第3話 Merry xmas_ひかり.あい.あや編_

私達家族は少し特殊だ。

それは何年前のクリスマスだったろうか。


ひかりとあやはその日いつものようにカモを探していた。

この一晩をただ共にする相手。

寂しさの穴埋めをするだけの一晩の関係。

一晩数万円の相手。


大抵、都会の街ではそんな女を探しているアホ男どもが存在する。このキラキラした街の片隅にある暗い暗い闇の中に私達はいた。


ひかりとあやは異母姉妹だった。毎晩飲んだくれては子供を殴る父親。他の男を生業とする母親。私たち姉妹はそんな家庭から二人で脱げだすことを誓ったあの日。あの日もクリスマスだった。

冬空の下雪が降る街で、私達姉妹は手を繋いで何も持たずにあの家を飛び出した。


それからはや数年、私達姉妹は幾度なく生きる為にこの身体を滅ぼしてきた。

汚れ切ったこの身体にもう何もかもが歪んで見えた。


「あや、今年は少し美味しいもの食べる?」

「えぇ!ひかりねぇ、次のカモの服とかにしない?」

「あーそうしよっかぁ...」

そんな会話をしていた時だった。


「ねぇねぇ君達どっかいくのぉー?」

ブランドのスーツを着こなした若い男が3人。声をかけてきた。


きた!というように二人は目を合わせると、酔っ払ったように、「んーちょっと酔っちゃってぇ...終電なくなって困ってたんですぅ...ねぇホテルどうするぅ?」ひかりがあやに言うとあやは「ぇぇ...もぉホテル見つからないよぉ...満喫いこっかぁ」


男達はしめしめというように「それなら僕らが泊まってるホテル!20階!スイートだよ!貸してあげるよお小遣いもほら!」と言って札束をチラつかせた。


そこそこいいカモかもしれない。そうお互いのアイサインで感じ取ったひかりは「えぇ...どうする?」あやは「うーん食事だけなら...」と言うといつも通りにホテルへ招かれた。


大抵はその辺のホテルなんだけどな...

今回は大当たりかも!とホテルのラウンジに入り2人は思っていた。


最上階のスイートルームの廊下は果てしなく続いている終わりのない道のように見えた。


スイートルームにつくといつものように成り行き任せの行為が行われる。がしかし、今回は違った。


ひとりがポケットから何かを取り出したのだ。

「ほら、これもっと気持ち良くなるよ?」

これはやばい!とふたりは感じ取る。

さっとひかりがあやの前に立ちはだかり小声で「おとりになるからドアを開けて逃げて」そう言う。「ひかりねぇ...」心配そうな声にひかりは言う。「なぁに心配してんの!私喧嘩強いの知ってるでしょ!早く!」ひかりの大声がはっきりと伝わるとあやは勢いよく扉の方へ走っていった。


「あっ!」あやの前に男がもうひとりたちはだかる。4人!そう、相手は4人いたのだ。ひとりはホテルの中で待機。これはまずい。戦闘には向いていないあやはさすがに焦った。ひかりも焦っていた。体格の良い男が4人。守りきれない!そう感じていた。


4人がそのまま2人に覆い被さった時、彼女達は突如やってきたんだ。


ドンドン!ドンドン!警察です。開けてください。

女の声だった。


4人はアイサインをするとひかりとあやは声もでないまま薬を嗅がされて眠りについた。


気がついた時には男達の姿はなかった。


代わりに、あいとなのるあの時の警察官とスーツ姿のイケメンがそこにいた。


「あいさん、こいつら起きた。」イケメンが言う。

「あら、調子はどう?」

あいは二人に問いかけた。


「え?あなたたち誰?あっあやは!!」

「となりにいるその子の事かしら?」

ひかりははっ!とすると隣で眠りこけるあやを見て「あや!あや!」と身体を揺らした。

「やめろ。揺らすな。すぐ起きる。」

「は?あんた誰?...つかイケメン...」

こんな時でもこんなカモならいいかと思えていた。


あいが「ふふふ...なおよかったわね...イケメンだって...」くすくすと笑い出した。

「あいさん...性格悪いっす」「あら失礼ねぇ」とその謎のあいとなおと名乗るふたりは談笑していた。


「んん...頭いだぃぃうぇぇ...」あやが目を覚ましてひかりとおなじことを言うのでまた謎の二人は談笑した。


それからあいと名乗るその女性はひかりとあやに異常はなさそうねと一通り医者のように診察するとさっと立ち上がって「じゃ、失礼。子猫ちゃん気をつけてね」と言ってなおに鞄を渡して扉の方へ消えようとした。


「あっ待って!あんたら誰?なんの為に?ここのお代は!」

それを聞いたなおはなんだこの女!と言う目でひかりをみる。あやは「いやさすがにひかりねぇ...それはたぶん大丈夫」と付け加える。

なおはさらになんだこいつら!という今にも殺さんばかりの目で睨みつけた。

「こらこら、やめなさい。なお。」

「すいません、あいさん、失礼しました。」

大人しくなったなおをみてあいが言う。

「あなたたち、わたしの家族になってみる?」

「は?」その場にいたあい以外が全員合致した言葉を繰り出す。


あいはそれをみて「あらぁ、やっぱり気が合いそう!さっ、みんなで帰りましょう!」とにこやかにあやとひかりの手を繋ぐとさっとまた立ち上がった。


随分おかしなクリスマスだった。


その日からはじめてひかりとあやは身体を汚すことをやめた。


あれから数年、私たち家族はレンタル出張サービスを営なむ会社を生業としている。


ひかりは受付。

なおはレンタル彼氏。

あやは高校を卒業していなかった為、あいのはからいで高校生になった。


愛は未だに謎多き人で困った時にさっと現れてはさっと解決しては消えていく。


そんな愛でもひかりとあやに出逢ったクリスマスだけは必ず帰宅してはわたしたちになんでもないただ一晩一緒にいるだけの愛をくれる。

まるであいという名にふさわしい人だ。


今年のクリスマスもやってきた。

ひかりとあやはいつものように待つ。

「今年は頑張ったからあいさんにワインでも買う?」ひかりがいうと

「ひかりねぇ...今年は本のがよくない?毎年ワインばっかりじゃない?」

「え?そうかな?」

「うん...」

「えーそれじゃ本だって..毎年!!!」

そうしてあの日のクリスマスとは違う

あいさんへ宛てたプレゼントを姉妹は選ぶ。


それはまるで本物の姉妹が母に贈るプレゼント選びのようだった。


「ねぇ!今年もつけよう!やっぱり手紙!」

「そうだね!いつも同じだからいらないっていわれちゃうけど毎年の恒例だしね!」


あやとひかりはこの言葉をいつも毎年クリスマスに贈る。


「あいさん、毎日あいをくれてありがとう。メリークリスマス!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る