第10話 電撃作戦
皆それぞれ疑念の表情を浮かべながらも次の動向を思案しているのが分かる。
しかしながら、有利を取られないように先に先にと反射的に反応して言葉を出せる辺りはさすがアカミンだと俺は思った。
さて、ここからが重要だ。
三日前、俺の元へ話があると言って現れたフローズン。それはこの時のための話であった。つまりフローズンはこの展開までは筋道として完璧に読んでいたのだ。
みんなが賛同し、攻め入ることになり、それにアカミンなどの幾つかのフローズンと対立するギルドが反発する。そこまで分かっていたフローズンは確実な味方を一人つけると同時に攻勢に出るために俺もとい[NEO.MION]に協力を求めたのである。
こちらに求められたのはフローズンへの賛同と人員の提供。代わりにこちらは最前線への参戦とそれによって得られる副産物、所謂功績などだ。
流石に二つ返事で了承は出来なかったが、ギルドメンバーで話し合った結果[NEO.MION]はフローズンに協力する事となった。
「言葉の意味の通り今この瞬間から攻撃を開始します。既に[NEO.MION]のメンバーが私のギルドのメンバーであるザークライルと共に合図を待っています。彼らが第一陣としてザークライルの【瞬間移動】で強襲をかけ、第二陣として[noob11]に突撃して欲しいと思っているのですが、いかがでしょうか?」
「いかがも何もそれは勝手が過ぎやしませんかね?」と、宋江が口を挟む。
「勝手だと思うのなら反対してくれてもいいんですよ宋江さん。しかし、そうなった場合は誰かにこの場の指揮をとって頂かなければ行けなくなりますね。少数派である私がみなさんを動かす訳にはいきませんし、もしよろしければ宋江さんがやりますか?」
フローズンの横で俺は苦笑を漏らした。
この人は本当に腹黒いと言うか何というか。どうやって全員を抑え込むのかと思っていたらまさか力技とは。
フローズンは先に[臥竜]の別行動を許した上でわざと自らの得が大きい強行案を出し、相手に否定させたのだ。
案を否定するなら他の案を出さなくてはならず、他の案を出してそれが通ったのならその案を出した人間がこれからの指揮をとって行くのが普通なのだが、そう簡単な話でもない。
フローズンを指揮役から外すならば普通ならば同じくらいの力を持ったアカミンかみおみお、もしくは雨天の空が矢面に立つ事になるがみおみおはフローズンと協力しており、アカミンはそもそも向いていない。雨天の空は有能な男だが、だからこそこんな際どい状況で引き受けたりはしないだろう。
その上、[臥竜]の別行動を許したことで、もしも他の誰かが指揮役になったとしてもフローズンは[臥竜]と同じように別行動を主張することが出来るのだ。
どう転んでもフローズンはこのまま日本へ強襲をかけることができ、もしも強襲を成功させればフローズンの案が正しかったと証明され指揮役に返り咲くことが出来る。
そしてフローズンならば強襲を必ず成功させるだろう。
特に俺たちと協力体制にあるというのが大きい。ここ数年上位5ギルドは入れ替わりが一切なく、少人数の[臥竜]を抜けないギルドと抜けるギルドでは非常に大きな差がある。その中の二つが協力しているのだから、他に対抗馬が立ったとしても票はこちらに流れるはずだ。
万全の態勢。
仲間にするとこれほど頼もしいとは、流石[FRANZ]のギルドマスターだ。
「ではこういうのはどうですか? 私たち[臥竜]は協力する気はありません。そして恐らく、上位5ギルド全員が個人プレイを望んでいるのではないでしょうか? ならばそれぞれ自由に動きましょう。7位以下は雨天の空が指揮をしてここを防衛してください。その間に私たちが日本を落としてきます。これでどうですか?」
これまた上手い返しだと俺は思ったが、それではフローズンは止められなかった。
「いえ、相手の戦力も分からないうちから全員が別行動をとるのは悪手です。この島にいる全員の未来がかかっている戦いなんですから絶対に勝たなければいけない。もしも宋江さんのいう作戦をとるなら、まず最大戦力であり今すぐ行動できる私達が様子見をし、それが成功してから行うべきです」
フローズンが最初に仕掛けているため他の面子はどうしても後手に回ってしまっている。出来ても言葉を上手く返すくらいで、ひっくり返すことはできていない。
状況は依然としてフローズンが優勢だ。
「これはしゃーないな。フローズンお前の好きにしたらええわ。最初の一回はお前に譲ったる。ただその一回が終わったら俺らも好きに動かさせてもらう。それでええか? せやけど、ここに居ない下位ギルドはどうするんや? 勝手に攻めて反感買うんちゃうんか」
「下位ギルドには既に根回しが済んでいますので心配無用です。私が全責任を背負ってみなさんを勝ちに導きますよ」
フローズンのその言葉とほぼ同時にフローズンの後ろに一人の男が現れた。
キッチリと七三で分けられた髪と黒縁のメガネが逆に特徴的なその男の頭上にはザークライルの文字がある。
「時間だ。時間は守れフローズン。私の独断で動くぞ」
低く太い声には妙な威圧感があり緊張感が漂う。
「すみませんザークさん。もう終わりましたので打ち合わせの通りペラーさんを連れて戻って強襲をかけてください。後の首尾は任せて大丈夫ですか?」
「オーケーだ。完璧に遂行しよう」
「私たちも後から向かいますのでそれまでよろしくお願いします」
「では、行こうかペラー」と、ザークライルは言うと同時に俺の横にいたペラーさんの腕を掴んで一瞬にしてその場から消えたのであった。
間近で見るのは久しぶりだが、音もなく消えるため何度見てもビビってしまう。
最強格のスキルの一つ【瞬間移動】。
【表裏一体】と同じく最難関クエストの達成報酬だが【表裏一体】とは違い応用が利きにくいスキルでもある。
【表裏一体】は絶対に干渉出来ない裏の世界を自由に扱うことが出来るため大人数を移動させたり、相手を一人だけ閉じ込めて数人で叩いたりと多対一を確実に作れるスキルである一方、【瞬間移動】はザークライルが手で触れたものしか一緒に連れて行けないため最大人数が二人であり、また、物を瞬間移動させるのではなく自分を瞬間移動させておまけで触れているものを連れて行くためかなり尖った性能となっている。
しかしながら、【表裏一体】が現実世界とリンクしており裏の世界で動いた分だけ表の世界でも移動するのに対し、【瞬間移動】は場所さえイメージ出来ればどこまでも、どこへでも行けるという利点もある。そのようにして一瞬で長距離移動を行えるのは全スキルの中で【瞬間移動】だけだ。
今回はその利点を使って東京に強襲をかけようという話だ。
さてこの強行策が吉と出るか凶と出るか。全てはペラーさんにかかっているが、俺たちは信じて待つだけだ。
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