ブラックホール
いやー、ありがたいことに最近テレビに出させていただく機会が急激に増えましてね、街中でも「黒井さんですよね」なんて声をかけてもらうことが多くなってきたんですよ。いやほんとに嬉しいんですけどね、ひとつ困ったことがありまして。
僕っていつも「ブラックホールの黒井です~」って言って出てくるじゃないですか。なんですけど、みなさんから「なんでピン芸人なのに『ブラックホールの』って名乗るんですか?」って聞かれることが多くてですね。なので今日はちょっとその話をさせてもらおうかなと。
まず大前提なんですけど、『ブラックホール』ってのはコンビ名なんですよ。実は僕ピンじゃないんです。相方の名前が穴井って言って、黒井と穴井でブラックホールって訳です。ちょー安直。
相方ですか? 今はブラックホールにいますね。あぁ、もちろん解散してないのはそうなんですけど、物理的にブラックホールにいます。説明するとちょっと長くなっちゃうんですけど……。あ、いいんですか、ありがとうございます。
そうっすねー、今から六年くらい前になるんですけど、まだちっちゃい劇場でやってた頃ですね、もうめっっちゃくちゃおもろいショートコント思いついたんですよ。あ、やっていいですか? そしたらみなさんの頭の中でイマジナリー相方を補完しながら見てもらえればと。あ、相方はセリフほぼないんで大丈夫です。
そしたら行きますねー。
えー、ショートコント『ブラックホール』。
いやー黒井と穴井でブラックホール言うてますけどもね、えー穴井くん、ブラックホール入ろか。ほら、早くロケット乗りや、なにもたもたしとんねんお客さん待っとるで。
何? 「最後にカレー味のうんことうんこ味のカレーどっちがおいしいか知りたい」? んなもんうんこに決まっとるやろ、カレー味なんやから!
え、まだ何かあるん? えー「最後にパンはパンでも食べられないパンがなにか知りたい」? んなもんフライパンに決まっとるやろ、パンダもパンツもそこそこ頑張れば食えるわアホ!
バカ言うとらんと早よロケット打ち上げるで! お待たせしましたねお客さん、そしたら打ち上げますわ、発射ー!!!
あ、終わりです。
いやこれ本当にロケット用意して打ち上げたんですよ、マジで。もともと小道具でやるつもりだったんですけど、なんか調べたら六十万でロケット打ち上げてくれるトコがあって。で、そこに問い合わせて、コントの説明もしたんですね。そしたら業者さんがね、「軽く打ち上げて大気圏ギリギリまで行って帰ってきましょっか、それなら六十万で行けますよ」って言うんですね。
軽く打ち上げるってなんやねん!と思いながらも、これホントに打ち上げたら死ぬほどおもろいなーと思ったんで、結局業者さんの言う通りにやることになったんです。
いやーでもさすが六十万っすね、なんか出力の桁を一ケタ間違えちゃったらしくて、ロケットそのまま太陽系の外に出ちゃったんすよ。
でね、穴井の持ってるキッズケータイのGPSで追跡してたら、どうやらブラックホールの近くまで行ってるらしいって分かりましてね。それで彼にメールしたんですね、「もうすぐブラックホールに飲み込まれるらしいねんけど、助けてもらうか?」って。そしたら相方、『このコントはブラックホールに入るのがオチやねん、これがホンマのブラックホールってな!』って返信してきたんですよ。キッズケータイのくせに。
それでちょっと話変わるんですけど、ブラックホールって外からものを入れると吸い込まれるんですよ。吸い込まれるんですけど、これ時間が経てば経つほど吸い込まれる速度が速くなっていくんですね。なのでいずれ光も吸い込まれるってわけなんです。
でも、逆に吸い込まれる側の気持ちになってみると、吸い込まれれば吸い込まれるほど時間の進みってゆっくり感じるようになるんですね。なのでブラックホールの中ではだんだんと時間の流れが遅くなっていって、限りなく永遠に近づいていくんです。
でも外側から見てると、限りなく早く吸い込まれていく。これね、僕から見ると穴井は限りなく速い速度で死に近づいていくんですけど、穴井側としては死に近づく速度が限りなく遅くなってるんです。
簡単に言うと、穴井って生きながら死んでるんですよね。
これねー、何が問題かって言うと、穴井が死ぬことは確定してるんですけど、でも限りなく永遠に死なないんですよね。コントも同じで、このコントが終わることは確定してるんですけど、コントのオチが限りなく先延ばしにされてるんですよ。
だからもう六年経ってますけど、僕らの中でこのコントはまだ続いたまんまなんですね。そうするとやっぱり芸人としてコント中にお客さんの前で解散するわけにはいかないじゃないですか。まあそういうわけで、未だに「ブラックホールの黒井です~」って挨拶してるってことです。
コントのウケ具合ですか? だだスベリでしたね~。
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