第2話 Merry xmas_あきときとかりん編_

あきときは幼少の頃から体が弱く入退院を繰り返していた。両親は今年もきっとこない。誰も僕にはいないのだ。誰も僕には一緒にこの日を過ごす人などいないのだ。


「あきときくーん!もうすぐクリスマスだよー!サンタさんに何かお願い事あるかな?」看護師がわざとらしく今年も欲しいものをサンタと称して探ってくる。


「ほしいものなんてないってサンタにいって」

僕は布団へ潜り込むと寒いだろう外の景色を見て布団に突っ伏した。


「そっそっかじゃあ代わりに私がサンタさんにお願いしとくね、、、!」

看護師は困ったように僕に言って病室をでる。


ガラガラ....

「あきとき?!久々やんか!」

聞き覚えのある甲高い声が聞こえた。

さっと振り向くとそこにいたのはかりんだった。

「かりん?なっなんでここに!」

それは幼馴染のかりん。

いつもうるさくてしつこい奴だ。


「なんでってかりん!今日から入院やねん!」


「はぁぁぁ?」

どうせいつもの嘘だ。


「いやぁ、かりんがおらんとつまらへんやん?って思うてさ!入院してやったん!」


「何言ってんだお前は。さっさっと帰れよ。」


「だぁかぁらぁ!かりん今日から入院しとんねんて!」


「はぁ...」


何毎回目の嘘だよ...毎年約束してはクリスマスどころか誕生日すらこねぇだろ...


いつものことに呆れながら僕はまた布団に潜り込む。


ばさぁ!!!

いきなり布団を大袈裟なくらいにめくると、かりんが言った。「なにしとんねん!今日はイブやろ!クリスマスになる瞬間にサンタ捕まえんねん!さっそく会議や!」


「アホか...お前...」

ばさりとめくられた布団を元に戻しながら僕は今日も寒々しい窓の景色をまた眺める。


かりんはそれから数時間にわたってサンタに出会う為の用意とやらを語って語り尽くした後、ようやく「ほな!またあとでな!」と言い残して立ち去った。


長かった...

内心僕の心の中にまだ少しサンタを信じたい気持ちがあったのか。ただ誰かの話を聞いていたかっただけなのか...わからないけど...と思いながら僕は眠りについた。


イブの夕飯を食べ終わり、僕は早々に眠りにつく。

ガラッガラッ...

部屋の扉が開く音が聞こえた。

あぁ...どうせサンタと称した看護師だろ...?

と思い僕は眠りについたふりをした。


「こらっ...こらっ...起きろっ...起きんねん!こらっ!」

「...今年のサンタはしつこ...かっかりん?!」

「言うたやろ?ほら!サンタみつけにいくで!」

そこにはサンタの格好を施した明らかなかりんサンタが登場した。


「いや、お前、なんやその格好...」

「いやなサンタにはサンタの仲間やと思わせなあかんと思って!」

「は?アホなん?お前。」

そのアホさに僕もすこし笑ってしまった。


「ほら、抜け出すで!早くせんと番人くんねん!」

「番人て看護師のことか?なんだよ番人って」

半ばそのアホさに釣られて僕はかりんとこそこそと部屋を抜け出した。


しばらく歩くとかりんは僕に「あっ!忘れとった!はい!トナカイ帽子!」

「はぁ?嫌だよっ!」

「ほらっ!ほらぁ!はよかぶらなばれてしまう」

「いやその格好のがバレるから」

僕は半ば笑いつつもその久々のアトラクション感に呑まれてトナカイ帽子をかぶった。


「にあっとんなぁ!さすがトナカイ!」

「意味わからへん」

くだらないやり取りをしながら僕らはなんとかこの格好で屋上まで登った。


「ねぇ、なんで屋上なんだよ」

「なにって!サンタといえば煙突からやろ!」

「いや病院に煙突ないから」

「何言ってんねん!あっちや!あっち!」


かりんは少し遠くにある煙突らしき物を指さした。


「ねぇ...あれたぶん...銭湯じゃない?」

「へ?あっあれや!銭湯やなんやとりあえず煙突やねん!あれやろ?銭湯やて煙突や。ゆげでとる!煙でとるからな!うん!」


無理くりだな...と思いながらも僕らはその煙突をひたすら0時になるまで眺めた。


「...なんもないよ、帰ろうかりん」

僕が帰ろうと後ろを向いたその時だった


「きっきたぁーーーー!!!!サンタやサンタ!ほらみぃ!こっちきとんねん!仲間やでー!おーい!」


かりんが大声で叫び出した。

「ちょっ...かりんまずいよ!人がく...」

僕はかりんを止めようと煙突の方へ向き直る。


息を呑んだ。


「え?」


そこにはこちらに向かって空から舞い降りてくるサンタとトナカイ。手には大きな袋を抱えていた。


「ほらな!おったろ!プレゼントくださーい!」

とっ捕まえるんじゃなかったのかよ...とふと思いながらもその姿をみて笑いが止まらなかった。


サンタが舞い降りて僕とかりんにプレゼントを渡す。


「メリークリスマス!」

サンタはそう一言だけ告げてまた空へと消えていった。


かりんと僕は嬉しくてそこで封をあけた。


僕の中には小さな開き型のハートのペンダントがはいっていた。僕がそれを開こうとするとかりんはその場で泣き崩れた。

「まっ間に合ったんやな...よかった...ありがとうサンタさん...」


僕はかりんが泣くのをはじめてみた。

「あっああそんなに、嬉しいものだったのかよ?みせてよ!」

「あかん!」

かりんは怒って走っていってしまった。

「なんだよ...」


僕はひとりで部屋に帰ろうとするとそこで意識がとんだ。


目を開くとそこには父親と母親の姿があった。

「あきとき!あきとき!」

父親と母親は泣き崩れながら僕の手を握った。


数日がたって僕はその事実を知ったんだ。


あぁ...かりん...間に合ったってこのことやったんやな...僕はハートのペンダントを開く。


そこにはかりんのいつもの笑顔があった。


僕はハートのペンダントをぎゅっと握ると

くしゃくしゃの手紙をみていった。


あきときの病気が治りますように。

かりんはずっとあきときのなかにいるよ。

サンタさんお願いします。

かりん。


僕は窓の外のあの日に知った寒さの彼方に呟いた。


かりん。これからは一緒に生きていこう。

来年も再来年も。これからはずっと一緒のクリスマスだ。ありがとうかりん。メリークリスマス。



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