob11]でタンクしてないからね。君らが攻撃するだけの時間くらいは稼ぐよ」
「OK。んじゃ俺とバーコードがアッタク、エルオーが時間稼いで、葛乃葉は援護しといて。クラックは下がってな。あとは俺らがやる」
すぐに状況を整理して戦いの算段を立てる[noob11]のメンバーを見てペラーも臨戦態勢をとる。
そして[noob11]の4人とペラーが同時に動いた。
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