第3話 どんどん話がこんがらがって


 門を超えた先、軽い丘となっている平原には思ったよりも人が多く、20人以上が何かを言い争っているようであった。


「だからちょっと待てって言ってんだろ。話通じねえのかよ馬鹿が」


 群衆に近づくとその奥の方から聞き慣れた怒声が聞こえ、俺とあいろんは同時にお互いの顔を見た。


「今の声ってさ」


 あいろんが呟いた言葉に俺は頷く。


「あぁ、みおみおだな。なんか面倒くさそうだけど……しゃーなし行ってみるか」


 頭を掻きながら少し考えた後、俺は人混みを掻き分けるようにして声のする方へ向かった。


「おい、ねじまき。あれ」


 あいろんに肩を叩かれ指差す方、平原のはるか向こうのにある見慣れない湖の方を見ると、そこには何隻かの船が見えた。


「あれって《ディザスター》じゃなくて現実にあった船だよな?」


 続けて話し始めたあいろんに相づちを打ちながら俺は考える。


 あの船は明らかに《ディザスター》の物ではなく現実世界の物であった。


 つまりは、あれは湖ではなく海であり、考えられるのはここが《ディザスター》の世界ではなく、現実世界に《ディザスター》の街が飛んで来たと言う事である。


 俺達は思ったよりも複雑で厄介な状況に置かれているのかもしれないと俺は唾を飲んだ。


「あ……」


 そんな事を考えながら辺りを見ると、背の低い銀髪の少女の姿が目に入り俺は無意識に声を漏らした。


 その少女の頭にはmiomio281とハンドルネームが記されており、まさに俺達が探していた人物その人であった。


「ん? お、みおみおじゃん。……あー、なんか立て込んでるみたいだけどどうする?」


 あいろんの言う通り、みおみおは軍服らしきものを着た数人の男と言い争っており、俺は声をかけようか躊躇った。


 出て行きたい気持ちもあるが、何も分かっていない俺たちがここで出て行ってなおさら話がこじれても面倒だと考えたのである。


 俺は頭を掻きながら溜め息を漏らす。


「あれおそらく海軍とかそんな感じの人間だよな。どーすっかなぁ」


「丁度いい所に居ましたね」と、ふいに誰かに肩を掴まれ俺は振り返る。


「クマか。びびったわ」


 目を向けた先に立って居たのは筋肉質なスキンヘッドの大男、ギルドメンバーのクママスターであった。


「あれ、お前みおみおと一緒に居たんじゃ」


「一緒に居たからここに居るんでしょう。ほらみおみおが困ってますよ。同じ初期メンバーの君たちが助けてあげてください」


「うわ、ちょっと待った待った」


「待ちません」


 力強く背中を押された俺とあいろんは転げそうになりながら人混みの中から押し出される。


 急に人混みから現れた俺とあいろん。当然みおみおと数人の軍人らしき男達からの視線が集まり、非常に気まずい空気感を感じながら少しでも情報を集めようと俺は視線を泳がした。


「やっと起きたかねじまき。状況は理解してるか?」


「それよりもお前それ男キャラか?」


 真剣な話をしようとしているみおみおだったが、美少女キャラから放たれた若い男の声に俺はつい反応してしまう。


「男キャラだよ。ネカマやってた奴は全員見た目そのままで男キャラになってる見たいだわ。まあこれはこれで面倒ごとが一つ消えたと思えば悪くはないかな」


「女だとトラブル増えそうだもんな。それで、この人達は?」


 脱線させた話を戻し、俺はぴんと立った数人の屈強な軍人らしき男を見た。


「おそらくあなたの想像通りですよねじまき。すぐに出て来ず見ていたという事はある程度は察していたんでしょう?」


 俺の横をすり抜けてみおみおの隣に立ったクマが、その体格に似合わない優しそうな垂れ目をこちらに向けて言う。


「紹介しよう。こちら日本軍の牧瀬雄一郎さんだ」


 みおみおは仰々しく手を振って一人の軍人を指した。30代後半くらいだろうか。顔の所々には年齢を感じさせる皺が浮き出てはいるが、身体つきは非常にしっかりとしており眼も鋭い。何より彼らの肩に担がれたアサルトライフルらしき銃が威圧感を放っていた。


「初めまして。僕はねじまきがみと言います。こちらはあいろんで、僕達はそこに居るみおみおやクマと同じギルドに所属するメンバーです」


 俺はその牧瀬雄一郎と呼ばれた軍人に向かって自己紹介をしながら手を差し出した。


「私は牧瀬雄一郎ですよろしく」


 握手を交わし、互いに視線を交わす。


「さてねじまき。ここからが本題だ」


 それを見てみおみおが口を挟む。


「この牧瀬さんが言うには、今現在この島は日本の南側、沖ノ鳥島の近くに存在しているらしい。そしてこの人達は日本領海に突如現れたこの島を調査しに来たらしい」


「そこから先は私が話そう」と、今度は牧瀬が口を挟む。


「ヘリや船が何度もこの島の周辺を探査したが、生物の存在は見受けられなかった。そのため今回私達が上陸し探索しようとした所、君達と出会ったのだ。そこで私は問う。君達は何者なのだ? そこにいるみおみおさんと話をしていたが、自分一人じゃ判断しかねるとの事だったので君達が来るのを待っていたのだよ」


「あー……」


 話を聞いて俺は頭をフル回転させた。


 ここが現実世界で、日本の近くであるという事は確定した。そこで相手方が求めている答えは自分達の味方かどうかという事だろう。ならばたとえ今後敵になる可能性があろうとも、味方である風に答えておいた方が良いには決まっている。


 しかし、自分達が何者なのかも分かっていない現状では、味方につくとしてもこちら側が有利になるように交渉しなければならないのだ。


 相手に有利を取られると、この場で日本への同行を求められる可能性も出てきてしまう。


 面倒だが、みおみおが手に入れてくれたチャンスでもあり、今ここで交渉を成功させられればこの島でかなりの発言力を得られるだろう。俺達がやらなければならない。


 そう思い俺は1つ深呼吸をした。

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