Merry Xmas_十色の幸せ_

わて子

第1話 Merry Xmas_なおとゆき編_

寒い朝だ。街はクリスマス一色だってのに

俺はいつもと変わらず仕事をこなす。


俺の仕事は彼女を喜ばせること。

といってもただのレンタルで。


数時間何万という大金を払って、客は俺に会いにくる。俺はいつも客に応じてカメレオンのように服装も髪型もキャラクターも演じてみせた。


今日もいつもと変わらない毎年恒例のクリスマス。

こぞって客は俺をレンタル彼氏にしたいと依頼が殺到する。


クリスマスやバレンタインなどのビッグイベントは争奪のため、前々予約はなしで当日オープン1時間前からの予約をうちの事務所は開催している。


「ピロン...」

LINEの音が鳴る。


「なおくーん、クリスマス争奪戦!なんと1位!!ご新規でうまりでぇーす!!おめでとぉー!」

受付のギャル女ひかりが大声で放つ。


「うっさ。仕事。内容。早くしろ」


こうゆうギャル女は軽々しくて苦手だ。


「なおくんはいつもつれないなぁ...顔はイケメンなのにうちのトップくん!ひかりが相手してあげてもい、い、んだ、よ!」


「.....」「....」「....」


「はぁ...もうつまんないなぁ!はぁい!

お客さぁんじょうほおっ!」


【ゆき】写メ。

20時〜21時

20歳。

お兄ちゃんみたいな人がすき。

優しくしてほしい。

クリスマスツリーが見たい。

以上。


「は?これだけ?」


「うん!」


「うん!じゃねぇよ...他に要望とかねぇの?」


ひかりは事務所のパソコンをくるっと俺にむけると

「ほら!」と笑顔で笑う。


「....」

大抵レンタル彼氏ってのは、綺麗系の服装の人が好きです!とか一緒に買い物にいってほしいです!とか友達の前で紹介したいです!とか...なんだけどな...クリスマスツリーがみたいって...ガキかよ...


「うん!いってらっしゃーい!デート場所はなおくん指定だよん!」

って俺の話を聞く様子もなくひかりが発する。


この尻軽女め。と思いながら俺は

「....いってきます...」と一言だけ呟いた。


ひかりから得た情報の中で唯一わかることは、相手の顔、年齢、クリスマスツリー、お兄ちゃん、優しい、、、のみ。


20か...

俺とおんなじくらいだな...

この手の清楚系の女が好きなお兄ちゃん系ね...


適当に事務所にある服を漁り、俺はスーツに身を包んで待ち合わせ場所へ向かった。


午後20時半

俺は待ち合わせ場所は向かうと、今日のデート空いてゆきを探す。


「......、30分経過....、いない。」

大抵客は時間前には到着している奴しかいない。

この仕事ではじめての事だった。


仕方なく事務所へ連絡をとることにした俺はスマホを取り出す。


「客いない、連絡きぼ...」

変換をしようとしたその時だった。


どすん!バキ!

背後からちっこい何かが俺にタックルしてきた勢いで落としたスマホを踏んでしまった。

「おにいちゃん!」


「は?」

おおおおおおお!!!!スマホがぁぁ!


俺が怒りに震えながら振り向くとそこにいたのは、小さな子供だった。


「へ?ちょ!ガキ!こら...あっいやえっと...お兄ちゃん間違えちゃったかなぁ?ママはどこかなぁ?」


「ゆき!お兄ちゃん会いにきた!」


「....えーとゆきちゃん?えーとあのママ?あーお兄ちゃんはどこかなぁ?」


「ままいない!お兄ちゃんここ!」

というとゆきと名乗るその子供は俺を指差して

お兄ちゃんと呼んだ。


「えーとゆきちゃん?お兄ちゃんはね、お兄ちゃんじゃないんだよ?えーと本当のお兄ちゃんの名前は?」


「お兄ちゃんの名前はなおくん!なおくん、お兄ちゃん!」


「....」

え?もしかしてデート相手?

え?いやないよな...20歳以上だし...

いやぁ携帯いじれるようには思えな...

いやまて嫌がらせ?いやまて...最近の子供は携帯とか使えるのか?...と考えを巡らせていると目の前のゆきは言った。


「ゆき、お兄ちゃんとクリスマスツリーいく!」


固まった。

どうやら今日のデート相手らしい。

仕方ない。事務所は連絡...と落ちたスマホに目を向ける。

「....再起不能...」

この言葉で全てがわかるだろうか。


「えーとゆきちゃん?あのね、お兄ちゃんとっても忙しいんだけど...携帯もってる?」


「うん!ほら!なおくんお兄ちゃん!」


ゆきの持つ携帯をみるとそこには事務所宛へ俺とのデート内容が記されていた。


なぁぁぁぁぁぁ!!!!と心の中で叫びつつ

「ゆきちゃん、この携帯は誰がいじったのかな?」


「ゆきちゃん、お兄ちゃんなおくん!クリスマスツリー行く!」


おいおいおいおい....

日本語通じてるかガキ....

これは...まず交番へ...

「ゆきちゃん?ちょっと一緒におまわりさんのところいこうか?」


「ゆきちゃん!!!お兄ちゃんくりす...くりすますつりっつりっ...うっううっ」


泣くーーーーーー!!!!!


まっまぢか...

落胆...


「あっあっわかっ!わかったから!クリスマスツリー見にいこう!」

俺は咄嗟に放った言葉を後悔した。


とりあえず一銭にもならないこの仕事を

俺はゆきとなのる彼女の為にクリスマスツリーをその辺でみせたら交番に行こう。事務所は直行して別予約を...と考えてそこから一番近いクリスマスツリーのあるイルミネーションが並ぶ綺麗な都会の街へゆきを連れ出した。


カラフルでライトアップされたその並木道は、大勢のカップルで賑わっていた。俺ら二人だけがまるで異空間にいるようなそんな感覚だった。


「お兄ちゃん!綺麗だね!クリスマスツリー!」

ゆきはクリスマスツリーを知らないのだろうか。

ライトアップされた並木道をクリスマスツリーと勘違いしたらしい。


「ゆきちゃん、これはクリスマスツリーじゃないよ。クリスマスツリーはこの先にあるんだよ。」


「クリスマスツリー!まだ!クリスマスツリー!いく!」

ゆきは嬉しそうにスキップをして俺の手をひいた。


「そうだね、いこうか。」俺はなんだかその姿が可愛くとほっこりしながらふたりでクリスマスツリーを目指して歩いた。


「ゆきちゃん、クリスマスツリーだよ!」

俺が振り返るとゆきはキラキラの瞳を輝かせていった。


「クリスマスツリー!とっても綺麗!綺麗!大きい!綺麗!お星様!」


俺らは手を繋ぎながら大きなクリスマスツリーを眺めながら何度も綺麗だねと呟いた。


10分が経っただろうか...

突然雪が降り始めた。


「あっ雪だ」

俺が隣を見るとゆきはニッコリ微笑んで、「なおお兄ちゃん!ありがとう!クリスマスツリー綺麗!またみにくるね!」

そう言い残すとゆきは雪のようにサッと姿を消した。


今まで繋がれていた手はまだ暖かった。


ゆき、ある日消えた俺の妹。

逢いにきてくれたんだな。

俺は溢れ出る涙を流さぬように

舞い散る雪を眺めていった。


「ゆき、ホワイトメリークリスマス。ありがとう」





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